【ブラ晶♀】指輪 カラン、とグラスの中で氷がひそやかに音を立てた。ほんの少しのお酒の匂い、アイスティーの花みたいな香り、シャンデリアのひかりの揺らぎの中で、交わす言葉がだんだん少なくなっていって、最後の一音がとうとう沈黙へと溶けた。刹那、指先に微かな緊張が宿った。私はしずかに眼差しを逸らした。だからあなたの表情はわからなかったけれど、すこしの息遣いがやけに鮮明に聞こえた。そうして続くのは、ほんのわずかな衣擦れの音と、どこか重たく硬い音。ことん、と。膝に落とした視界のふちで、鈍くきらめく指輪がテーブルに置かれる。それはささやかに音の重みを変えながら連なって、四度目の、のち。
耳に残る響きの残余が消えると同時、
「――晶」
と、あなたが私を呼ぶ。その低い声音は私の正常な呼吸を突然に奪う。短く上擦った呼吸をこぼして、揺らめく眼差しを上向ければ、ほのかに甘いロゼが私を捉える。途端にすべての動きが奪われたように硬直して息も止めた私の頬に、骨ばった指先がそっと触れる。あやすみたいに、優しく。だけど、惑わすような危うさをひそませながら。
普段饒舌なその口は今は一切を語らない。それでも、触れる指先の温度に、熱を孕んだ眼差しに、言葉なく導かれて、私はあなたと同じタイミングで目を閉じる。そうしたら、その先は甘く苛烈な酩酊。
私を滑らかにたどる指先は、あえかに、薄闇の色合いに白む。そうして花びらを剥くように、私の奥底を容赦なく暴く。
だけど、ほら。
は、と熱い息をこぼす私の頬に触れる指先はやっぱり、あやすみたいに優しい。あきら、の囁きの次にくちびるに降りたキスも。
込み上げる甘美が、兆しを経て弾ける。視界のふちで、四つ並んだ指輪が鈍く重たくひかった。