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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    お題箱からのリクで風邪を引くチェズと看病するモさんの話。チェズモク。

    #チェズモク
    chesmok
    ##BOND

    ■いちばんの薬


     とある国で拠点にしているビル。上階にある執務室にて。
     モノトーンでまとめられた無駄のないスタイリッシュなこの部屋は、組織を率いるチェズレイの好みに合わせたものだ。室内にはドアの前に一人、チェズレイの側近である黒服の男が控えている。そんな中でチェズレイは黄昏の景色が映る窓を背にして机に座り、部下から提出された麻薬の密輸ルートに関する資料に目を通している。
     ――頭が痛む。これはたぶん熱もあるなと、チェズレイはそんなことを頭の隅で考えながら、涼しい顔を崩さない。
     そこへノックの音と「チェーズレイ」と呼ぶ声がしたので、はっと顔を上げてしまう。黒服が心得たように黙ってドアを開ける。そこには予想通りモクマの姿があった。書類を手に机までグレーのカーペットの上を下駄で歩いてくる。顔を見るのは二週間ぶりだ。チェズレイはすぐさま目の前の愛しい相棒兼恋人にハグしたかったが、部下の手前、そういうわけにもいかない。
    「ただいま~。久しぶりだね」
    「おかえりなさい、モクマさん」
    「お疲れさん。これ、俺がニンジャジャンの仕事やりながら新しく手に入れた、人身売買に関わってる組織のリストね」
    「ありがとうございます。そこに置いておいていただけますか」
     モクマは言うとおりに机の端に書類を置く。本当にいくら潰してもキリがないのだろうか。チェズレイの口から小さくため息がもれる。そこでモクマがこちらの顔をじっと見つめているのに気づいて、チェズレイは書類から視線を上げる。
    「どうかしました?」
    「そりゃこっちの台詞だよ。お前さん、いつもと様子が違う」
     チェズレイの側まで机を回り込んでくると、「ちょいと失礼」と言ってチェズレイの額に手のひらで触れる。その手のひらは少しひやりとしていて心地が良い。
    「――こりゃひどい熱だ。チェズレイ、休もう」
    「今の私には休んでいる暇なんて……」
    「ダメダメ。風邪だってこじらせたら死ぬんだからね。いいからうちに帰ろ」
     そう言い聞かせ、モクマは黒服に声をかける。
    「ボスが休むから、今日の仕事はもうおしまいだってみんなに伝えてくれる?」
     それを聞いて黒服は「承知しました、モクマ様」と返事をし、頭を下げると部屋を出ていった。組織の中でモクマの言葉は、チェズレイの言葉と同じくらいの効力を持っているのだ。
    「さっ、チェズレイ。帰ろ」
    「……あなたねェ……」
     そう言いながらもチェズレイは渋々椅子から立ち上がると、モクマに手を引かれるまま廊下に出てエレベーターに乗った。ぐんと重力がかかってエレベーターが動き出す。
     このビルはまるまる一つがチェズレイの率いる組織の一大拠点であり、その最上階フロアがチェズレイとモクマの居住スペースになっている。
     エレベーターの扉が開くと、そこでどっと疲れが出た。チェズレイがめまいを起こしてふらつくと、モクマがそっとそれを支えてフロアの床を踏む。
     モクマはチェズレイに肩を貸すと、そのまま寝室を目指した。ドアを開けて、ジャケットを脱がせてからクイーンサイズのベッドにチェズレイを寝かせる。モクマの手が襟元に伸びてきて、シャツのボタンを上からひとつ、ふたつ、と外した。そこでチェズレイはようやく深いため息をつく。
    「チェズレイ、食欲ある?」
    「一応……」
    「じゃあなんか作ってくるから、ちょっと待っててね。お姫様」
     するりとチェズレイの頬を撫でて、モクマは笑うと寝室を出ていった。チェズレイは毛布を引き上げてゆっくりと目を閉じる。そうして眠りの淵を行き来し始める。熱があるので頭にもやがかかったようにぼんやりしている。そう言えばこのところ、睡眠をろくにとっていない。あのひとのいない寂しさを埋めるように仕事に没頭していたから。
     そんなことを考えていたら、モクマがトレイに乗せた水の入ったコップと何やら湯気を立てるボウルを手に、寝室へ入ってきた。チェズレイが身を起こすと、膝の上にトレイが置かれる。
    「おじさん特製の玉子雑炊だよー」
     そう言われて木製のスプーンを握らされる。ボウルの中には優しい黄色をした雑炊に、刻んだ緑も新鮮なネギが散らしてある。ふわりと漂う湯気はかすかな出汁と醤油の匂い。そういえば、今日は朝食を軽く取っただけで他には何も食べていない。空腹を思い出したチェズレイは「いただきます」と言うと、スプーンですくって充分に吹き冷ますと口に運んだ。噛めば口の中で味付けされた玉子と白米がほどけていく。美味しい。
    「あなたの手料理、久しぶりです」
    「うん。――俺、お前さんに早く会いたかった」
     モクマはベッドの縁に腰掛けると、チェズレイを振り仰いでそう言う。
    「ずっとチェズレイのことばっかり考えてたよ」
     それを聞いてチェズレイは、ああこのひとも同じ気持ちだったんだ、とどこか安心した。お互いのこれまでの二週間のことをぽつりぽつり話しながら、玉子雑炊を平らげる。ごちそうさまでしたの声に、モクマはトレイを取り上げながら、ポケットから小さな紙箱を出した。受け取ってみれば解熱剤だ。さっそく箱を開けてシートから一錠押し出して水で飲み下す。
     キッチンへ行って食器を片付けてきたモクマは、羽織を脱ぐ。ベッドのチェズレイの隣に入ると、チェズレイを抱きしめてそのまま二人で体を横たえた。顔を見合わせて二人でくすくす笑う。
    「……あっ、しまった。冷えピタ持ってくんの忘れてた」
    「そんなのいりませんよ」
     そう言ってチェズレイはモクマを抱きしめ返す。その久々のぬくもりに、安らぐ思いで静かに目を閉じた。
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