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    高間晴

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    敦太800字。飴玉の話。

    #敦太
    dunta
    ##文スト

    飴玉 二人暮らしを初めて間もない時。最初に提案したのは太宰の方だった。
    「これから悲しいことやつらいことがあったら、この飴玉を食べていいことにしよう」
     甘いものは気分を落ち着かせるからね。そう云って玄関の靴箱の上に、籠を置いて飴玉を入れておいたのだ。
     しかしなかなか減らないので、敦はあまり気にしなくなってきた。時々太宰の方が飴玉を食べたい言い訳として、「国木田君に怒られた」等と云って取っていくことがある程度だ。
     ある日、敦は急遽一日だけ乱歩の付き添いで出張することになった。「今日は帰れません」と太宰に電話すると「気をつけて帰ってきてね~」と軽く返事された。
     そして翌日の夜になって帰宅した敦は、籠の中の飴玉が明らかに減っているのに気づいた。最近は家を出る時にちらりと見るくらいだったが、昨日の朝はもう少し入っていたはずだ。
     慌てて靴を脱いで寝室に行くと、太宰は布団で寝ていた。枕元には飴玉の包み紙が四、五枚ほど散らばっている。
     寝顔は微かに眉根が寄っていて、敦は何があったのかと気になって仕方ない。しかし起こすのも何だと思って仕方なく鞄を置くと、太宰の傍に座り込んだ。
     畳に落ちている飴玉の包み紙は赤、緑、黄、と様々で、敦はなんとはなしにその中の一枚、赤い包み紙を手に取った。指先につるつる滑る素材で出来たそれは、丁寧に手のひらで広げてやるとカサカサと乾いた音を鳴らす。
     ――太宰さんは、どんな気持ちでこれを食べたんだろう。どんな悲しいことが、つらいことがあったのか。それを思うと敦は胸が潰れそうだった。
    「ん……敦君……?」
     寝起きの声で呼ばれて敦は太宰の顔を見る。そのうっすら開いた目が微笑みの形に変わった。布団の中から腕が伸びてきて、敦の腕を捉える。
    「帰ってきたなら起こしてよぉ……」
    「す、すみません気が利かなくて」
     敦は太宰に問う。
    「何があったんですか。こんなに飴玉を食べて」
     太宰は身を起こして敦を抱きしめると、そっと自分の唇で敦のそれを塞いだ。ほのかに苺の香料が鼻先をくすぐる。
    「――敦君がいなくて寂しかったから」
     でも、これで寂しくないね。
     その笑顔に、敦は黙って太宰をぎゅっと抱きしめ返す。
     もう、籠の中の飴玉が減らないようにしたい。
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    高間晴

    DONEチェズモクワンライ「花粉症/潜入」。■今宵は一献


     ヘリの窓からネオン色のまばゆい夜景を見下ろしてモクマが言う。
    「いや~、絶景だねぇ」
     チェズレイとモクマは敵組織のアジトを無事発見し、今宵、二十階建てのビルの高層部に潜入することになった。
    「おや、遊覧飛行をお望みですか?」
     チェズレイの言葉にモクマは苦笑する。
    「そういうわけじゃないけども」
     夜闇に紛れてチェズレイの部下が操縦するヘリに乗り込み、二人は上空から最上階を目指していた。
     二人が無事に屋上へ降りたのを確認してから、ヘリを操縦している部下は二人に向けて力強く親指を立ててみせる。ご武運を――。無言のうちにその意味が伝わってくる。そうしてヘリはバラバラとローター音を鳴らしながら速やかにその場を離れていった。中の通路は薄暗く、窓から入る月明かりだけが頼りだった。
     と、通路を足音も立てずに進んでいたらチェズレイが口元を押さえて本当に小さな小さなくしゃみをもらす。モクマは視線だけで大丈夫かと問うたが、チェズレイは軽く頭を下げるだけですみませんと言ったようだった。
     チェズレイはこの国に来てから花粉症に悩まされていた。幸いいまの時代は薬で症状が抑えられるとは 2238

    高間晴

    DONEチェズモクワンライ「温泉/騙し騙され」。■とある温泉旅館にて


    「いや~、いい湯だったねえ」
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    「いいのいいの。この旅行はお前さんのためなんだから」
     ひらひら手を振りながらモクマが笑う。
     チェズレイの潔癖症は一朝一夕で治るものではないとわかっている。足湯に入れるようになっただけでも大進歩だ。
    「なんならおじさんは、お前さんが寝た後にでも大浴場に行けばいいし」
     ここの温泉はアルカリ性単純泉で、肩こりなどに効果があるほか、美肌にもよいとされている。部屋にも源泉かけ流しの家族風呂がついているところを選んだので、チェズレイは後でそこに入ればいいだろうとモクマは考えた。
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    「モクマさァん……ここまで連れてきておいて私を 2758