未開の土地。この世界の殆どがそう呼べるだろう。どこに、どんな生物がいて、どんな行動をするのか知らない事ばかりだ。アーサーはそこを冒険するのが大好きだ。それはどれだけ歳月が経っても変わらない。桜備が大統領になり、シンラが極隊長になっても変わらなかった。
今日もまたシンラが知らない世界を知った。シンラが創った世界を知った。それは誰にでも出来るようで誰にも出来ない。今この瞬間を知っているのはアーサーだけだ。ここを離れて戻ってきた時にはもう違う瞬間に変わっている。月日とはそういうものだ。
まだシンラが英雄隊の下っ端だった頃は二人で並んで色々な風景を見たものだ。だけど今のシンラは冒険に連れ出せる程、立場が低い訳でもなかった。極隊長という肩書きは重く、シンラを街に留まらせる枷となった。シンラ本人は枷だなんて思っていないだろう。ただ、アーサーが勝手にそう思っているだけなのだ。今までは二人で見てきた世界も、今は独りで見ることの方が多い。せっかくの美しさを分かち合えないのは勿体ない。
だからヴァルカンにカメラを作ってもらった。アーサーが見てきた世界を一つ一つ切り取ってシンラに見せるのだ。街に帰り、シンラのところに行くと必ず渡す写真たち。シンラはいつも嬉しそうに頬を綻ばせている。それを見てようやくアーサーも満足出来るのだ。
パシャリ、と音が響く。画面を覗き込むとアーサーが見ている景色と似たような景色が映っている。現地には敵わないが写真だけでも十分美しい。
「おじちゃん!」
「なんだ。」
まあまあ満足の出来る写真が撮れた。自画自賛をしつつ、カメラを懐にしまった。と、同時に現地の子供がアーサーに話しかけてきた。
「なんで写真撮ったの?」
「この景色を見せたいヤツがいるからな。」
「なんで?」
「綺麗だからだ。」
「ほんと?!」
「本当だ。」
「へへっ、おれの自慢のひみつきちなんだ!!」
「そうか。」
「綺麗だろー!」
「ああ、綺麗だな。」
きゃっきゃっとはしゃぎながら走り回る少年。あの頃のショウと同い歳くらいだろうか。アーサーは懐にしまったカメラを取り出し、またパシャリとシャッターを切った。
少年は無邪気に昼でも夜でも星が降る草原を走り回る。その姿は何よりも眩しくて、目を細める。きっとシンラもこの光景を気に入るだろう。