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    しんした

    @amz2bk
    主に七灰。
    文字のみです。
    原稿進捗とかただの小ネタ、書き上げられるかわからなさそうなものをあげたりします。

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    しんした

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    生存if七灰。
    どの季節も好きな灰原くんのとある冬の朝の一コマ。
    寒さに弱い七海の七灰https://poipiku.com/1088919/11161850.htmlの続きです。
    手癖で書いたのでずっと甘ったるい感じですが、こういう生存if七灰が好きです。

    冬も好きだなぁって思ってる灰原くんの七灰.





    四季の中でどれが一番好きかと問われたら、回答には少し迷ってしまう。
    春は暖かくて外で遊びやすい。桜や菜の花や有名どころを筆頭に名前も知らない野花も道端で咲き誇るから、目に入る景色がカラフルになるから気分が明るくなる。
    夏はイベントが盛りだくさん。プールに夏祭り、海水浴にキャンプ。学生の頃は夏休みの宿題が少し憂鬱だけど、どこまでも青い空と眩しい太陽はそれを吹き飛ばすくらい、パワーを持っていると思う。
    秋は言うまでもなく美食だろう。美味しい物に溢れていて、食べても食べても、食べたいものは無くならない。食いしん坊からすると一番魅力的な季節かもしれない。
    そして、冬。
    景色は少し寂しくなるけれど、その分空気は澄んで、陽も短くなるから他の季節より夜空の星がよく目に入る。クリスマスにお正月とイベントごとにも欠かないし、食べ物だってあったかい鍋物や濃厚なシチューにチーズたっぷりのグラタンなんて、他の季節よりなんだか豪華になるような気もする。
    それに、寒いこの時期は、他の季節よりもさらに彼を近くに感じられるのだ。






    ふと、意識が浅いところまで浮上した。
    重たい瞼を小さく瞬かせると視界と頭が少しずつクリアになっていく。目に入ってきたのは淡いグレーのスウェット生地と逞しい首とくっきり浮き出た喉仏。そして、少し視線を上げた先には、愛しい人の穏やかな寝顔があった。
    冬は呪術師にとっては閑散期になるが、高専教員は年末が近づくにつれて事務的な業務が増え、この時期は灰原の方が帰宅の遅い日が続いていた。ゆっくり過ごす時間もなかなか取れない中、昨日は久々に重なる休日の前夜だった。
    先に帰宅していた七海が作ってくれていた晩ごはんを食べて、お風呂も先に入らせてもらい、ひと息着いた時には温かいココアまで用意されていた。
    至れり尽くせりだなと思いながら、ソファに並んで座りなんでもない話をする。
    年末の買い出しの相談に、年始を少し過ぎてから予約を取った温泉旅館周辺のリサーチ報告。来週に迫ったクリスマスはお互い仕事で家で過ごすことは前から決めていたから、チキンとクリスマスケーキの引き取り時間をもう一度確認しておいた。
    話をしているうちに中身が空になったカップをローテーブルに置くと、元々近かったお互いの距離が更に縮まった。こてん、と七海の肩へ頭を預けて、お風呂とココアでぬくもった手のひらを七海の手のひらへするりと絡ませる。
    「疲れているだろう?」
    にぎにぎと戯れるような触れ方の片隅で少し甘えるような仕草を繰り返していると、七海が静かにそう口にした。顔を上げると言葉通り七海の眉は気遣うように下がっていたけれど、見つめてくる翠眼がほんのり熱を湛えていて思わず小さく笑ってしまった。
    そして、返事の代わりに七海の唇を塞いだあと。
    自分の輪郭が曖昧になるくらい、ベッドの中でとろとろに融かされた。
    数時間前まで情熱的な視線で射抜いてきた翠眼はまだ瞼の下に隠れている。学生の頃に比べたら七海も朝に強くなったと思うが、それでも冬になると眠りが深くなるのか七海はなかなか起きてこない。その理由を、こうして雄がそばにいてくれるからだよ、と心底幸せそうな顔で抱き締められた時は随分と恥ずかしいことを口にするようになったと、こっちが照れてしまう羽目になった。
    高専の頃は、身体を重ねた翌朝も自分の方が先に目覚めたら、起きていろいろと朝の支度をしていたものだ。けれど、歳を重ねるごとに七海も要領がよくなっていった。昨晩も、お風呂を勧められた間に七海は翌朝の支度を完璧に終わらせていたようで、炊飯器のタイマーもお味噌汁用の野菜の下ごしらえもバッチリだった。
    負担を掛けているから、という理由が一番であることは分かっている。しかし、起きた時にベッドで一人なのが嫌だ、という理由も少しはあるような気もしているが、本当のところはまだ確かめていない。
    出会ってから十年以上経ち、お互い肉体的にも精神的にも大人になったと思う。ただ、こうして人を抱き枕のようにしながらすよすよと眠っている姿を見ると、いつまで経っても可愛いなぁ、と思ってしまうものなのだ。
    もう少しちゃんと顔が見たくなって、小さく身体を身じろがせる。すると、七海の眉間が微かによって、金色のまつ毛に縁取られた瞼がゆっくりと上がっていった。
    「おはよ」
    「……おはよう」
    「ごめんね、起こしちゃった」
    「いや……なんとなく起きてはいたんだが、なかなか目が開けれなくて」
    「そうなんだ。建人っぽいね」
    そう微笑みつつも、変な独り言を言っていなくてよかったと、内心ホッとする。何度か瞼を瞬かせていた七海は、ようやく目元がはっきりしてきたのかじっと見つめてきた。
    「身体、大丈夫か?」
    「大丈夫。って言いたいけど、まだちょっと怠いかも」
    「そうか」
    眉を下げた七海が顔を寄せてくる。額へ柔らかく触れたのは、薄い唇だ。
    もう少し若い頃の七海は、無理させてすまないとよく口にしていた。だが、お互い承知の上で行為に及んでいるのだし、こっちから誘う時もあるのだからそんなに気にしなくていいよと伝えてからは、こうしてごめんの言葉の代わりにキスをしてくれるようになったのだ。
    お返しに、頬を包み込んでむにむにと揉んでみる。七海は少しくすぐったそうに瞳を細めていたが、腰へ回していた腕にぎゅっと力を込めてきた。
    お互いの首筋に顔を埋めて、お互いのぬくもりを感じ合う。昨夜の熱く融け合うような時間とは違う、穏やかでゆったりとしたふれあい。
    「もう朝食にするか?ご飯、そろそろ炊けると思うけど」
    しばらくして、少し腕を緩めた七海がそう口にした。
    確かに、自然と目が覚めた時は大抵お腹が空いている時だ。けれど、今までピッタリと合わさっていた場所に小さな隙間ができたのがなんだか嫌で、それを埋めるように七海の背中に回した腕にぎゅうっと力を込めた。
    「もうちょっと、こうしてたいなぁ」
    胸元に頬を押し付けて、そう呟く。すると、息が苦しくなるくらい抱き締められて、思わず声を上げて笑ってしまった。






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