解せないんだ。「うわ…よくそんな砂糖の塊みたいなの飲めますね。」
真っ白なホイップに甘いシロップやらいちごソースやらなんやらがたっぷりかかったそれを機嫌が良さそうに飲んでいる隣の人物に悠真が思わず渋い顔をする。
見てるだけで胸焼けがしそうだ。
「なんだ欲しいのか?」
そんな悠真に一旦飲むのをやめて態々首を傾げて聞いてくるライトにぎゅっ、と悠真の眉間に皺が寄った。
「冗談言わないでくださいよ、絶対いらない。」
「案外美味いぞ」
「無理無理僕そんなの飲んだら胸焼けして一日中吐き気と戦わなきゃいけなくなるんで。どうぞライトさんおひとりでお飲みになって下さーい。」
態と恭しく言えばライトがククっと小さく笑った。
仕事の情報共有をした後に前回の貸しを返すと悠真が提案すればライトからこの見るからに激甘の物体を買ってくれと言われた。
飲み物の値段としてはまぁ高い方なのか?といったものだったが言ってきた本人は満足気に飲んでいるのでまぁいいかと頬ずえをしつつ眺める。
「甘い物が好きなんですね」
思ったことを口に出せばライトは考えるように顎に手を当てる。
「そうでも無いが…たまに無性に欲しくなるな」
離した唇にクリームでもついたのかペロリと舐める。
僅かに覗いた赤い舌に目が奪われる。
そのまま口の中に収まったそれを追いかければ薄い唇に目が行く。
女性のようにぷるんとはしてないそれは妙に悠真の興味を唆る。
「俺の顔に何ついてるか?」
返事もせずにじっと眺めていたからかライトがごし、と乱暴に口元を拭う。
それにあ、と思わず声を出して唇が傷つく、と思ってしまったことに気づき自分を誤魔化すように咳払いをする。
「ンッ、いや〜、ちょっとボーとしてただけですよ。」
取り繕うようにヘラりと笑ってみせるとライトが怪訝な顔をする。
それにやっぱり不自然だったかと内心舌打ちしているとすっと端正な顔が近づいてくる。
「へ、」
視界がブレる程近いそれにピシリと固まっているとライトがそのままこつんと額を合わせてくる。
「…熱は無さそうだな。まだ本調子に戻ってないのか?」
ゆっくり離れると心配そうに聞いてくるライトに悠真は動けずにいた。
なんだ、何された今。心臓がバクバクと煩い。さっきまで近距離にあった顔が離れない。
それを軽く頭を振り誤魔化す。
「や、やだな〜、あれはちょーとたまたま体調が最悪で……僕元々病弱で貧弱ですし?よくあるんですよね〜」
「体が弱いのか?」
心配そうに見つめてくるライトにはたと固まる。
今までこう言えばまたそんなこと言って…と呆れたような顔をされるのが常だったため動揺する。
「いや…えっとぉ、じょ、冗談ですよ〜!病弱な人間が執行官なんて出来るわけないじゃないですか〜!」
あはは〜と笑ってやればそれでもじ、と静かに見つめられ居心地の悪さに目を泳がす。
「なんだ、嘘言われて怒っちゃいました?」
とぼけるように笑ってやればライト眉間に皺がよった。
ああ怒ったかな。なんて思っているとライトがふい、と顔を逸らした。
「あんたがそう言うならそれでいい…
ただそれが嘘だとして、この前体調が悪かったのは事実だろう。」
「なら心配するのは当たり前だ。」
ライトがくるりとストローを回すとカラリと底に入っていたらしい氷が鳴る。
「それと、あんたがどれだけ賢くて上手く立ち回れたとしても、俺の前でまで元気なフリをする必要は無い。」
俺はアンタの仲間でも敵でもないからな。
そう言い終えるとからになったゴミをポイと投げてゴミ箱に捨てる。
ガタンと音を立ててそれは綺麗にゴミ箱の中へ消えていった。
「まぁ味方でもない相手に気を緩めろという方が難しいだろうが俺は案外アンタのことを気に入ってるんだ。」
ぽふりとライトの手が悠真の頭に乗る。
ふわふわと撫でてくる手は温かい。
「アンタは立派だがたまには息抜きもするんだな」
ふわりと笑って離れたそれを目で追う。
じんわりと温かいものが身体中に浸透していく感覚。
「……なんか、子供扱いしてません?」
咄嗟に出た言葉はそんな子供が拗ねたような陳腐なものだった。
それにライトがははっ、笑う。
「俺からすればアンタは子供だろ」
「そんな歳離れてませんよ…しかも僕の方がお金持ちですし?」
ニヤリと笑ってやればライトが少しムッとする。
「そりゃ凄い、流石はエリート様だな」
「ええ、僕エリートなのでそりゃもう有り余るほどお金もってますからね」
鼻で笑ってくるそれに笑顔でそう返せばライトがむす、と顔を顰める。
「…ならもっと高いものを請求すりゃあ良かったな。」
「今度はもっと高いの頼めばいいじゃないですか」
当たり前のように言ってのける悠真にライトが僅かに目を見開く。
次があるのか、なんて思っていると悠真がふふんと自慢げに鼻を鳴らす。
「高級スイーツでも何でも僕がぜーんぶ奢ってあげますよ」
自信満々にそう言い切った悠真にライトが思わず吹き出す。
「はっ、あはは、そりゃ光栄だね。それじゃあ次のデートも楽しみにしてる。」
愉快そうに笑うとぽとりと悠真の手にロリポップを1つ置いてひらりと手を振る。
「は、」
デートという言葉に固まっていた悠真が我に返ると既にライトは遠くに消えていた。
「……。」
解せない。何だかとても解せない。
途中から自分らしくもなくガキのような振る舞いをしてしまったことが今になって恥ずかしくなってきた。
「調子狂うな……」
掌に乗せられたロリポップを見るとぶどう味と書かれていた。