知れば知るほどライト
現在は郊外のカリュドーンの子所属
通称無敗のチャンピオン
過去に地下闘技場、傭兵の経験あり
傭兵時代にホロウ内で仲間を失っている
ざっと調べて箇条書きで並べた内容をぼんやりと眺める。
郊外の協力者に適していると判断し色々なツテを使い他にも多々調べ上げたがどうにも知れば知るほど好きじゃないタイプだなと悠真は結論づけた。
まぁでも業務上のやり取りの相手に好意は不要、寧ろ絆される可能性が下がって良いだろう。なんて、好いていたって割り切る自分を笑いながら独りごちる。
大切な人を無くして、下を向いて立ち止まって死に焦がれている。
そんな人間がこの世に居ることも理解出来る。ライトの生い立ちも哀れであると言えばそうなのかもしれない。
死者に縋り付き自らもそちらへ向かいたいと、そんなことが思える身分なだけ幸せだろうに。
いくら願ったって叶わない生に必死にしがみついて足掻いてもがいて無様に手足を動かしてる奴もこの世界にはいる。
「はーあ、最悪……」
意図せず自分の立場を自覚し嫌悪感が増す。
まぁいい。必要な関係が得られるならそれで。
悠真は広げていた資料を大雑把にまとめると寝支度にかかった。
「きゃーー!!!マサマサーー!!」
「わ、ちょっと落ち着いて、」
参ったなと悠真は僅かに眉を寄せる。
今日は朝から最悪だった。
というのもまず体調が絶不調だった。頭痛はするし吐き気は酷いし体は重いし気を付けないとふらついてしまいそうな目眩もある。それでも何とか仕事を終えあとは帰るのみだと気でも抜けていたのかファンらしい女子数人に囲まれた。
普段からファンへの扱いは得意ではない。
特に今は本当に勘弁して欲しかった。好意は嬉しいがはっきり言って迷惑だ。
「ごめんね〜僕今はちょっと忙し」
「マサマサかっこいいー!ねぇ写真撮ってもいい??」
人の話を聞け。最悪のコンディションにこの仕打ち、いつもなら流せる小さな失礼の一つ一つが悠真に追い打ちをかける。
あー本当に鬱陶しい。
「あのさぁ、君たち…」
「アンタいつまで俺を待たせる気だ。」
苛立ちのピークに悠真が言葉を放った直後、後ろから声がかかる。
悠真の背後に目をやった女子がきゃ、と小さく悲鳴を上げる。
「ねぇ、行こう…」
顔を見合せ慌てたように散っていった女子を呆然と眺めていると後ろからおい、と声がかかった。
「アンタ、殺気が盛れてるぞ」
ため息混じりのそれに振り向けば赤いマフラーにサングラス、刺々しいジャケットを羽織った長身の男が立っていた。
「あーれ、ライトさんじゃないですか、奇遇ですね。」
助けてくれたことには触れずニコリと笑ってやればライトの眉が僅かに顰められる。
気に入らなかったのかと思っていたらぐいっと腕を引かれる。
予想していなかった動きに簡単にぐらついた体を引っ張りライトが歩いていく。
「ちょっとちょっと、なんですか急に」
苛立ちを隠さず言えばチラリとライトが振り返る。
「アンタ、最悪な顔してるぞ」
座れ。
一言そう付け足しベンチに座らされる。
心配して態々ここまで連れてきたのか。微塵も想像していなかった展開に悠真が呆気にとられる。
「熱は?水か何かいるか?」
「……」
「大丈夫か?」
何も言わない悠真にライトが心配げに顔を覗き込む。
ふと上目遣いにサングラスから僅かに深緑色の中に赤が添えられた瞳が覗いた。
パチリと合った視線に何故か吸い寄せられる。
漠然と、とても綺麗だと思った。
吸い寄せられるように動いた手がライト頬に触れる。
「…ハルキ?」
悠真の様子にライトが心配げな声を上げる。
その声にハッとして手を離す。
ついでに忘れていた呼吸を再開し深呼吸してからじと、とライトを見やる。
「誰ですかそれ」
「アンタの事だが」
そう言えば人の名前をよく間違えるとどこかの情報に書かれていたっけ。
頭の片隅でそう思いつつもなんだか少し気が楽になった。
「僕は悠真ですよ、は、る、ま、さ。人の名前間違えるなんて失礼な人だな〜」
はぁ、と少し戻ってきた調子に肩を竦めつつそう言えば目の前の男は気まずそうにサングラスをカチャリと動かした。
「悪い…人の名前を覚えるのはどうにもな……」
「あーはいはい、いいですよ別に僕の名前なんて大して重要なことでも無いですし依頼さえこなしてくれれば。」
かったるげにそう返せば何か言いたげに悠真を見るが結局何も言わずに去っていった。
そんな様子に心の中でチ、と舌打ちする。置いていかれたことが何故だか気に食わなかった。
座って多少マシになったと言ってもまだ不調のままの身体にも苛立つ。
本当に不便で仕方がない。苛立ちを落ち着かせるために俯いて深呼吸していると黒いブーツの足先が視界に入る。
「やっぱり無理してたのかサダハル」
「……。」
コイツ、わざとか。苛立ちと呆れが同時に押し寄せたが幸い中和されたのかどうでも良くなった。
ゆっくり顔を上げれば缶コーヒーとペットボトルの水が渡される。
「なんですかこれ」
「そこの自動販売機で買ってきた。アンタいつもコーヒー飲んでるだろ。だから買ったんだが…体調悪い時に飲むのもでもないかと思って買い直した。」
「じゃあ、渡すの水だけでいいんじゃないですか」
「俺はブラックは飲めん」
どっちもやるから休んでろ。と頭を軽く撫でられる。
それにじわりと胸の辺りに違和感が走る。
「なら貰っときますよアリガトウゴザイマス」
違和感を無視して取り敢えず礼を言えばふ、とライトが小さく笑う。
「いい、これは貸しだからな」
夕日が反射したサングラス越しに見える悪戯に細められた瞳にどくりと心臓が反応する。
それすら知らない顔をして悠真は手元のペットボトルの蓋を開けた。
「しょうがないですね、今度またお返ししますよ。」