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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    チェズモクワンライ「ダンス」。
    酔っ払ってジターバグを踊る二人。

    #チェズモク
    chesmok
    ##BOND

    ■ジターバグ


    「モクマさん、私と踊っていただけますか?」
     リビングのソファで晩酌をしていたモクマの横顔を見ながら、隣でチェズレイは言った。突然のお誘いに、モクマはぐい呑みを手にしたままぽかんと口を開ける。
    「踊る、って……」
    「社交ダンスです。アルコールが回ったせいか、いささか興が乗りましたので――少々お付き合いいただけないかと」
     そう言いながらチェズレイは左目の花をたゆませて微笑んだ。モクマは、その顔でお願いされると弱いんだよな、ともう何度目かになる心の声に正直に従うことにする。
    「いいけど、おじさんそういうのやったことないよ?」
    「大丈夫ですよ。仮にもショーマン。少し手ほどきして差し上げれば、すぐに踊れるようになるかと」
     そうチェズレイが言って立ち上がるとモクマの手を引く。飲みかけのままでぐい呑みをテーブルに置くと、引っ張られるままにモクマは立ち上がった。
     少しスペースの空いたリビングの片隅に連れて行かれる。
    「何、踊るの?」
     社交ダンスと一口に言ったって、タンゴやワルツ、その他色々あるのだということくらいはモクマも知っている。
    「そうですね、初心者でも比較的踊りやすいジターバグなどいかがでしょうか」
    「ジターバグ?」
     言葉を反芻すると、チェズレイが向かい合って左手でモクマの右手を取り、反対側の手で背中に手を回す。続いてモクマの左手を自分の肩に置くように促す。
    「ああ、ミカグラではジルバと言ったほうが伝わりやすいですかね」
    「悪いがどっちにしろわからんなぁ」
    「まあ、私が男性側でリードしますので、モクマさんは私の言うとおりにステップを踏んで頂ければ大丈夫ですよ」
     チェズレイがそう言ってモクマの顔を見つめる。十七センチの身長差だと、モクマは常にチェズレイを見上げる形となるので、ちょいと首が痛いなあ、なんて思いながら視線を合わせる。
    「基本のリズムはスロー、スロー、クイック、クイック、の四歩のステップ。
     端的に言うと、これさえマスターしてしまえばジターバグを踊れます」
     そう前置いてからチェズレイは、モクマの背中に回した手で軽く背を叩いた。そうして「いきますよ」と合図をする。
    「右足を横に、左足を元の位置に、右足を小さく前に、左足を元の位置に……」
    「おわ……っとと」
     言うとおりにモクマはステップを踏むが、うっかりチェズレイの足を踏みつけてしまう。慌てて踏んでしまった足を退かせながら謝る。
    「ご、ごめんチェズレイ!」
     仮にもショーマン、とチェズレイは言ったが、所詮はショーマンなのだ。誰かとペアを組んで踊るなんて初めてのこと。うまくいかなくて当たり前なのかもしれない。
    「構いませんよ」
     チェズレイはおかしそうにくすくす笑う。本当に機嫌がいいのだろう。白磁の頬に赤みがさしていて、酔っているのだなとひと目でわかる。
    「もういっそのこと基本やルールなど無視して、音楽に合わせたほうが踊りやすいかもしれませんね」
     モクマから離れて、チェズレイはタブレットを手にすると操作して音楽を流し始めた。ピアノと力強い歌声が特徴的なソウルが流れ始める。レイ・チャールズのヒット・ザ・ロード・ジャックだ。
     そうしてモクマのところまで戻ってくると、先程のように社交ダンスの基本の姿勢を取るので、モクマもそれにならった。
    「さあ、モクマさん」
    「うん」
     チェズレイがリードするのに合わせてステップを踏むだけで、ダンスができることに気づく。曲が、リズムがあれば、それだけでこんなにも違うのか。
     モクマは頭ひとつ分くらい高い場所にある青年の顔を見上げて笑う。
    「チェズレイ。俺、踊れてるよね?」
    「ええ。とても上手ですよ、モクマさん」
     そこでチェズレイが繋いだ手を上げたので、モクマはそのままくるりと身を回転させる。山吹色の羽織がふわりと広がり、チェズレイが満足気に目を細めた。
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    DOODLEチェズモク800字。結婚している。■いわゆるプロポーズ


    「チェーズレイ、これよかったら使って」
     そう言ってモクマが書斎の机の上にラッピングされた細長い包みを置いた。ペンか何かでも入っているのだろうか。書き物をしていたチェズレイがそう思って開けてみると、塗り箸のような棒に藤色のとろりとした色合いのとんぼ玉がついている。
    「これは、かんざしですか?」
    「そうだよ。マイカの里じゃ女はよくこれを使って髪をまとめてるんだ。ほら、お前さん髪長くて時々邪魔そうにしてるから」
     言われてみれば、マイカの里で見かけた女性らが、結い髪にこういった飾りのようなものを挿していたのを思い出す。
     しかしチェズレイにはこんな棒一本で、どうやって髪をまとめるのかがわからない。そこでモクマは手元のタブレットで、かんざしでの髪の結い方動画を映して見せた。マイカの文化がブロッサムや他の国にも伝わりつつある今だから、こんな動画もある。一分ほどの短いものだが、聡いチェズレイにはそれだけで使い方がだいたいわかった。
    「なるほど、これは便利そうですね」
     そう言うとチェズレイは動画で見たとおりに髪を結い上げる。髪をまとめて上にねじると、地肌に近いところへか 849

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。とある国の狭いセーフハウス。■たまには、


     たまにはあの人に任せてみようか。そう思ってチェズレイがモクマに確保を頼んだ極東の島国のセーフハウスは、1LKという手狭なものだった。古びたマンションの角部屋で、まずキッチンが狭いとチェズレイが文句をつける。シンク横の調理スペースは不十分だし、コンロもIHが一口だけだ。
    「これじゃあろくに料理も作れないじゃないですか」
    「まあそこは我慢してもらうしかないねえ」
     あはは、と笑うモクマをよそにチェズレイはバスルームを覗きに行く。バス・トイレが一緒だったら絶対にここでは暮らせない。引き戸を開けてみればシステムバスだが、トイレは別のようだ。清潔感もある。ほっと息をつく。
     そこでモクマに名前を呼ばれて手招きされる。なんだろうと思ってついていくとそこはベッドルームだった。そこでチェズレイはかすかに目を見開く。目の前にあるのは十分に広いダブルベッドだった。
    「いや~、寝室が広いみたいだからダブルベッドなんて入れちゃった」
     首の後ろ側をかきながらモクマが少し照れて笑うと、チェズレイがゆらりと顔を上げ振り返る。
    「モクマさァん……」
    「うん。お前さんがその顔する時って、嬉しいんだ 827

    高間晴

    MAIKINGチェズモクの話。あとで少し手直ししたらpixivへ放る予定。■ポトフが冷めるまで


     極北の国、ヴィンウェイ。この国の冬は長い。だがチェズレイとモクマのセーフハウス内には暖房がしっかり効いており、寒さを感じることはない。
     キッチンでチェズレイはことことと煮える鍋を見つめていた。視線を上げればソファに座ってタブレットで通話しているモクマの姿が目に入る。おそらく次の仕事で向かう国で、ニンジャジャンのショーに出てくれないか打診しているのだろう。
     コンソメのいい香りが鍋から漂っている。チェズレイは煮えたかどうか、乱切りにした人参を小皿に取って吹き冷ますと口に入れた。それは味付けも火の通り具合も、我ながら完璧な出来栄え。
    「モクマさん、できましたよ」
     声をかければ、モクマは顔を上げて振り返り返事した。
    「あ、できた?
     ――ってわけで、アーロン。チェズレイが昼飯作ってくれたから、詳しい話はまた今度な」
     そう言ってモクマはさっさと通話を打ち切ってしまった。チェズレイがコンロの火を止め、二つの深い皿に出来上がった料理をよそうと、トレイに載せてダイニングへ移動する。モクマもソファから立ち上がってその後に付いていき、椅子を引くとテーブルにつく。その前に 2010

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