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    にぬきふみ

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    にぬきふみ

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    クリスマス過ぎたけど書いたので載せます。
    カプ要素なしのウララギさんのクリスマス話。モブミューモンががっつり居ます!

    #SB69
    #ウララギ
    japaneseYew

    年に一度のお客様12月25日、午前1時58分。

    「皆さん、今日もありがとうございました」
    「ああ、ウララギもお疲れ様……です」
    「今日のライブもちょー楽しかったね!」
    「また来るよ。おやすみ、ウララギ」

    BAR【夜風】で行われたクリスマスライブも無事に終わり、ウララギはリカオ達を店の外にまで出て見送っていた。
    3人が角を曲がり、その姿が見えなくなるまで確認すると、ウララギはふう、と満足そうに息を吐いた。
    出入口のドアに掛けられていた看板をOPENからCLOSEへとひっくり返し、明日の仕込みのために店内へ戻ろうとしたウララギだったが、背後に近づいて来た足音を聞いて動きを止める。
    足音の方向へ顔を向ければ、そこには老ミューモンが一人、立っていた。
    「すまない、もう店じまいだったかね」
    真っ白い髭をたっぷりと蓄えた、恰幅の良い老ミューモンが、申し訳なさそうに尋ねる。
    「いいえ、大丈夫ですよ。いらっしゃいませ」
    看板はCLOSEにしたまま、ウララギはにこやかに、この夜だけの特別なお客様を店内に招き入れた。

    【夜風】の店内に招かれた老ミューモンは、その大きな体でカウンターのスツールにどっしりと座る。
    「今年もお仕事、お疲れ様でした」
    厨房へ入ったウララギが、バーカウンター越しに温かいおしぼりを差し出すと、老ミューモンは嬉しそうにそれを受け取る。
    おしぼりを渡す一瞬、ウララギの手に触れたその指先はすっかり冷えきっていた。
    「毎年、仕事の後にここへ来るがすっかり楽しみになってるよ」
    おしぼりで手を包み込み、その温かさにほっとしたような表情になりながら、老ミューモンは話す。
    「ありがとうございます。今夜もいつもので、よろしいですか?」
    「ああ、いつも通り、一杯だけ暖かい飲み物を頼むよ。ノンアルコールでね」
    この後はまた運転して家に帰らないといけないから、と話す老ミューモンに、ウララギは心得ていると頷いて、テキパキと動き出す。

    やがてウララギが掻き混ぜる小さな鍋から、芳しい香りが立ち上り始める。
    その香りを嗅いだ老ミューモンが、待ちきれないと言いたげにそわそわするのを見て、ウララギの口元にもつい笑みが浮かんでしまう。
    「お待たせしました」
    ウララギが大きめのマグカップをカウンターに置く。
    その中には、シナモンや生姜等のスパイスを効かせたホットココアが、たっぷりと入っていた。
    老ミューモンはカップを両手で掴むと、ふうふうと息を吹き掛けながら慎重に口を付ける。
    「ああ……」
    ゆっくりと一口飲んで、老ミューモンは感じ入ったように大きく息を吐いた。
    リラックスした表情で、口元の髭が茶色く汚れるのも気にせずココアを堪能する。
    そうしているうちに、ココアで体が暖まって来たのか、老ミューモンはしっかりと閉めていた厚手のコートのボタンを外しはじめる。
    コートの下から、鮮やかな赤い衣装が顔を覗かせた。

    「美味しかったよ、ごちそうさま」
    最後の一口までしっかりと飲み干して、老ミューモンがマグカップを置く。
    「ご満足いただけましたか?」
    「ああ。これで頑張って家まで帰れるよ」
    そう言うと老ミューモンは席を立ち、ココアの代金のサウンドルを懐から取り出すと、空になったカップの横に置く。
    しかし、バーカウンターに置かれたそのサウンドルを、ウララギは指先ですいと押し返した。
    「こちらはサービスになりますので、お代は結構です」
    老ミューモンは首を振ってウララギにサウンドルを渡そうとするが、ウララギも笑顔のまま頑として受け取ろうとしない。
    固辞しつづけるウララギに、ついに諦めた老ミューモンはサウンドルを自身の懐へと戻した。
    「それなら、店じまいを遅くしてしまったお詫びも兼ねて、何かプレゼントをしたいんだが……あいにく全部配ってしまってね」
    申し訳なさそうに話す老ミューモンに、ウララギは「お気持ちだけで充分です」と返すが、それでは彼の気が済まないのだろう。
    老ミューモンは必死になって、懐や服のポケットを探り出す。
    「何かないか……と、これは……」
    赤いズボンの内ポケットから、キラキラと輝く金色のリボンが取り出された。
    「こりゃ、プレゼントのラッピングで余ったヤツだな」
    「でしたら、そちらを頂けますか?」
    リボンをしげしげと眺めてから、またポケットへしまおうとする老ミューモンをウララギが止める。
    「こんなのでいいのかね?」
    「はい、リボンはよく使うので」
    そう言ってウララギは、今も髪を結っているリボンを見せる。
    老ミューモンは手にしたリボンとウララギの髪を交互に眺め、それならと頷く。
    「ありがとうございます。大切にします」
    差し出されたリボンを、ウララギは大切そうに両手で受けとった。
    ウララギへのプレゼントも一応は終えた老ミューモンは、口元の茶色くなった髭をおしぼりでぬぐい、コートのボタンを閉めて帰り支度を始める。
    ウララギはバーカウンターを出て、本日最後のお客様を店の外まで見送る。
    「来年もまた来るよ。できれば、営業時間内に」
    「またのお越しをお待ちしております」
    深々と礼をするウララギに頷いて、老ミューモンは先ほどリカオ達が帰って行った方向とは逆の、路地裏のさらに奥へと消えていく。
    やがて、老ミューモンが去った方向から、シャンシャンと澄んだ鈴の音が響いてくるのをウララギは聴いた。


    その翌日。
    いつも通りに営業を始めた【夜風】に、今夜もリカオ達が来店する。
    「あれ? ウララギちん、それ新しいリボン?」
    カウンターでウララギからカクテルを受けとったジャロップが、ウララギの髪を結っている金色のリボンに目ざとく気づく。
    「ええ。サンタクロースさんからのプレゼントです」
    ウララギはリボンに軽く触れて、嬉しそうに微笑んだ。
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