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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    タイトル通りのチェズモク。

    #チェズモク
    chesmok
    ##BOND

    ■愛してる、って言って。


     チェズレイはモクマとともに世界征服という夢を追いはじめた。そのうちにチェズレイの恋はモクマに愛として受け入れられ、相棒兼恋人同士となった。
     あのひとの作った料理ならおにぎりだって食べられるし、キスをするのも全く苦ではないどころか、そのたびに愛おしさが増してたまらなくなってくる。ただ、それ以上の関係にはまだ至っていない。
     今日もリビングのソファに座ってタブレットで簡単な仕事をしていた時に、カフェオレを淹れてくれたので嬉しくなった。濁りも味だと教えてくれたのはこのひとで、チェズレイはそれまで好んでいたブラックのコーヒーよりもすっかりカフェオレが好きになってしまっていた。愛しい気持ちが抑えられなくて、思わずその唇を奪ってしまう。顔を離すと、少し驚いた様子のモクマの顔があった。
    「愛しています、モクマさん」
     そう告げると、モクマはへらっと笑う。
    「ありがとね。チェズレイ」
     そう言って踵を返すモクマの背を視線で追う。
     このひとは、未だに「好きだよ」だとか「愛してるよ」なんて言葉を言ってくれたことがない。キスも自分からしてくれたことがない。まあ二十年もの間についた逃げ癖は簡単に治らないだろう。だから長期戦で落とすつもりでいる。さあ、どうやって落とそうか――。
     そんな折のある日。モクマが言った。
    「ちょっとニンジャジャンの仕事の依頼が来てさ。一週間くらい留守にしてもかまわないかい?」
     その言葉にチェズレイはぽかんと口を開けてしまう。そういえば、あの指切りの前に約束したんだった。『ニンジャジャンの仕事は続けても構わない』と。その契約を反故にするわけにもいかず、チェズレイは努めて笑顔を作ると、こう返した。
    「――はい。いってらっしゃい。お気をつけて」
    「ありがと。じゃちょっと支度して行ってくるね」
     そう言ってモクマは、もとから少ない身の回りの品で旅支度をすると、出立してしまった。
     セーフハウスの玄関からその後姿を見送って、チェズレイは、寂しくなるな、と胸が痛むのを感じていた。
     あのひとが傍にいないだけで、こんなにも胸に大きな虚が空いてしまったようになるなんて。
     チェズレイはふらりとセーフハウスの自室に戻る。そして以前になにかの役に立つかと作っておいたモクマの変装用マスクを着け、彼がいつも着ている服によく似せたものに着替えた。あとはちょっと企業秘密の細工をして、姿見を見ればそこにはモクマそのものが立っていた。それから声帯模写で喉のチューニングを彼の声に合わせると、姿見をじっと見つめたまま、こう言った。
    「愛してるよ、チェズレイ」
     できうる限りの情感を込めて、愛の言葉を紡いだ。それは甘くとろけてふわりと消え、背筋がしびれるようだった。ああ、あのひとも時が経てば自分にこんなふうに甘美な言葉をかけてくれるのだろうか。思わず姿見に触れるが、冷たいガラスの感触が伝わってくるだけだ。
     チェズレイはタブレットを手に取り、動画を撮るためのカメラを作動させる。自撮りモードにして、そこにモクマに扮した自分が映っているのを確認すると、先程のようにカメラに向かって笑顔を作り、愛の言葉を繰り返した。
    「愛してるよ、チェズレイ。――キス、してもいいかい?」
     そうして撮れた十秒弱の動画を保存すると、チェズレイは満足して変装を解いた。
     それからしばらく、たびたびその動画をタブレットで再生しながらチェズレイは日々をやりすごした。モクマは随時連絡はくれたが、モクマのいない毎日は、ひどく退屈で、空虚で、つらい。
     早く、あのひとに会いたい――。そう思いながらチェズレイは六日目の夕方にソファで寝落ちしてしまった。
    「――……ズレイ。チェズレイ。こんなとこで寝てると体痛めるよ?」
     心地よい声。肩をゆする皮の分厚い手のひらの感触に、チェズレイは目を覚ます。
    「……モクマ、さん……?」
    「そうだよ~。おじさんだよ。――ただいま、チェズレイ」
     それを聞いたチェズレイは、がばりと跳ね起きるとモクマをぎゅっと抱きしめた。どうか夢じゃありませんようにと、その存在を確かめるように。
    「おかえりなさい……!」
     モクマは突然のことに驚いたのか、「わ、」と小さな声をもらす。チェズレイの腕の中には小柄でいてがっしりした体と、自分より少し高い体温がある。彼の愛用する安っぽい石鹸の匂いもする。
     そのままモクマを抱きしめていると、間をおいておずおずとチェズレイの背に手が回される。ハグを返してくれたのは、初めてのことだった。
    「――ごめんな。寂しかっただろう?」
    「ええ。とても」
     返事をして、チェズレイはモクマの言葉に違和感を覚える。彼の肩越しに見れば、テーブルに置いていたタブレットの位置が動いていた。あれには寝落ちる直前まで見ていた例の動画が表示されたままだったはず。そこで背筋がざあっと冷えていく感覚がする。
    「あの、モクマさん。その……――見ました?」
    「うん。見ちゃった」
     明るく茶化すような淡々とした声。チェズレイはとんでもない恥ずかしさの上に、『やってしまった』という自分の落ち度を責める心の声しか出てこない。それをごまかそうとして、冷静を装い次の言葉を吐く。
    「人の端末を覗き見るのはマナー違反ですよ」
    「ごめんて。やっぱ俺、下衆なもんでさ」
     茶目っ気たっぷりに笑う声が憎らしくて、それ以上に愛おしくて。チェズレイは体を離してモクマの両肩を掴むと、しっかりその顔を見据えて訊いた。
    「じゃあ、もう私の欲しい言葉はわかりますね?」
     モクマは少しうつむいて襟足をかきながら言う。
    「――うん。俺、出身がマイカだったせいか、どうもこういう……まっすぐな愛情表現に慣れてなくてさ。今までずっと言えなかったし、できなかったんだ」
     そこで顔を上げる。黒曜石の瞳がチェズレイを見つめてきた。
    「愛してるよ、チェズレイ。……キスしてもいいかい?」
     照れてはにかんだ顔と優しい声。それを聞くと、チェズレイは自分の撮った動画が、いかに上辺だけのものだったか思い知ることとなった。本当のあなたは、こんな顔で、こんな口調で、愛をささやくのか。チェズレイは黙って目を閉じる。そうして唇に触れてくるのは、いつもよりほんの少しだけ熱いキス。心臓の音だけが、うるさかった。
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    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。結婚している。■いわゆるプロポーズ


    「チェーズレイ、これよかったら使って」
     そう言ってモクマが書斎の机の上にラッピングされた細長い包みを置いた。ペンか何かでも入っているのだろうか。書き物をしていたチェズレイがそう思って開けてみると、塗り箸のような棒に藤色のとろりとした色合いのとんぼ玉がついている。
    「これは、かんざしですか?」
    「そうだよ。マイカの里じゃ女はよくこれを使って髪をまとめてるんだ。ほら、お前さん髪長くて時々邪魔そうにしてるから」
     言われてみれば、マイカの里で見かけた女性らが、結い髪にこういった飾りのようなものを挿していたのを思い出す。
     しかしチェズレイにはこんな棒一本で、どうやって髪をまとめるのかがわからない。そこでモクマは手元のタブレットで、かんざしでの髪の結い方動画を映して見せた。マイカの文化がブロッサムや他の国にも伝わりつつある今だから、こんな動画もある。一分ほどの短いものだが、聡いチェズレイにはそれだけで使い方がだいたいわかった。
    「なるほど、これは便利そうですね」
     そう言うとチェズレイは動画で見たとおりに髪を結い上げる。髪をまとめて上にねじると、地肌に近いところへか 849

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。とある国の狭いセーフハウス。■たまには、


     たまにはあの人に任せてみようか。そう思ってチェズレイがモクマに確保を頼んだ極東の島国のセーフハウスは、1LKという手狭なものだった。古びたマンションの角部屋で、まずキッチンが狭いとチェズレイが文句をつける。シンク横の調理スペースは不十分だし、コンロもIHが一口だけだ。
    「これじゃあろくに料理も作れないじゃないですか」
    「まあそこは我慢してもらうしかないねえ」
     あはは、と笑うモクマをよそにチェズレイはバスルームを覗きに行く。バス・トイレが一緒だったら絶対にここでは暮らせない。引き戸を開けてみればシステムバスだが、トイレは別のようだ。清潔感もある。ほっと息をつく。
     そこでモクマに名前を呼ばれて手招きされる。なんだろうと思ってついていくとそこはベッドルームだった。そこでチェズレイはかすかに目を見開く。目の前にあるのは十分に広いダブルベッドだった。
    「いや~、寝室が広いみたいだからダブルベッドなんて入れちゃった」
     首の後ろ側をかきながらモクマが少し照れて笑うと、チェズレイがゆらりと顔を上げ振り返る。
    「モクマさァん……」
    「うん。お前さんがその顔する時って、嬉しいんだ 827

    高間晴

    MAIKINGチェズモクの話。あとで少し手直ししたらpixivへ放る予定。■ポトフが冷めるまで


     極北の国、ヴィンウェイ。この国の冬は長い。だがチェズレイとモクマのセーフハウス内には暖房がしっかり効いており、寒さを感じることはない。
     キッチンでチェズレイはことことと煮える鍋を見つめていた。視線を上げればソファに座ってタブレットで通話しているモクマの姿が目に入る。おそらく次の仕事で向かう国で、ニンジャジャンのショーに出てくれないか打診しているのだろう。
     コンソメのいい香りが鍋から漂っている。チェズレイは煮えたかどうか、乱切りにした人参を小皿に取って吹き冷ますと口に入れた。それは味付けも火の通り具合も、我ながら完璧な出来栄え。
    「モクマさん、できましたよ」
     声をかければ、モクマは顔を上げて振り返り返事した。
    「あ、できた?
     ――ってわけで、アーロン。チェズレイが昼飯作ってくれたから、詳しい話はまた今度な」
     そう言ってモクマはさっさと通話を打ち切ってしまった。チェズレイがコンロの火を止め、二つの深い皿に出来上がった料理をよそうと、トレイに載せてダイニングへ移動する。モクマもソファから立ち上がってその後に付いていき、椅子を引くとテーブルにつく。その前に 2010

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