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    summeralley

    @summeralley

    夏路です。
    飯Pなど書き散らかしてます。

    ひとまずここに上げて、修正など加えたら/パロは程よい文章量になったら最終的に支部に移すつもり。

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    summeralley

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    マスター💅、バーテンダーぴ、客🍚がじわじわと距離を詰め三角関係に陥る予定の連載です。が、見てて辛いギスギスはないです。
    ネイPシーン多めに書くつもりだけど、最終的に飯Pに帰結するはずなので繊細なネイP派の方は避けてね。

    #二次創作BL
    secondaryCreationBl
    #腐女子向け
    #飯P
    #ネイP
    nayP

    【飯PネイP】煙るバーカウンターにて/01ウォッカトニック 大人になるにつれ飲酒の場面が増えるとは、大学でもさんざんに聞かされた。自分の飲める量を把握しておかないと、痛い目に遭うと。
     ところが実際は、把握していようがいまいが、飲まなければいけない場面は出てくる。今がまさにそうだ。お世話になっている教授に「もう一軒」と言われれば、上手く断る術をまだ僕は知らなかった。
     賑やかな飲食店の並ぶ表通りから、少し入り込んだ裏通りは雑多な印象だった。車止めに座り込んで話し込んでいるのは、学生だろうか? ビルとビルの間には不穏な暗闇が蹲り、通りに輝くネオンのせいで余計にその陰を濃くしていた。
     教授がビルの階段を上がって行くので、僕もついて行く。もう大人だが、夜の街には慣れていない。こういうビルには、何か悪いものが潜んでいそうで、一人では絶対に踏み入らなかっただろう。
     二階は今日の営業を終えた洋食屋と怪しげなカレー屋、三階は居酒屋が並び炭火と油の匂いに満ちている。四階の一番奥に、その店はひっそりと構えていた。
     小窓のついた木製の扉を押し開こうとすると、かすかな話し声が聞こえた。
     カウンターの内側で、二人の店員が互いに身を寄せ合ってリキュールのラベルを覗き込んでいた。囁き合うような声が、客のいない店内にひそやかに漂っている。片方は微笑を含んだ声だが、もう片方は低く抑えた声だ。
     ふと、奥の店員が手前の店員の腕を引き寄せる。一瞬の無造作な仕草が、却って親密さを滲ませていた。親しい友人同士の戯れにも、恋人同士のじゃれ合いにも見え、妙に艶かしい……手前の店員がラベルから目を上げ、二人の視線が交わる。無言のやり取りに甘やかな空気を感じ、僕は怯んだが、教授は意にも介さず扉を大きく開け、声をかけた。
     「二人だが、いいかな」
    「……いらっしゃいませ、お好きな席へ」
     入口の僕らへ目を向け、奥にいた店員が微笑んだ。一瞬で、先程までの空気は雲散する。
     店員は二人とも長身で、このあたりでは見ない面立ちだ。背格好も膚の色も、よく似ていた。教授がカウンターへ座るので、僕もそれに倣う。
     お酒だけの店は、はじめてだった。ほの明るい暖色の照明に、一枚板のカウンター、小さなテーブル席が二つ。カウンターの左端の天井からは、複雑な紋様の手織りのカーテンがかけられ、目線を遮っている。
     「はじめてのお客様ですね。店主のネイルです。何になさいますか?」
     思いのほか明るく、マスターは尋ねてくれる。対して、もう一人の店員――バーテンダーと言うのだろうか――は軽く頭を下げただけで、名乗らなかった。険しくさえ見える表情で、取っつきにくそうだ。
     カウンターの奥の壁は全面が棚になっており、酒瓶が隙間なく並べられていた。教授はそれを眺めながら何やら話しているが、僕にはさっぱり分からない。まごついていると、バーテンダーが話しかけてきた。
     「なにか、好きなお酒は?」
    「いえ……特には……」
    「では、お酒は強い方ですか? 今日はもう、何か召し上がりましたか?」
     一見、無愛想に思われたが、マスターのようににこやかにではないものの事細かに尋ねてくれる。あまり自信がある方ではないこと、来る前の食事や既に酔っていることなどを伝えると、ほとんど思案する様子もなくグラスを手に取り氷を入れた。
     若葉色の手が静かに瓶を傾ける。ラベルには、ラム、と記載がある。二つ目の瓶から注がれているのは、色合いからすると柑橘系の……お酒か、ジュースかは分からない。
     「グレープフルーツジュースです。ソルクバーノという、度数の低いカクテルをお作りしますので」
    「ああ……助かります、どうも」
     心を読んだかのように、バーテンダーの穏やかな声が告げた。既にかなり飲まされ、はっきり言って不安でいっぱいだった僕はほっとする。
     差し出されたカクテルはやさしいカナリア色で、輪切りのグレープフルーツが飾られていた。一口飲んでみると、確かに強いお酒ではない。軽い飲み心地で、この程度なら、グラス一杯くらい飲んでも大丈夫そうだ。
     漸く人心地ついて、僕は改めて店を見回した。マスターとバーテンダーはそっくり同じ白のシャツと黒のベストで、すらりとした長身の彼らはそれだけで映画の登場人物のように魅力的だった。少し振り向いてみると、テーブル席の奥の壁には小さな絵画が飾られている。カウンターの右端には一抱えもありそうな花瓶が置かれ、花をつけた桜の枝が飾ってあった。
     「我々は研究者だがね、マスター。この孫君は若いのに優秀なんだ。彼の研究には目を見張るものがある」
    「お二人はどんな研究を?」
     ずいぶん酔って上機嫌の教授の話に、マスターは相槌を打っている。お酒を出す店の店主に相応しい、愛想のよさだ。
     僕にカクテルを作ってくれた彼は会話に加わるでも、離れるでもなく、時おり目を上げて聞いていることだけを示しながら、僕の前でグラスを磨いていた。不思議な色の膚が、モノトーンの服装によく映えている。マスターも似た色の膚で、立ち居振舞いや笑顔から舞台俳優のように華やかだったが、目の前の彼は寡黙であるが故の、妙な色気を感じさせた。
     店内には、穏やかなピアノ曲が流れていた。教授は僕にも話を振りながら、専門家でなければ分からないほど詳細に研究の内容を話しており、かなり酔っていることが察せられる。
     マスターは卒なく会話に応じながらも、時おりバーテンダーの彼に目を遣っては常にその様子を気に掛けているようだった。彼の方でもマスターの目線にはすぐ気付くようで、二人がまなざしを絡め合う瞬間、わずかに目元が和らぐ。言葉なしに意思のやり取りをしていることが伝わってくる。アルコールのためか、そのまなざしの交錯がひどく艶っぽく感じられ、僕はたびたび二人の横顔にじっと視線を注いだ。
     やがて、教授のグラスが空になる。二杯目を頼み、僕のグラスも残り少なくなっているのを認めた。
     「この子にも何か、もう一杯」
    「ピッコロ、任せるよ」
     もう結構です、と言いそびれてしまった。ピッコロと呼ばれたバーテンダーが、カウンターの下から大きめのタンブラーを取り出す。あんなに大きなグラスでは、いま飲んだのと同じくらい弱いお酒でも飲みきれるか分からない。動揺に支配されている内に、たちまちカクテルが作られ差し出された。
     「ウォッカトニックです」
     ウォッカ!
     僕でも、ウォッカが強いお酒だということくらいは知っている。
     注文されたことに狼狽えてしまい、作るところをよく見ていなかった。トニックと名前についている以上、アルコールではないトニックウォーターで割ってあるのだろうが……カクテルに詳しくないから、どのくらいの比率なのか、どのくらい強いものなのか分からない。かといって尋ねて不安を晒しては、上機嫌で僕に薦めてくれた教授の気分を害するかもしれない……。
     透明なタンブラーに、透明な炭酸水が満たされ、くし切りのライムが浮かんでいる。動揺と緊張のせいか、今まで飲んだお酒も急に回りはじめてしまった。
     「とても飲みやすいカクテルですよ」
    「……」
    「大丈夫です」
     低く囁き、早く飲めとでも言うようにグラスをこちらへ寄せる。じっと覗き込む瞳は笑みこそ浮かべていないが、大丈夫、と繰り返していた。失敗したらあなたのせいだという気分で、僕は自棄になりグラスを持ち上げた。見た目はただの炭酸水のようだ。氷とライムが、グラスの中で揺れ動く。
     一口飲み下したそれは、本当に、ただの炭酸水だった。
     正確に言えば、トニックウォーターの、香草の風味はある。なみなみと注がれたトニックウォーターに、ライムを一切れ入れた、それだけのものだった。アルコールは、まったく含まれていない。
     気付いていたのだ、僕がもう飲めないということ……また、それを言い出しかねていることに。大きなタンブラーで出してくれたことにも、ずいぶんなみなみと注いでくれたことにも、その意図を感じることができた。
     慌てて顔を上げるが、彼は……ピッコロさんは、そ知らぬ顔でグラスにミネラルウォーターを注ぎ、ライムの切れ端と氷を入れて長いスプーンでかき混ぜていた。氷の触れ合う涼やかな音が、耳を擽る。同じものを二つ作り、片方をマスターへ差し出す。僕の方は、ちらとも見てくれない。目を合わせれば、未熟な僕が何か反応してしまうと分かっているのかもしれない。
     氷に冷やされた炭酸水が、清々しいライムが、限界に近かった酔いを覚ましてくれるような心地がする。視界が真っ直ぐに整いはじめ、手足の気怠さも解消される。
     その後も目が合うことはなかったが、マスターと違って笑顔ひとつ見せないピッコロさんの横顔から、僕は目が離せなかった。
     翌朝、研究室で会った教授は二日酔いの顔だった。
     「昨日は悪かった、遅くまで……にしても、最後に行ったバーはよかったね、テナントサインを見て適当に入ったが、感じの良いマスターだった。もう一人は、ずいぶん物静かだったが」
    「いえ、優しくて良い人でしたよ、すごく」
    「そうか……ならばまた行こう。しかし酔っていたせいで、場所も店名も忘れてしまって……孫君、覚えているかな?」
     もちろん場所も、『Veil』という店名も、ピッコロさんの名前も、その爪が黒真珠のように艶やかだったことも、すべて覚えていた。しかし……。
     「……僕も、忘れちゃいました。残念です」
     真実をヴェールで覆い隠し、僕は空惚ける。今度は一人で行って、ピッコロさんともっと話してみたい。お礼を言って、あの人がどんな人なのか、もっと知りたい。「大丈夫」と囁いた声で、僕にだけ教えてほしい。
     薄暗いバーカウンターの奥からトニックウォーターを差し出す、指の長い手を、思い出していた。
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