鎮魂歌にまだ遠い場面としては四年前に拉致られた諏訪さんがアフト勢と一緒に帰ってきて、ヒュース的なノリで投げ捨てられた感じ
尋問中
「お前に面会者だ」
「面会だぁ?一体どんなマッドーー」
「久しぶり、諏訪」
「……誰だァ?てめえ」
「本当に?」
「そうだつってんだろ!しつけーなー!」
「じゃあ、俺が覆すしかないね」
「あ?」
「まず、お前は上手く行かなかったり想定外のことに直面したりした時、後頭部から項にかけて掻きむしる癖がある」
「あ?!なに意味の分かんねーこと言って」
「ほら」
「!」
「昔からだよ。他には最初の時、俺に『誰だ』って聞いたよね。お前は隠しごとする時、必ず第一声が疑問形になる。次に舌打ち。小学校で覚えてから、自分を落ち着かせるためにしてる節がある。だから話が終わる雰囲気だったさっき、舌打ちが止んだ。あと姿勢」
「何言ってんだテメエ。ヒト探ししてえなら他当たれ!ここは現実逃避の場所じゃねーんだ!引っ込んでろ!」
「イライラしてて機嫌が悪い時は背もたれに寄りかかる。そして更に機嫌が悪くなると前傾姿勢になって、下から睨みつける体勢になる。もっとイラついて怒る、うーんと憤慨すると、」
「おい聞いてんのか!?」
「一回おデコに手をもっていって、掻くか前髪を掻き上げるかして叩きつけるみたいに机に降ろす。それで」
「いい加減にしろクソ陰気野郎!」
「手を握って叩きつける」
「っ」
「ね?お前は諏訪、諏訪洸太郎。三門市で産まれて、小学校から四年半前、俗に言う第一次大規模侵攻が起こる17歳まで俺と一緒に育ってきた日本国民で三門市民だ」
「知らねえつってんだろうが。頭沸いてんのか?それとも何か?隣で信じられないモノ見るような目してるゴリラ共々、俺を黙らせてくれるような物証でもあんのか?ああ?」
「そうだね、俺の実家から持ってくれば一発なんだけど、生憎と洸太郎の両親と一緒に県外に引越しててすぐには用意できないんだ。だから、俺がしってるお前の癖を論って諦めさせるしかないんだけど、どう?諦める気になった?」
「諦めるも何も、ちげーつってんだろ!」
「洸太郎、本当に何も覚えてないの?おばさんたち、他に行方不明になった子達の親御さんが葬式挙げて諦めてるのに、諦めないでずっと待ってるんだよ?」
「っだから!俺じゃねえつってんだろうが!ソレで呼ぶんじゃねえ!いい加減にしねえとぶっ殺すぞ!」
「離れろ!」
《トリオン反応検出。強制遮断》
「お前ね、煽るのは専門外だろ?」
「冬島さん」
「なによ」
「まだ音声通ってますか」
「室長ーどうなの?……こっち側からのは一応、通ってはいるみたいだな。どうする?すぐ切るか聞かれてるけど」
「……あと、少しだけ」
「いいってよ」
「洸太郎、お前は昔から自分のために人を傷つけない。大して仲がいい訳じゃないヤツにも手を差し出す。そのお前が脅しをかける時って、掌返して悪役になる時って、どんな時か知ってる?」
「お前が……お前が、お前をわざと勘定から外してる時だよ。それでそういう時にお前はいつも、眉間に皺を寄せて顔をつくる」
《トリオン反応検出》
「馬鹿か!」
「よく聞け洸太郎!俺は諦めないからな!絶対に連れて帰る!首洗って待ってろ!」
《トリオン反応検出。機能停止。ESC起動》
「……」
「これは一組織の人間としての意見だがな。アイツの懐柔は無理だ。お前の話が本当なら今後いつ、何が原因で反旗を翻されるか分からない。それに、ウチですら解析しきれない技術を埋め込まれたヤツは使えない」
「……知ってます」
「……俺個人としては、お前が納得してれば何でもいいと思う。お前と同い年ってことは、木崎とも面識あるんだろ?遠征から帰る度によそよそしいのは、多分こいつを探してたんだろ。アイツの落ち込む顔は微妙に効くからな、それが無くなるのはオッサンとしては心が痛まなくて助かる」
「……ESCの持続時間は」
「ざっと2時間」
「風間」
「なんだ」
「三上さんと菊地原君を貸してほしい」
「一応、聞く。何故だ」
「あの近界民が四年半前に攫われた当時男子高校生だと証明する。それに伴う監視体制の軟化、彼に組み込まれた近界技術の解析を進める」
「……菊地原」
「えー、嫌ですよ。あの近界民うるさいんです。生身のくせに四六時中、時計を合わせたみたな音だしてて耳障りなんです」
「菊地原」
「……やらせたいなら、命令すればいいじゃないですか」
「これは俺個人の頼みだ。アイツのあの顔、どこかで見覚えがある。それに帰還の度に木崎が曖昧な顔しているのも癪だ。だから、頼む」
「えー……」
「頼む」
「はぁ、わかりましたよ。やればいいんでしょ」
「ありがとう。三上もいいか?」
「はい。大丈夫です」
「じゃあ、一時間後に。開発室のPCと繋げたいから菊地原君はトリオン体でお願い。三上さんは菊地原君の聞いた音声データの経由地になってもらいたい」
「わかりました」
「菊地原了解」
『接続確認。これより録音を開始。いつでもいけます』
「了解。ていうか、何するの?音声データって事は僕の耳が必要なんでしょ?」
「うん。君には諏訪の拘束部屋にカメレオンを起動したまま入ってもらって声はもちろん、その時計を合わせた音っていうのを録音させてもらいたい」
「それで何がわかるのさ」
「俺の幼馴染で、三門の人間ってことがわかる。音に関しては、あいつに仕込まれた近界技術の解析の足がかりになる」
「ふーん」
「じゃ、聞いて欲しい内容を説明するね。平たく言うと、泣き声だ」
「はぁ?泣き声って、涙がでる方の?」
「そう。アイツは苦痛とか悲感では泣かない。でも、逆に感動とか嬉し泣きをする。昔からトトロとかドラえもんで感動するやつだった」
「涙腺緩くない?」
「アイツは泣き虫だからね。それが意味の分からない内にさらわれて、四年半も知り合いのいない未知の世界で兵士やって、挙句の果てに生身でトリオンを扱えるようになった。それは相当な苦痛を伴っただろうし、幾度となく彼岸を渡りかけたはず。そんな状況で侵略者側とはいえ、生まれ故郷に戻れた。なんなら拘束されて、滞在期間が延びた。昔の自分を覚えていて、尚且つ一目で今の自分を同一人物と判断する人間がいた。その人間が戻るように説得しに来てる。知らなかった自分の癖も親の情報も、記憶にないようなことも証明出来ると宣言した」
「なにが言いたいの」
「反応を見る限り俺を覚えているアイツが、目を覚ました後に泣かないはずがない」
「その自信はどこからくるのさ」
「半分は勘」
「うわ」
「もう半分は癖」
「どんな?」
「アイツは社交的な癖に意外と静かなんだ。だからかな、自分か俺の家、あとは俺と一緒にいる時は気が緩んで真顔のことが多い。もちろん軍人なんてしてる訳だからポカくらい身につけただろうけど、作った真顔と気の緩んだ真顔は違う。尋問の時、気は張っていただろうけど、それはあくまで隠すことにだ。あの顔は、緩んでたよ 」
「……そんなの、分かるわけないじゃん」
「わかるよ。俺はあいつの親友だからね。さ、そろそろ頼むよ。あと少しでESCの効果が切れる頃だ」
『入りました』
「データさえ取れればいいから、鮮明に聞こえるなら位置はどこでもいいよ」
『了解』
(確かに、耳障りな音だ。時計の秒針……というより分針か。それと砂時計。なんだろう、普通のサラサラって感じじゃなくて、どちらかというと粒の大きい、砂利に近いのか)
「ん……」
『あ、起きた』
「菊地原くん、手出しはダメよ」
『わかってますよ』
「チッ……このチョーカーか。威力つえーんだよ、抑えろってんだボケ」
『うっわ、口わる』
「………はぁー。っ〜〜」
「この音は?」
『どこか痛めてるんだと思う。範囲が広くて正確に特定はできないけど、音的には首から上。それと、胸?心臓に近いと思う』
(憶測にすぎないけど、生身でトリオンを操る実験体にされた弊害か)
「っ…………ざけんじゃねえ。まじで加減しろよ、こちとら生身のぜん、……チッ」
『?』
「『善良な一般市民』とでも言おうとしたんじゃないかな。でも不可抗力だろうがなんだろうが、軍人やって街壊して人殺して、人様の日常を壊した時点で当てはまらないって、途中で止めたんだ。とんだお人好しだね」
『ふーん』
「っ、はぁ……タイミング、わりぃんだよ。どいつもこいつも……!」
(どっちがだよ。近界民のくせに)
「折角、終われるはずっ、だったのに……!」
(きた)
「あっちまったらっ……ふっく、ひ、ぅ」
(本当に、泣いた……)
「らい、わっるい、らいぞう……ごめ、ごめんっ!おれ……ひ、く……うぁ、ああ、よかっ……よかった、!いきっ……てた……!たちかわ、つっつみ……!ご、めん……れ、いじっ!」
『寺島さん。首のやつ、使った方がいいかもしれない』
「どういうこと?」
『音が速くなってる。それと一緒に、なんだろう。軋む音が聞こえる』
《ESC起動》
「、はっ……が!」
「これで上に進言できる。ありがとう、二人とも。今度なにか差し入れするね」
「いえいえ。お気になさらないでください」
『どら焼き以外で』
「了解」