どうぞよしなに無条件の肯定に、涙が出るくらい力が抜けた。アレはなんだったのだろう。それをぼかして相談すればカガリ・ユラ・アスハはアストレイの三人娘にけしかけられた。何故だ。私は知り合いの話をした筈なのだが。そう思いながら彼女は無重力を渡り歩く。
(………)
うれしかった、と思う。初めての種類の幸福の実感だ。カガリはぽつぽつと整理しようとするが、顔が熱くなってきて、どうしたらいいのかわからなくなる。「そういう意味ですよ」と言われたが、どういう意味なんだ。いや、わからないわけではないけれど、経験がない。初めての出来事にどう対応していいのかが彼女にはわからない。正解の無い案件である。
『カガリ様は、どう思ってるんですか?』
どうって。アスランはアスランだろ。そう思いながら言葉にしていく。不思議なやつだと思う。やさしいやつだと思う。傷だらけで、危なっかしいのでほっとけない。あとは、…あとは?
カガリが探し人を見つけた時、案の定アスランは展望デッキに一人でいた。また何か考え込んでいるのだろうか。
「アスラン」
「――…カガリ」
普通に呼びかけることができたのだ。そのまま有耶無耶にもできたかもしれない。けれど顔が見えない。カガリは声を聞いただけで顔を逸らしてアスランの足元を見た自分に驚いた。
「あ、 の おまえ」
どうして自分がこんな確認のようなことを口走ったのかカガリにはよくわからなかった。なんでこんなわけのわからないへんな反応をしているのだろう。緊張を吐くように声を出した。言ってしまえばスッキリするような気がした。
「こ、恋人ってことでいいのかっ?」
「………うん」
うん、てなんだよ!とカガリは思って顔を上げる。そして、呆けているような相手の顔を見て気が抜けてしまった。翠色というものはやさしい色だと思った。目が引き寄せられる。
「…大丈夫か?」
相手は無防備であどけない表情をしていた。
カガリが手を伸ばしてその頬に触れれば滑って撫でるような形になる。一瞬動けなくなった。見つめられて動けなくなるとか、そんな怪物の話あったようななかったような。それ、たぶん、みとれてうごけなくなったんだろう、なんて思うくらい、ひたすらに。真っ直ぐな緑が自分の指先を、親を初めて見たような雛鳥のようにじっと見ている。頬から離せばそのまま真正面から見つめられる。どうしたらいいのかわからなかった。カガリは目の前の少年がとても可愛くて、かわいくて、なんだか照れた。混乱する。
「じゃ、じゃあ、よろしく…? …またあとで」
背を向けてカガリは立ち去った。撤退だ。なんか、ワーってなるので撤退だ。顔が熱い。ふわふわしてる。地に足が着かない。当たり前だ、無重力にいる。
***
転換期があるとすれば、彼女を意識してしまった時だ。
おかしなやつ。おもしろいから、眺めていたいような、笑ってしまうようなそんな感じだとアスランは思っていた。ズケズケした物言いでも陰湿さが無いので、ムッとするところがあっても憎めない。むしろ素直さ、真っ直ぐさが親しみを感じさせ、何度無意識に笑ってしまったかわからない。無防備さに放っておけないような子供扱いもあったかもしれない。会えば会っただけ親しみは湧いた。カガリといる時だけは呼吸が驚くほど楽になる。
それが、どうして、こうなったのか。
親しさをこの上なく感じているのに、友人だと言われると納得できない自分がいた。
一度自覚してしまったら、もう駄目だった。彼女のすべてを肯定したくなるような盲目に眩暈がした。状況が状況なのに、会えば胸にあたたかなものが灯るような感覚に自分が作り変えられてるように、どんどん、急激に育っていった。
ひとをだきしめたいと動くことがあるなんて、知らなかった。
***
部屋にどうやって戻ったか記憶が無い。そんな馬鹿みたいなことを働かない頭が認識している。アスランは空間に浮かぶ自分の身体をコントロールせずに無重力に任せていた。壁に背中があたる。目を閉じても情報過多だ。
「………」
なんだこれ。嬉しさで思考ができない。