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    しんした

    @amz2bk
    主に七灰。
    文字のみです。
    原稿進捗とかただの小ネタ、書き上げられるかわからなさそうなものをあげたりします。

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    しんした

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    1月の新刊予定。
    記憶喪失になった灰原くんに恋人だと嘘をついてしまう七海の七灰。
    偽りの恋人として過ごすなかで罪悪感に苛まれていく七海と恋人としての関係を築こうと真っ直ぐ向き合う灰原くん。
    七海視点はこれで終わりです。続きからラストまでは灰原くん視点で進む予定です。
    読み返してないのでいろいろとご了承ください。

    1月七灰原稿④ *



     寮から校舎へと続く、すっかり葉を散らせた並木道。落ち葉を踏みしめながら歩いていると、後ろからよく通る声に名前を呼ばれた。
    「七海ーっ!」
     振り返ると満面の笑みを浮かべた灰原が小走りで駆け寄ってくる。
    「おはよう」
    「おはよ!なんか今日早いね!」
    「日本史の教科書、置きっぱなしにしていたの忘れてたんだ」
    「そっか!今日の一問一答、七海が当たる番だったもんね!」
    「間違えたら課題が増えるシステムはそろそろやめてもらいたいな」
    「確かに!」
     なんでもない同級生同士の会話を続けながら、凛と冷えた冬の朝を並んで歩く。灰原と出会ってから初めて冬を迎えるが、朧げな春の朝も眩しい夏の朝も爽やかな秋の朝もこうして二人で歩いた。
    「あっ、午後からの呪術実習、出発時間変更になったよ。三十分前倒しだって」
    「わかった。じゃあ、昼食べながら資料の確認をするか」
    「オッケー!」
     灰原の記憶を奪った呪詛師の足取りは何も掴めないままだったが、灰原は変わらず毎日一生懸命に過ごしていた。任務にも記憶がなくなる前と同じくらい出るようになり、実戦でも呼吸を合わせることにアイコンタクトも必要ないほどになった。本当に今まで通りの日々が戻ってきたようだった。
     しかし、いくつか変化したこともあった。
    「七海」
     そっと距離を詰めてきた灰原が少し声を落として名前を呼んだ。軽く触れた肩の感触も相まって、なんだか左半身がくすぐったくなる。
     変わったことの一つ。七海が灰原に嘘を吐いた日から、物理的な距離が明らかに縮まった。しかも、灰原の方から積極的に近づいてくる。
    「今日さ、夜部屋行っていい?」
    「別にいいよ。でも、明日は朝から合同演習だからそんなに遅くまではだめだからな」
     元々、灰原はよく七海の部屋へやって来ていた。記憶がなくなる前はもちろん、記憶がなくなってからは授業の遅れを取り戻すという目的でほとんど毎日のように灰原は七海の部屋で過ごしていた。というのに。
     変わったことのもう一つ。
     七海の部屋へ来る時、特に夜の場合は必ず許可を取ってくるようになった。
    「わかってる。ありがと七海」
     断るわけなんてないというのに、灰原はくりくりとした黒い瞳を嬉しそうに細めていく。走ってきたせいで赤くなっていた頬もさらに色づいたように見えて、七海はさりげなく視線を外した。以前はこんなふうに頬を染めることもなかったからだ。
     灰原は明らかに恋人として関わってくれている。自分がそう嘘を吐いたのだから当たり前のことだ。
     ふと、視界の外で手の甲が触れ合った。遠慮がちに七海の小指へ灰原の人差し指が絡まってくる。しかし、灰原は満足したのかそれ以上何もしてこない。
     体温の高い灰原でも流石に今日の気温では末端が冷えている。冷たい自分の手のひらでは余計冷やしてしまうかもしれない。ならこのままの方がいいのでは。触れている微かな部分から伝わってくる情報に、思考がぐるぐると巡る。
     ちらりと隣へ視線を向けると、鼻の頭まで赤くした灰原がはにかんだ笑みを浮かべた。その姿に、七海は灰原の手を掴んで自分の制服のポケットへと突っ込んでいた。
    「この方がちょっとくらい温かいと思うから」
     ぶっきらぼうな言い方になってしまったが、灰原の表情が綻んでいく様子が視界の端に映り内心ホッとした。
    「うん、そうだね」
     ポケットの中で灰原が手のひらをぴたりと合わせてきた。冷えていた指先が二人分の体温でじわじわと温まっていく。
     灰原は辿々しくも恋人としての関係を築こうとしてくれていた。そんなところがたまらなく愛おしくて、灰原への想いは募っていくばかりだ。しかし、灰原が真っ直ぐ気持ちを届けてくれるたび、自分が灰原へしたことの汚さを痛感させられた。



     偽りの恋人としての日々は、罪悪感に苛まれる日々だった。
     だが、あれは嘘だったと言い出すこともできず、七海は恋人として過ごした嘘の日々を灰原に吐き続けた。
     付き合ったのは夏休みに入ってすぐだということ。付き合っていることは周囲に秘密にしているということ。デートらしいデートはまだできていなかったこと。初めて手を繋いだのは七海の部屋で映画を見ていた時だということ。
     灰原は七海の嘘を全て信じ、七海が吐く偽りの思い出へ嬉しそうに耳を傾けた。
    「付き合ったのって花火大会の日だったんだ」
     もちろん付き合ったことは嘘だ。しかし、その花火大会には灰原と二人で遊びに行っていた。
     高専から二駅離れた河沿いで開催された、この辺りではそこそこ規模の大きな花火大会。七海は全く興味を持っていなかったが、キラキラと瞳を輝かせた灰原に誘われたなら断れるわけもなかった。
     河川敷にずらりと並んだ出店を端から端まで歩き、どれだけ食べるんだというほど買い食いをした。射的や輪投げで子どもっぽい勝負をして、景品のチープさに笑いあった。人混みのせいで普段よりもさらに灰原との距離が近く、内心ソワソワした。
     メインイベントの花火は人混みから少し外れた場所で見た。次々と打ち上がる花火を見上げていた時。珍しく静かに夜空を眺めていた灰原の横顔の方が花火よりもずっと綺麗に見えて、募っていた想いが溢れそうになったことは今でもよく覚えている。
    「どっちから好きって言ったの?」
    「……私からだよ」
    「へぇ、そっかぁ」
     嘘を重ねる後ろめたさと間接的に気持ちを伝える気恥ずかしさで居心地が悪くなる。それに、灰原が何やら含みのある笑みを浮かべていることも気になった。
    「どうした?」
    「えー、なんか七海からってイメージできないなって思って」
     それはそうだろう。実際は告白していないのだから。しかし、七海にとってあの花火大会な思い出だ。
     人の多い場所には人では無いモノがよく紛れていて、小さな時はできるだけ避けていた。対処できる力を守ってからも、わざわざそんな場所へ行く必要はないと足を運ぶことはなかった。あんなに楽しい夏を過ごしたことは七海にとって初めてで、それを経験させてくれたのは誰でもない灰原だった。
    「でも、夏の花火の時っていうのは七海っぽいなって思ったよ!すごくロマンチックで!」
     なんて返せばいいのかわからず、七海は黙ったまま視線を落とした。ロマンチックかもしれないが、結局は何も行動に移さなかった。灰原への想いは喉の手前まで出掛かっていたというのに、それを言葉にする勇気はあの時の自分にはなかったのだ。
     もし、あの時伝えていたら。
     今さら考えてもなんの意味もない想像が頭の中に浮かぶ。
    「ね、七海」
     隣に座っていた灰原の肩がとんっと軽く触れた。内緒話をするような声で名前を呼ばれ、下から覗き込むような黒い瞳に脈が少し早まっていく。
    「どうした?」
    「告白した時のこと再現してほしいな、って言ったら怒る?」
    「は!?」
     予想外の発言に思わず声が大きくなった。なんて恥ずかしいことをねだってくるのだろう。だが、灰原の窺うような視線に断ることも誤魔化すこともできそうにない。
    「怒らない、別に」
     なんとか言葉を返すと灰原はホッと息を吐いた。
     待っているのか、灰原はきゅっと唇を結んでじっと見つめてくる。期待のこもった視線がズキズキと胸を刺す。してもいないことを再現なんて無理な話だ。しかし、灰原に告白する状況を考えたことがないわけではなかった。花火大会の日のように、この雰囲気ならどうだろうという場面に遭遇したことも何度かあった。
     ぼんやりと頭の中でイメージしていた場面を詳細に思い浮かべる。
     灰原だけを視界に入れて、ゆっくりと名前を呼んで。
    「灰原」
     胸の中で膨らみ続けている想いを、たった二文字の言葉に込める。
    「きみが、好きなんだ」
     言い終えてから顔面が急激に熱くなっていった。心臓も破裂しそうなくらい激しく動いていて、喉の奥がぎゅうぎゅうと狭まっていくようだ。
     自分の気持ちを真っ直ぐに伝えるということは、こんなにも緊張するのか。しかも、本来なら相手がどう受け止めてくれるのか、相手がどう返してくれるのか、何もわからないのだ。それなのに、自分はなんて狡いことをしているのだろう。自分を捉える黒い瞳を直視することができず、思わず視線を逸らしてしまう。すると、肩にかかる重みが増して、膝の上で握っていた拳もそっと包み込まれた。
    「僕も七海が好き」
     大好きだよ。
     囁くような声が耳に届き、やんわりと指が絡まった。
     灰原がどんな表情をしているのか見ることはできない。ただ、握られた手のひらは指先まで熱を持っていることははっきりと分かり、愛おしさが込み上げくる。ただ、灰原から『好き』という言葉を貰えた喜びよりも、卑怯な自分に対する嫌悪の方がじわじわと胸の内を侵食していくようだった。
     嘘の告白を再現した日から、灰原がもっと距離を縮めてくることに七海は気がついた。
     普段でも、身体のどこかが軽く触れ合う。ふとした瞬間、幸せそうな笑みを浮かべる。二人きりの時、名前を呼ぶ声に甘さが混じる。
    「ハグしてみたいな」
     灰原が照れながらそう言ったのは手を繋ぐことに慣れてきた頃だった。
     好きな人から求められて嬉しくないわけない。恋人同士なら浮かれていることだろう。しかし、自分と灰原は本当は恋人同士ではない。自分の欲望を優先させて、嘘を吐いて。何も知らない灰原を騙しているというのに。
    「あっ、やじゃなかったらでいいんだけど!」
     無意識のうちに唇を噛み締めていたせいか、灰原が慌てて声を上げた。無理やり作った笑顔に胸が苦しくなる。
    「嫌なわけない!私がどんなに、」
     きみのことを好きなのか。
     七海は咄嗟に出かかった言葉を飲み込んだ。今の自分に灰原が好きと言う資格はない。また口をつぐんでしまったが、瞳を丸くしていた灰原は小さく笑って目尻を下げた。
     ゆっくりと灰原の腕が伸びてきて、七海も合わせるように腕を広げた。背中に手のひらがそえられて、ふわりと黒髪が頬を撫でる。何の衝撃もなく腕の中に灰原が収まったと思えば、首筋に微かな吐息がかかってぞくりと背筋が震えた。
     今まで灰原を抱えたことも灰原に抱えられたことも何度もあった。だが、それまでとは違う感覚に頭の芯がぐらぐらと揺さぶられる。
    「七海」
    「なんだ」
    「好き」
     灰原の純粋な気持ち。しかし、それは偽りの恋人である自分へ向いているもの。嘘吐きの自分に向けられたものではないのだ。
    「……ああ、私もだよ」
     もし、記憶が戻ったら。
     灰原は私のことをどう思うのだろう。



     *



     クリスマスなんて今まで気に求めたことはなかった。
     だが、世の恋人たちにとっては一大イベントだ。例にも漏れず灰原は一週間前からそわそわしていた。
     とはいえ、呪術師に休みなんてない。クリスマスイブに急遽入った任務を無事に終えたときにはもうすっかり夜は更けていた。結局、ボロボロの姿のまま二人でコンビニに寄り、ケーキとチキンを買って帰った。
     値引きされたケースとチキン、適当に千切ったレタスとハムのサラダ、インスタントのコーンスープ。付き合って初めてのクリスマスにしてはささやかすぎる光景だが、灰原は「メリークリスマス!」と満面の笑みでコーラの入ったコップをカチンと当ててきた。
     任務で疲れていたこともあり食卓の上はあっという間に綺麗になっていき、甘いだけのコンビニケーキもいつもより美味しく感じた。プレゼントを買いに行く時間がなかったことはお互いわかっていたので、冬休みが終わる前に一緒に買いに行こうという話なった。
     片付けも終わり、深夜番組も終わりに差し掛かった時。
     灰原がそっと距離を詰めてきた。肩が触れて、手のひらが重なって、指が絡まって。触れ合った部分から灰原の温もりがじんわりと伝わってくる。
    「七海」
    「ん?」
     続きを待っていたが、しばらく経っても灰原からは何も返ってこない。不思議に思ってもたれ掛かっている灰原へ視線を移すと、黒い髪の下から覗く耳が真っ赤に染まっていることに七海は気がついた。
    「灰原?」
    「……あのね」
     おずおずと顔を上げた灰原は、聞いたことがないくらいの小さな声でつぶやいた。
    「キス、したいなぁって」
     いつかこんなことを言われるだろうと予想はしていた。灰原は自分のことを好いている。恋人として関係を築こうとしている。自分と触れ合うことを望んでいる。
     けれど。
    「いいのか?」
     灰原から言ってきたというのに可笑しな返しだと頭ではわかっていた。これまでも、恋人として甘えてくる灰原に対して罪悪感を抱きながらも応じてきた。曖昧に誤魔化して灰原を戸惑わせたくはなかったからだ。とはいえ、同級生や友達ではしないであろうキスという行為に対しては、流石に戸惑いが生まれた。灰原にとって自分が初めての恋人であることを知っていたから尚更だった。
    「うん」
     しかし、七海の葛藤を他所に灰原は頬を綻ばせて頷いた。
    「僕、半年間の記憶思い出せなてないし、その間に感じたいろんな気持ちもわからないままだけど、新しい思い出をこれから七海といっぱい作っていきたいなって思ってるから」
     正直、灰原を恨めしく思った。こんなこと言われたら断れるわけない。今さら嘘を吐いていたなんて口が裂けても言うことはできない。
     灰原の真っ直ぐで前向きな言葉に、自分がどれほど卑怯で小さな人間だということを思い知らされる。しかし、灰原のそんな一面にたまらなく惹かれている自覚もあった。灰原にこれほどまで想われている偽りの恋人である自分自身へ対する嫉妬が生まれたことにも気がついていた。
     心の中はぐちゃぐちゃで、なんて返せばいいのか何もわからない。ただ、いま目の前ではにかんでいる灰原を悲しませたくはないと思った。
     赤くなった頬へ手のひらをそえると、黒い瞳が微かに揺らめいた。理解したのか灰原の唇がきゅっ、と結ばれる。ゆっくり距離を詰めていくのと同じ速度で、黒い睫毛が伏せていく。もう、言葉はいらなかった。
     触れていたのはほんの一瞬だった。しかし、初めての感触に七海の心臓は破裂しそうなほど脈打っていた。
     してしまった。大丈夫だっただろうか。おかしくなかっただろうか。嫌じゃなかっただろうか。
     頭の中でぐるぐると後ろ向きな考えが巡る。すると、俯いて首まで真っ赤に染めていたが小さく笑った。
    「なんか照れるね。でも、すっごく嬉しい」
     向けられたのは幸せで仕方ないと言っているような微笑みだった。
     灰原の笑顔を壊さなかったことに心底ホッとした。ただ、真っ直ぐに自分を見つめる灰原を直視することができず、七海は黙ったまま灰原を腕の中に閉じ込めた。


     呪詛師の死体が発見されたという連絡が入ったのは、クリスマスの翌日のことだった。



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    ヤク厨

    MEMO前垢ネタツイ
    本家血筋のki×私生児41♀腹違いkiis♀のドロドロ展開
    本家血筋のki×私生児41♀
    ある日幼いkiの元にki父が突然連れてきたのは独では珍しい黒髪と矢車菊のような瞳の色が印象的な女だった。女はkiとは腹違いの3つ上の姉だという。昔41母に惚れたki父が無理やり関係を迫り出来た子であるというが、先日41母が亡くなり身寄りがなくなった41♀を引き取ったとのことだった。蝶よ花よとki家の長男として大切に育てられたkiはその時与えられたばかりのフットボールに夢中で、微塵もその姉とやらには興味は湧かなかったが、やけに姉に触れて猫なで声で話しかける父とその隣の姉をまるでゴミのような目でみるki母の姿は妙に覚えている。姉がきて1ヶ月、その姿を屋敷で見ることはなく、kiの中で姉という存在がいたことさえ薄れてきた頃、フットボールに夢中になっていたkiの耳に聞きなれない音が届く。聞いた事のない音に興味が沸き、その元々鋭い五感を研ぎ澄ませ音の元を辿れば、そこに居たのは寂れた離れとそこの窓辺に座り歌う41♀だった。綺麗な歌にkiが近づけば41はkiに気づき口をとじてしまった。それがなんだか惜しくてkiは強請るように初めて姉に話しかけた。「なんのおうたなの」「…故郷の子守唄」よく母さんが歌ってたんだと姉は以外にもすんなり答えてくれた。もっと聞かせてとせびれば姉は少し戸惑った後に再び子守唄とやらを歌ってくれた。言葉はまったく分からないけれど、その姉から紡がれる音にkiが心奪われたのは確かであった。それからkiは毎日寂れた離れに通うようになった。姉の歌を聞きに、そして姉は以外にもフットボールに興味を示し2人でボールを蹴りあうようにもなった姉は色々知っていた。そりゃあ3年も多く生きてるからなと笑っていた。姉は優しかった。たまにkiを意地悪く笑いからかう時もあったけど、41♀の傍はなんだか暖かくてとても居心地が良かった。だからkiは姉に毎日会いに行っては膝の元で甘えた。「おうたをうたって」「いっしょにあそんで」姉さん姉さんと後をついてまわるようになるkiを41♀は優しく撫でてくれる。姉さんとずっと一緒にいたい、ずっと一緒だったらもっと幸せなのに。そう思ったkiは無邪気に離れから本家に行こうと誘うが41♀は決して頷いてくれることはなかった。
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