【ヒス晶♀】たった一夜の恋人 元の世界へ帰る方法が見つかった。
数々の苦難を乗り越えて、数々の嬉しさを分かち合って、心を繋げた、私の魔法使いたち。彼らの魔法――彼らの心から生み出されるシュガーをそれぞれ二十一人分、エレベーターへ投入してレバーを下ろせば、私の願う場所へ導いてくれる、という話。
傷だらけだったこの世界。壊れかけだった美しい世界。もう〈大いなる厄災〉と呼ばれることのない月の、ひかりに浸った美しい夜。
遥か下方に街並みがあって、そう遠くない高みに夜空があった。風は星の瞬きをはらんで、世界をすべらかに流れてゆく。
風の営みを耳元で感じながら、私たちは空を飛んだ。いつも通りを取り繕うための、他愛のないお喋りはいつのまにか途絶えて。風の響きに包まれて、箒に跨るヒースクリフの腰へ遠慮がちに手を添えて、彼の肩越しに、美しい世界を眺めていた。
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