〇〇しないと出られない部屋シリーズ(……寝て、たのか)
目が覚めたとき、真っ先に視界に飛び込んできたのは見覚えのない天井だった。
ゆっくりと呼吸を整えながら、重たい身体を持ち上げる。ベッドの上にいる——それはすぐに分かった。けれどそこは、見知った自室でも、ミネルバの医務室でもなかった。天井も、壁も、床も視界の端まで白一色の光景に思わず眉を顰める。
意識はまだぼんやりと靄がかかっていて、周囲の違和感ばかりが際立つ中でふと記憶が蘇る。
操縦桿を握る手が震えた感触。通信越しに聞こえた、キラの声。
そして、あの時——。
『カガリは、今泣いているんだ!』
ぎゅっと、心臓が嫌な音を立てた。
全てを奪われたような、あの瞬間が脳裏に焼きついて離れないその言葉。迷い、怒り、自分を正当化する言葉を探しては何もかもが崩れていった、あの瞬間。
それからというもの、眠れない夜が続いた。食事も、味がしなかった。
「……ここは……どこだ……」
かすれた呟きが漏れる。あまりにも弱々しい声が自分のものだと理解するのに、少し時間がかかった。身体を起こして、もう一度辺りを見回す。ありえないことだが、出入り口が見当たらない。窓も時計もない。ベッドだけ鎮座する、閉ざされた空間。
ふと、視界の隅——布団の中に不自然な膨らみがあることにようやく気が付いた。
自分の隣で、誰かが寝ている。
それはかつて、ラクスの替え玉となるミーアが勝手に部屋に入り込んできた時とよく似ていた。その後何故か部屋を訪れたルナマリアに誤解され、何故か棘のある言葉を言われて散々だったことを思い出した。あの時はハイネも……。
(こんな時に、一体何をやってるんだ)
「……っミーア!君、いい加減に……っ!」
怒りに任せて布団を捲る。問答無用で突き出してやろうと思っていた。
「〜〜っ!?」
露わになったのは、桃色の髪ではなかった。眩いばかりの金色が、視界に広がる。
その姿を、アスランは見間違えようがなかった。
こんなところにいるはずのない彼女が——自分と同じ布団の中で、穏やかに眠っていた。以前クレタで会った時よりも髪がわずかに伸びていて、寝乱れた前髪が頬にかかっている。唇はほんのりと色づいていて、くうくうと寝息を立てている。
混乱のあまり身体が勝手に反応し、勢いよく後ずさった。バランスを崩し、ベッドから床へと落ちる。
「うわっ……!」
鈍い音と共に背中を打つ。身体中に走る痛みも、冷たい床の感触も生々しい。
夢、じゃない。
夢なら痛みなんて感じる筈がないのに、以前と同様の痛みが走る。その衝撃に反応するように、ベッドの上のカガリがふるりとまぶたを震わせた。その隙間から、次第に琥珀の瞳が覗いてくる。
アスランは、咄嗟に叫んでいた。
「カガリ……!なぜ、君が……!?」
「んぅ……?」
まだ完全には目覚めていないのか、うとうと瞼を瞬かせている。こんな状況なのに、あまりにも穏やかな様子に戸惑いが隠せない。
アスランはベッドに這い上がるように身を乗り出し、確かめようとした。だがその瞬間、別の事実に気がついた。
カガリが身につけているもの——。
それは、透けるような、レース地のネグリジェだった。
薄布の下に浮かぶ身体のラインは、かつて見知った少女のそれではなかった。驚くほど女らしく、成熟している。
曲線を描く腰のくびれ、滑らかに伸びる脚線美。そして何より視線を奪われたのは、その白い胸元だった。
薄絹の奥、明らかに布地の形を変えて盛り上がる双丘。レース越しにも分かるほど、しっかりと豊かに育ったその胸は、重たげに揺れながら彼女の呼吸に合わせて上下していた。
それはあまりにも無防備で——。
(な、なんだその格好は……!?)
魅惑的な姿に、息が止まりそうになる。目の前が真っ赤になって、理性が警報のように鳴り響く。こんなカガリの姿をアスランは一度たりとも知らなかった。
彼女が、こんなにも——。
無人島で出会った時のことを、ふと思い出す。
濡れたインナーの下から覗く、柔らかそうな白い膨らみ。偶然に目に入った彼女の姿は、今でも目に焼きついて離れない。
戦いが終わり父親の意思を継いだ彼女は、オーブの代表首長としてがむしゃらに奔走する内にどんどん痩せ細っていった。後ろで憂うことしか出来なかったのに、今ここにいる彼女は明らかに様子が違う。
輪郭が変わり、線が柔らかく丸みを帯びている。その身体は布越しでも豊かで、女性としての成熟を何より雄弁に語っていた。
こんな彼女を、自分は知らない。
誰の手によって、ここまで変わった?
何を選んで、何を失って。誰のそばで——ここまで大人になった?
愛しい彼女が、知らない誰かのように見える。その事実に、マグマのように沸き立つ感情と、どうしようもない胸のざわめきが身体中を駆け巡る。
心臓がどくどくと跳ね、ごくりと唾を呑み込む。言葉にならない動揺が、全身を駆け巡る。
しかし、当のカガリはふにゃりと微笑んで、目を細める。小さく伸びをしながら、首を傾けた。
「ん……ふぁ……。なんだ、今日は早いな……おはよ、アスラン」
あまりの光景に、くい、と弱い力でひっぱられてそのままベッドに座り込む。自然に身体を寄せてきて、膝の上に乗り上げられた。
ふわり、と腕がアスランの首に回された瞬間——。
柔らかい感触が、胸元にふにゅりと押し当てられる。それははっきりと形を持ち、弾力を伴ってアスランの胸筋に沿うように沈んでくる。インナー越しにも伝わる、確かな熱と質量に、思わず息を呑む。
至近距離から漂うのは、石鹸とは違う芳しい香り——いつの間に、こんな匂いを纏うようになったのか。困惑で身動きが出来なくなる。
温度が伝わるくらいの距離で、触れ合っている。
こんな距離感、久しぶりで。頭が、真っ白になる。
唇に、ちゅ、と柔らかいものが重なった。
「……っ」
思考が完全に吹き飛んだ。視線を逸らすことが出来ず、言葉が出ない。それがキスだと気づくまでに、数拍の遅れがあった。遅れて全身が火照り、意識が唇に集中する。
目の前にいるのは確かにカガリだ。だが、彼女はこんなにも柔らかく笑う人間だったか?こんなにも、幸せそうに。
彼女のこんな表情を見たのは、いつぶりだろう。
「……あれ。お前、なんかちいさくなった?」
カガリが、のんびりと首を傾げた。
アスランの赤くなった顔を覗き込むように屈託のない琥珀の瞳で、愛おしげに——まるでいつものことのように——見つめていた。
***
〇〇しないと出られない部屋なら何をしても良いと聞いたので……!
今何を書いてもシリアスな展開になってしまう病に罹っていてこの話でも何故かそっち方面に行きかけたので、もしよろしければ好きな組み合わせ(設定)とお題を送っていただけますと……大変助かります……😭
唯一決めているのは自由ランと×運命元気ない期ピで『母乳を出し切らないと出られない部屋』(誰にも体を許したことがないのにこれじゃ勘違いされる、嫌われると思ってぼろぼろに泣きながら思いを伝えるピとそんなピを見て情緒がむちゃくちゃになるラン)になります。
対戦よろしくお願いします!