短編 雪原に夜を隠して 一つ、二つと降り始めた雪の気配に、イタカは夜空を仰ぎ見た。
冬の澄んだ夜空に星が散らばり、まるでその星たちが落ちるように雪の結晶が舞い降りている。
イタカは大きく口を開けた。
もう、記憶も定かではない。
遠い、遠い昔の頃。
星屑を食べてみたいと夢見ていた事を思い出したのだ──。
一つ、二つと雪が降るが、思うように口に落ちてこない。
大人になれば何でも出来るようになると思っていたが、今の自分は幼かった頃よりも出来ない事の方が増えたようにもイタカは思えた。
珍しく感傷的になる自身にイタカは短く嘆息し、口を閉じる。
全て寒い冬のせいにして、ゆっくりと視線を元に戻す。
すると、正面に見知った影が現れる。
1943