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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    敦太800字。人は二度死ぬ。

    #敦太
    dunta
    ##文スト

    友人の死ぬ時 何処か白味がかった冬の青空は夏のような鮮やかさはなく、穏やかだった。そよぐ風に乗って漂ってくる潮の匂い。気温もそれほど低いわけではなく、今日はサボりにうってつけだった。例の墓石の反対側が私の特等席。此処に座っていると、彼と背中合わせになっている気がして落ち着くのだ。コートの裾を払って腰を下ろすと、私は買ってきた缶珈琲のプルタブを開けた。
    「太宰さん、また此処に居たんですか?」
    「うわ、敦君見つけるの早っ」
     突然背後から掛けられた声に驚いて振り返ると、一房だけ長い銀髪を揺らして敦君が此方を覗き込んでくる。墓石を回り込んでブーツの足が静かに歩いてくる。
    「国木田さん、怒ってましたよ」
    「そりゃそうだろうねえ。携帯の電源切ってあるし」
     私はけらけら笑って国木田君の今の状態を想像した。きっと苛々しながら仕事に追われているのだろう。その光景があまりにも容易に脳内に浮かんでしまう。
    「お邪魔します」
     敦君がそう云って私の隣に腰を下ろした。真面目な彼にしては珍しい。
    「あれ? 私を連れ戻さなくてもいいの?」
    「今日の仕事は終わらせました。あとは太宰さんを連れ戻したら帰っていいって云われたので、付き合います」
     そう云って私から視線を外すと、立てた膝の上で腕を組んだ。私は「ふうん」と生返事をしながら空に目線をやって珈琲を一口飲む。
    「……このお墓の人って太宰さんの大事な人なんでしょう?」
     敦君が訊いてきた。
    「どんな人だったか、教えてもらえませんか」
     喉から絞り出すその声に、私は珈琲の缶を両手で包むように持つと、自分のつま先の方へと目を落とした。
    「前にも云ったけど、昔の私の友人だよ。咖喱が好きで、少し朴念仁の気がある男だった」
     そう話すと、この墓に眠る彼の人との思い出が脳裏にありありと蘇る。だが、私の名を呼ぶ時の、あの低く通る声音はもうはっきりとは思い出せなかった。それに気づいた時、私は背筋がぞっとした。
     人は二度死ぬ。一度目は心臓が止まった時。二度目は人に忘れられた時。彼は私の中で二度目の死を迎えようとしているのだ。
    「太宰さん」
     代わりに名を呼ぶのは、まだ何処かあどけなささえ残る声。「怖いんですか?」と訊かれ、私は缶珈琲を持っていた手が小さく震えているのに気づいた。何でもないと云いたかったけれど、その言葉は胸の奥につかえて、出てこなかった。
     小春日和に囀る小鳥の声と、微かな葉擦れの音だけが辺りに満ちている。
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    高間晴

    DONEチェズモクワンライ「ダンス」。
    酔っ払ってジターバグを踊る二人。
    ■ジターバグ


    「モクマさん、私と踊っていただけますか?」
     リビングのソファで晩酌をしていたモクマの横顔を見ながら、隣でチェズレイは言った。突然のお誘いに、モクマはぐい呑みを手にしたままぽかんと口を開ける。
    「踊る、って……」
    「社交ダンスです。アルコールが回ったせいか、いささか興が乗りましたので――少々お付き合いいただけないかと」
     そう言いながらチェズレイは左目の花をたゆませて微笑んだ。モクマは、その顔でお願いされると弱いんだよな、ともう何度目かになる心の声に正直に従うことにする。
    「いいけど、おじさんそういうのやったことないよ?」
    「大丈夫ですよ。仮にもショーマン。少し手ほどきして差し上げれば、すぐに踊れるようになるかと」
     そうチェズレイが言って立ち上がるとモクマの手を引く。飲みかけのままでぐい呑みをテーブルに置くと、引っ張られるままにモクマは立ち上がった。
     少しスペースの空いたリビングの片隅に連れて行かれる。
    「何、踊るの?」
     社交ダンスと一口に言ったって、タンゴやワルツ、その他色々あるのだということくらいはモクマも知っている。
    「そうですね、初心者でも比較的踊りやす 1612

    ▶︎古井◀︎

    DONE #チェズモクワンドロワンライ
    お題「三つ編み/好奇心」
    三つ編みチェとおめかしモさんの仲良しチェズモク遊園地デートのはなし
    「チェズレイさんや」
    「なんでしょうかモクマさん」
     がたん、がたん。二人が並んで座っている客車が荒っぽくレールの上を稼働してゆく音が天空に響く。いつもより幾分も近付いた空は、雲一つなくいっそ憎らしいほど綺麗に晴れ渡っていた。
    「確かにデートしよって言われたけどさあ」
    「ええ。快諾してくださりありがとうございます」
     がたん。二人の呑気な会話を余所に、車体がひときわ大きく唸って上昇を止めた。ついに頂上にたどり着いてしまったのだ。モクマは、視点上は途切れてしまったレールのこれから向かう先を思って、ごくりと無意識に生唾を飲み込んだ。そして数秒の停止ののち、ゆっくりと、車体が傾き始める。
    「これは――ちょっと、聞いてなかったッ、なああああああっ!?」
     次の瞬間に訪れたのは、ジェットコースター特有のほぼ垂直落下による浮遊感と、それに伴う胃の腑が返りそうな衝撃だった。真っすぐ伸びているレールが見えていてなお、このまま地面に激突するのでは、と考えてしまうほどの勢いで車体は真っ逆さまに落ちていく。情けなく開いたままの口には、ごうごうと音を立てる暴力的な風が無遠慮に流れ込んできた。
     重力に引かれて 3823

    ▶︎古井◀︎

    DONE春の陽気に大洗濯をするチェズモクのはなし
    お題は「幸せな二人」でした!
    「そろそろカーテンを洗って取り替えたいのですが」
     朝。さわやかな陽光が差し込むキッチンで、モクマはかぶりつこうとしたエッグトーストを傾けたまま、相棒の言葉に動きを止めた。
     パンの上で仲良く重なっていた目玉焼きとベーコンが、傾いたままで不均等にかかった重力に負けてずり落ちて、ぺしゃりと皿に落下する。
    「モクマさァん……」
     対面に座っていたチェズレイが、コーヒーカップを片手に、じっとりとした眼差しだけでモクマの行儀の悪さを咎めた。ごめんて。わざとじゃないんだって。
     普段、チェズレイは共用物の洗濯をほとんど一手に担っていた。彼が言い出しそうな頃合いを見計らっては、毎回モクマも参加表明してみるのだが、そのたびに「結構です」の意をたっぷり含んだ極上の笑みだけを返され、すごすごと引き下がってきたのだった。しかし今回は、珍しくもチェズレイ自ら、モクマに話題を振ってきている。
    「それって、お誘いってことでいいの?」
     落下した哀れなベーコンエッグをトーストに乗せなおしてやりながら、モクマは問う。相棒が求めるほどのマメさや几帳面さがないだけで、本来モクマは家事が嫌いではないのだ。
    「ええ。流石に 3560