Champions Kissホロウ内の依頼を終えて帰還する中、ビリーは違和感を覚えた。
(さっきからモジュールの調子が変だな…イカれちまったか?)
その異変はホロウに入ってからから徐々に募っていた。
まぁ今の状況下では不要だし、いいか…と不調なモジュールをオフにする。
とはいえこれは早めに治しておきたいところ。
(修理費、あまりかからないといいんだがな…)
隣に立つ恋人、ライトをチラリと視界に入れる。
ここを出たら謝らねぇとなぁ、と心の内で項垂れる。
「どうかしたんすかパイセン?」
視線に気が付いたライトに尋ねられる。
「あ、いや、なんでもねぇ」
そう返答するとライトは「ふぅん」とだけ呟き、視線を前に戻し裂け目へと歩いていく。
(なんか怒らせちまったか俺?)
ライトの背後で1人頭を抱えるビリー。
この後のデートの予定をひとつキャンセルするとなると尚更気が重い。
「この先のエリアに出口があるみたいっすね」
そう言って早々と進むライトの後を慌てて追って裂け目に入る。
抜けた先は廃墟となった建物の瓦礫が散乱するエリアだった。
「……」
ライトは相変わらずの早足で歩を進める。
流石のビリーもライトの様子がどこかおかしいと思い呼び止める。
「なぁ、ライ…!」
その瞬間、グォォッ‼︎とエーテリアスの唸り声が鳴り響いた。
それも一体ではない、複数体の気配が感じ取れた。
「チッ、囲まれちまったか」
2人は臨戦態勢となり自然と背中合わせとなった。
一体のエーテリアスが瓦礫の上から姿を現し、ライトに狙いを定め飛び掛かる。
「ライト気をつけろ!」
ライトがこの程度の敵に遅れを取ることはない。
しかし先刻から様子がおかしいことに懸念を抱き、とっさに声をかける。
ライトは拳を構え力を込める、が……
「ッ…‼︎」
突如ガクリと膝を折り体勢を崩す。
「ライトッ⁈」
異変を察知したビリーは素早く身を翻し、ライトに迫るエーテリアスのコアを撃ち抜く。
「大丈夫かライト!」
様子を伺おうと肩に触れればライトの体がビクンと跳ねる。
「はっ、すんません…このホロウに入ってから、っ…なんかおかしくなっちまって…」
ゆっくりとビリーの方へと顔を上げたライトの息遣いは熱く乱れていた。
「どんどん体が熱くなって…パイセンに…抱かれたくて、堪んなくて…ッ」
それを聞いて自分のモジュールが壊れていたわけではないのだと確信した。
「恐らく侵食の影響だろう、俺もおかしくなってたからな」
「パイセンも?平気そうっすけど…」
「あー、故障かと思って切っちまったんだよ…性感モジュール」
「はは、そりゃあ便利でいいっすね…人間もそれができたら良かったんすけど…クッ」
ライトは意図せず滾る体を庇うように蹲る。
「ここから急いで抜け出さないとだな…まずはアイツらをなんとかしねぇと…」
瓦礫の上から、合間から、ぞろりぞろりと現れ、複数のエーテリアスのコアが2人に向けられる。
「俺にしがみつけ」
手を差し伸べ立たせたライトの火照る体を抱き寄せる。
「俺から離れなければ好きにしていい。その代わり…背中は預けたぜ」
ライトはビリーの意図を理解し、首に腕を回しフェイスシールドに口付ける。
それと同時に2人を取り囲むエーテリアスたちが次々に襲いかかる。
ビリーは正面から向かってくるエーテリアスを確実に撃ち抜いてゆく。
そんな危機的状況にも関わらず、ライトはビリーの首筋に唇を這わせジュルリと音を立てて吸い付く。
しかしその目はしっかりとビリーの背後を見据えていた。
「…7時の方向…」
聴覚モジュールに囁かれた方向に銃口を向け、ノールックで引き金が引けば、銃声と共にエーテリアスの呻き声が鳴り響く。
「6時、8時…7時120度」
背後からの気配と、背中を預けた後輩からの情報をツテに迷いなく銃弾を撃ち込んでゆく。
その瞬間もライトは侵食された欲に抗うことなく、ビリーの首に、顔に、唇を落としてゆく。
続く強襲に2人は冷静に、しかし滾る身は離さず濃厚に交わりながら対処した。
轟く銃声の音が鳴り止み、数多のエーテリアスが粒子となって舞い散る中、ライトはビリーの硬い頬を舌先で舐め上げる。
「ライト…」
性感モジュールは機能していないはずなのにライトの一つ一つの行為に興奮を覚える。
どうやら論理コアは、この可愛くて生意気で妖艶な恋人に侵食されているようだった。
艶っぽく挑発的な笑みがビリーを焚き付ける。
ライトの熱い掌がビリーの硬い頬に触れ、再びゆっくりと顔を寄せられる。
そして唇が触れる間際、ボソリと囁かれる。
「…180度、真上…」
その刹那、一体のエーテリアスの影が突如2人を覆う。
ビリーはライトから視線を外すことなく頭上へと腕を伸ばし、一切の躊躇なく上空に銃弾を放った。
撃ち抜かれたエーテリアスは力無く落ちてゆく。
銃をホルスターにしまったビリーはライトの腰に腕を回し、深緑色の髪に指を絡ませ無い口を押し付ける。
深く深く与えられる口付けに応えながら、ライトはガントレットに炎を纏わせる。
そして轟々と燃える拳を突き上げ、頭上寸前に迫るエーテリアスの残骸を塵と化した。
2人は何事も無かったかのように、静寂を得た空間で濃密な交わりを暫し堪能した。
「はっ…やっぱ俺のチャンピオンは、最高っすね…」
「随分カワイイこと言ってくれるじゃねぇか」
唇を舐めずり熱い吐息を溢す恋人の頬を撫でる。
「侵食の影響っすね」
「そこは素直になれよ…」
ライトはイタズラ表情を浮かべ首元に擦り寄る。
「ま、なんだっていいじゃないっすか」
「…あぁ、そうだな」
未だ侵食による熱に浮かされるライトを抱きかかえ、出口へと向かう。
「!…パイセン?」
「このままお持ち帰りだ…ホテルに着いたらモジュールも戻してたっぷり可愛がってやるから覚悟しとけよ、ライト」
「はは、そりゃあいい…期待してますよ、パイセン」
ビリーの首に腕を回し、チュッと音を立てて頬に口付ける。
しかしこの後、機能停止中も侵食され続けていた性感モジュールにより、制御不能となったビリーに気を失うまで抱き潰されることになるとは、この時のライトは知る由もなかった。