しゃんとしろ。真冬が来てる、目が合った瞬間
嬉しいような、恥ずかしいような、でもほっとしたような気持ちで、涙が溢れそうになった。
一方的に真冬に聴かせたかった曲、由紀が真冬に聴かせたかった、作りかけたままの曲。
ずっと傍観を決め込んでいた俺の単なる罪滅ぼしのような完全なる自己満足。
俺一人の力じゃ作れなかったし、真冬を動かすこともできなかったのだと思う。
あの日、ギターを背負ったお前を見かけるまで俺たち四人の季節はずっとあの冬の日のままで止まっていたから…。
真冬がギターを弾きたいと動き出したから、俺たちの季節は少しずす雪が溶けていくように動き出したのだろう。
ギターを弾いてくれてありがとう、自分の気持ちははわからないと俺に教えてくれてありがとう、由紀もよく聴いていたあの曲を歌ってくれてありがとう。
上ノ山を俺たちに貸してくれてありがとう。
今だけは、この曲だけは真冬にだけ届くように歌うよ。
…届くかな。
すげぇ、怖いけど…
多分、由紀はこの曲を宝箱に宝物を詰め込むみたいに作ってたんだ。
俺だって全部は知らないけど、初めて聴いた時にそう思ったんだ。
あぁ、これは真冬に贈りたい中身の詰まった宝箱みたいだって。
届くかな、由紀がお前に聴かせたかった音が…
想いが…
「一曲目、ー」
あぁ、声が震える。
ビビってんのか、俺…。
しゃんとしろっ、真冬に聴かせるんだろ
「きいてください」
大丈夫、いっぱい練習したんだ。
ビビるなっ、出来るっ、歌えるっ
「海へ」
"柊"
〜っ
歌えっ