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    あすと

    @aaast

    成人向け🔞NSFW / 全員受けで全員攻め

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    あすと

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    甲斐田くん(と犬飼)の話

     あと何度だろう、おおよその正解を導き出そうとして、やめた。
     たった今取り出した一本を咥えたまま別のことを考える。解らなかった。
     ポケットと言うポケットすべてをぱんぱんと叩いてその感触を探るけど、届くのは小さく乾いた音ばかりだ。まいったな、どこに置き忘れたんだろう。もしくはどこかに……。
     ここに来るまでに通った場所へ戻ってみよう、面倒だけど、仕方ない。近くに凌牙でも居ればすぐに解決したけど、生憎そんなにちょうどよく居てくれるわけもなかった。
     あーあ、別に気に入ってるわけでもなかったけど、今日見つからないなら二度と見つからない、見つけることが出来なくなる。
     溜息をつく。誰も見てはいないけど、自分に見せつけるみたいにいかにもだるそうな動きで振り返ろうとしたら、居た。誰もいないわけじゃなかった。 

    「なんで気配消してんの。怖いんだけど」
    「え!? そんな事は……。ただ甲斐田くんがなんだか物憂げというか、考え事をしているのかなと思って、邪魔をしないように、と、静かに」
    「物憂げって。別に、ぼーっとしてただけだよ。なんか用?」
    「あっ、そうですこれ、甲斐田くんのですよね? 奥の通路に落ちていたので届けようとと思って」

     渡されたものを受け取る。いつだったか、凌牙の近くにいたらたまたま喧嘩に巻き込まれて、その時に付いた細く長い傷が。去年かな、シバケン揶揄ったら仕返しとばかりに油性ペンでらくがきされて、消そうと思ったけどなんとなく消さなかっただいぶ掠れた変なマークが。裏の方の犬飼の懲罰の巻き添えで出来た角のへこみが。これが一番目立つかな。全部全部、こいつが俺と過ごしてきた時間を刻んでいた。

    「ありがと。でもよく覚えてたね」
    「忘れませんよ。何度も届けましたしね」
    「そうだっけ」

     本当は覚えてる。どこに置き忘れても落としても、何故か犬飼は見つけて届けてくれた。
     嬉しかった。俺のためにしてくれること全てが。誰に対しても同じことをしてるのは解ってるけど、そんなことはどうでも良かったんだ。

    「寂しくなります」

     受け取ったライターで火をつけようとしたとき、犬飼はぽつりとそう言った。看守の言うことじゃないでしょって言いたかったのに、いつもの俺、を咄嗟に作ることができなかった。
     煙草を咥えてライターを手に持って、あとたったワンアクションで煙を肺に入れることが出来るのに、その前に言いたいことがあって、言えなくて、動けなくなった。
     なんの気まぐれだろう。そんな俺を見た犬飼は、ちょっと失礼します、と言って俺の手からそっとライターを取り戻し、火をつけて俺に差し出した。
     
    「どうぞ」
    「……ん」
    「懐かしいなあ。初めてここに来たとき、私結構……いえ、正直かなりショックで。規則なんて誰も守ってなくて、お酒も煙草も許可されてるなんて、って」
    「犬飼、打ちのめされたーって顔してたね」
    「そうでしょうね……。それでも君たちは助けてくれたし、仲間だと思ってくれた。幸せでした」
    「なにそれ、犬飼死ぬの?」
    「違います違います! ただ……こうやって囚人の煙草に火をつける日が来るなんて、あの頃の私は想像しえませんでした」

     助けた。仲間。俺だって看守とこんなふうに穏やかに話して、煙草に火をつけてもらう日が来るなんて思ってもなかったよ。
     クソ溜め、って言うけど、ほんとにそうだった。犬飼が来るまでは間違いなくそうだった。でも犬飼がいるこの監獄は……まあまあ、いいとこだったかなと思える程度にはなった、気がする。
     
    「何かあったらいつでも連絡してくださいね、夜中でも」
    「デートのお誘いでも?」
    「それは……休日、なら?うーん、食事するだけ、なら」
    「ま、もう堂々と会えるしね、いつでも」
    「そうですね」

     でも、やっぱり寂しいです。と犬飼はもう一度そう言った。いつもの困ったような笑顔じゃなくて、疲れたような、安心したような、なんかうまく表現できないけど、そんな顔をしていた。
     もしかして犬飼は同じ言葉を待ってるんじゃないかなんて自惚れてしまう。自惚れたっていいよね、気まずくなったらしばらく……もう二度と、会わなければいいだけだし。
     俺は深く煙を吸って、浅く吐き出してから言った。

    「俺も、寂しいよ。毎日犬飼に会えなくなるの」
    「寂しいですよね……」

     何度も何度も寂しいと口にする犬飼に泣きそうになった。凌牙にも、シバケンにも、同じように寂しいと伝えて、同じようにこの複雑な顔を見せる、絶対そうだ。あーあ、何か一つだけでいい、俺だけ特別、が欲しかったな。もっと早くに言えば叶えてくれたかもしれないのに。誰より臆病なのは俺だった。
     少し思案してとびっきりの特別を提案しようと思い付いて、にやっと笑いながら犬飼の顔を見たら、何か変なことを企んでいるのでは? っていうすこし怯えた顔をした。何度見たかなこの顔。面白い。可愛い。

    「ねえ犬飼、俺と結婚しない?」
    「え? えぇ!? 何ですかいきなり!?」
    「いやほら、俺この見た目だし、名前も割れちゃってるから日本で生きてくのきついかなって。かと言って前科のある俺じゃ入国できる国も限られるから海外も難しい」
    「それと結婚とどういう関係が? ……あ」
    「そ。結婚して名字変えたらさ、色々クリア出来るじゃん? 犬飼紫音ってどう?」
    「突拍子もなさすぎます……」

     犬飼紫音、声に出したらあまりにも可笑しくて、話してる途中で爆笑しそうになった。
     でも今まで見たことのない顔が見れた。あんな顔きっと、ここの誰も見たことのない顔だ。
     絶対に忘れない、特別をくれてありがとね。

    「そろそろ戻りましょうか。手続きがもう少しだけ残っているので」
    「めんどくさ。犬飼が適当にやっといてよ」
    「そういうわけにはいかないんですよ! 甲斐田くんのサインが必要な書類もありますし!」
    「婚姻届にならサインしてあげる」
    「まだ引っ張るんですかその話!?」

     二人で笑った。ここに来て一番清々しい笑いだったと思う。明日には、ここなんかよりもっとひどいクソ溜め、に行く。塀の外。こんなとこ早く出たいとばかり思っていたのに、こんなとこでも思い出は沢山できた。嫌な思い出のほうが多いけど、そんなものはクソくらえだ。
     出来ればあっちの犬飼にもご挨拶しておきたかったけど、最近見かけない。落ち着いているんだろうか、俺の知らないところで暴れてるのかな。まあいいか、運が良ければまた会えるんじゃないかな。
     凌牙もシバケンも犬飼と犬飼も、ちゃんと繋がってるなら、きっと。腐れ縁、ってやつ、都市伝説じゃなかったんだなって笑いたいじゃん。
     
    「私先に行ってますから、それ、吸い終わったら来てくださいね。待ってますから」
    「はーい」
     
     まだ吸えるけど、もういいやと壁で揉み消した。犬飼に見られたら怒られるだろうな。全然怖くないけど、と犬飼の背を見ながら思う。
     最後につけた俺がここにいた証、多分すぐに消えるそれをもう一度見て、それから早足で追いかけた。
     あと何度、この先何度。考えたらきりがない。すべてのことに終わりは来るんだし、感傷に浸るとか笑えるね。

    「犬飼!」
    「わ、早いですね!」
    「俺、そんなに早くないと思うけど……教えてあげようか」
    「え? あー……遠慮しておきます…」

     ありがと。心から。
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    Replies from the creator

    あすと

    DOODLE夏の終わりの眠れないかいだくん(と誰か)の話
     別に、セックスなんてしなくたって死ぬわけじゃない。性欲なんて一人でだって満たせるし、そしたらあとは眠ればいいだけ。夢は見ない。寂しさは持っていかない。
     本当にほしいものが何なのかなんて自分でもわからない。繋がり、ほしいけど、繋がるってどういうことか本当はわからない。経験のないことは想像するしかないけど、経験がないからその材料すらも持ち合わせてはいない。仮に誰かが教えてくれたとしても、それはそいつの見解であって俺も同じとは限らない。
     だから、わからないことはずっとわからないまま、なんとなくわかった気になって欲しがり続けるしかないってこと。

     さっきまで生ぬるく感じてた扇風機の風は、今は少し寒いくらいだ。暇だな、暇だからこんなに余計なこと考えちゃうんだ。眠りたい。でも今眠ったら連れて行ってしまう。そんなのは嫌だから、目の前の背中にしがみつく。冷えた汗に頬をつける。ゆっくりと、同じリズムで震える体温。 どうして置いてくの、俺も一緒につれてってよ。一緒ならきっと、夢を見るのだって怖くない。ねえお願い、俺よりあとに眠って。置いて行かないで。俺が眠るまで、抱きしめて頭撫でてよ。子供扱いしたっていい、馬鹿にしたっていい、毎晩一緒に眠ってくれるなら、俺、誰よりもいい子になれるから。
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