Shall we get something to eat場地が千冬と出会ってから何度目かの10月31日、いつものように仕事帰りに千冬の家に夕食を食べに来ていた場地が、ふと手を止める。
「どうしたんスか?」
味付けがおかしかっただろうかと、千冬は場地の顔を見る。今日は一虎は女の子とハロウィンパーティーに行くと言ってこちらには来ていないので、久しぶりに場地と二人の食卓だ。
「なんかよぉ…」
ばじは箸を持ったまま、皿に乗っている生姜焼きを見つめていた。
「俺、前に、こうしてオメーと2人でメシ食いてぇなって思ったことがあったような気ィすンだよ」
何かを思い出そうとするように少し眉間に皺を寄せる場地は、千冬の視線に気付くとニッと笑った。
「まあ気のせいかもしんねーけど。でも、オメーとメシ食う時間、好きなんだよな」
そう言って、場地はまたうまいうまいと箸を進めはじめる。千冬はそんな場地を見てたまらず胸を押さえた。
千冬の中にあるいつかの記憶。きっとはっきりとはしていないが、同じ記憶が場地の中にも残っている。自分と同じように、どの世界線の場地も、今の場地と繋がっているのだ。
そして、2人でメシを食おうと手紙を残した場地が今、千冬の作った食事をうまそうに食べている。千冬はこれまで感じたことのない幸福と安堵で、涙を止めることができなかった。
そんな千冬に気付いて場地は驚いた顔をしたが、すぐに手を伸ばしてすっかり黒が馴染んだ千冬の頭を撫でた。
「シシ、すみません。場地さんにそう言ってもらえて嬉しくて」
千冬は目尻を拭いながら、撫でられた感覚をなぞるように少し乱れた髪に触れる。
「でも、なんか今のってプロポーズみたいっスよ」
そう言って笑う千冬に、場地ははたと気付いたように呟いた。
「おー……そうか。そうだな」
そして一人納得したようにうなずき、千冬の左手に自分の手を重ねて告げる。
「千冬ぅ、俺と結婚してくんね?」
口にしてみて、場地の中で何かがすとんとはまったような気がした。自分が望んでいるのはまさにこれだったのだ。
腹心、兄弟、親友、雇用主と労働者。場地と千冬の関係にはこれまでもさまざまな名前があったが、最近はそのどれもしっくりきていなかった。
千冬に愛おしさを感じるようになっていたからだ。同時に抱いている、誰にも渡したくないという独占欲にも気付いていたが、これがどういう名前の感情なのかは、場地にはわからなかった。
だが、プロポーズという言葉を聞いてようやく腑に落ちた。実際に言葉にして確信した。
場地圭介は、松野千冬を愛している。
ずっと前からこの気持ちは場地の中にあったのだろう。もしかしたら生まれる前から愛していたのかもしれない。
「ずっと2人で、一緒にメシ食おうぜ」
場地は目の前で顔を真っ赤に染めて目を泳がせている千冬の頬に触れ、誓うように言った。