シスターはお見通し金曜午後九時半。エンジェルズシェアの二階。外へと続く扉から出たバルコニーで手すりにもたれている影が二つ。ロサリアとガイアだ。
「星の数ほど人はいるのに、なぜあなたとこんな辛気臭い呑み方をしないといけないのかしら?」
手すりに背を預け右の空を見上げると天の川が流れていて、ロサリアは城内からの夜空を懐かしく思った。星を肴に赤ワインを口にする。
「奢るって言ったろう?誘いに乗ったのはお前だぜ」
ガイアはそう返して、シードルを瓶口から直接飲む。瓶口を押さえるように右手で持って両手を手すりの外に投げ出し目を瞑った。
「ハァ、そうね………それで?オーナー様からの“デートのお誘い”、断るの?受けるの?どうする気よ」
ロサリアは空からガイアへと目線を移す。
「デートな訳あるか。お前も知ってるだろう、ディルックには意中の相手がいる。どうせ買い物や食事先の下見に付き合わされるだけだ」
ガイアの返答はロサリアを少し苛つかせた。
(本当にそう思っているわけ?普段は鋭いのに、自分に対してだけなんでこんなに鈍くなるのよ。)
「ここ数週間はディルックの想い人の話でモンドは持ちきり。想い人がガイアの可能性は無いの?君たち最近仲良いでしょ」
「無いだろ、そんなこと」
ガイアは口をすぼめしりすぼみに言う。
シードルの前に午後の死を二杯飲んだガイアは酒が回ってきたようだった。ロサリアはワイングラスを大きく傾け中身を飲み干すと、注文をするから中に入ろうと促した。室内に二人が入り扉が閉まる。二人の声が消えた後のモンド城裏門近辺には、パットンが道行く人にタイムサービスを呼びかける声だけが響いていた。
◇
素面の時のガイアはよく話す。だが、酔うと口数が少なくなる。ロサリアが知る限りガイアが酔うのはロサリアとディルックの前だけで、酔った時の彼は大人しく、素直で、茶目っ気のある青年になるのだった。
続