Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ミヤシロ

    ベイXの短編小説を気まぐれにアップしています。BL要素有なんでも許せる人向けです。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 20

    ミヤシロ

    ☆quiet follow

    クロシエでホワイトデーSS。
    今日は72話の放送日。シエルがどうなるかわかりませんが、せめて二次創作の世界だけでも二人が穏やかに過ごしてほしいものです。

    #クロシエ

    ずっと一緒に バレンタインデーのお返しがどちらも同じ菓子と判明して、クロムとシエルは同時に愕然とした。
    ((かぶった……))
     この日は3月14日、ホワイトデーだ。一ヶ月前のバレンタインデーのお礼として菓子を渡す習慣は、やはり日本の商業主義によって世間に浸透した。チョコレートが定番の先月と違いホワイトデーで購入する菓子は多種多様だ。キャンディだったりマカロンだったり。二人は菓子を差し出し直後絶句する。シエルがクロム宅を訪問し眩い笑顔と共に見せたのは、クロムが大切な人の訪れに合わせて示したのは――どちらもバームクーヘンだった。
     誰もが知る有名なメーカーのロゴが、菓子箱を入れた紙袋に書かれている。ロゴを見ただけで中身がバームクーヘンと察した二人は、特にシエルは己のチョイスを強く呪った。
    (マカロンにしとけばよかった…!)
     あるいはキャンディだろうか。ホワイトデーの菓子は数多あって、彼等は同じ品を選ぶなど考えもしなかった。幸いメーカーは異なり完全一致というわけではない。
    「そう落ち込むな」
    「はいッス……」
     クロムは涙目になったシエルの肩を抱いてなだめ、
    「上がってくれ。コーヒーを用意するから待っていてくれ」
    「は、はい!」
     少年をリビングへといざなった。以前トロフィーをぶちまけ滅茶苦茶になった部屋は今ではすっかり整理されている。一人用のソファは処分し、代わりにテーブルと、ゆったりとした二人掛けのソファを買った。彼等が二人でくつろぐのもそう珍しくはなくなった。彼等はバレンタインデーにはチョコを、一ヶ月後にも菓子を贈り合うほどに親密な関係になった。
     
     菓子は食べやすいサイズに予め分けられていて、二人は互いが用意した菓子を両方とも皿に載せる。クロムが淹れたコーヒーが芳香を漂わせ、リビングを落ち着いた香で包み込んだ。落ち込んでいたシエルはいつもの元気を取り戻し、そんな彼を見てクロムもまた微笑する。二人はかつての歪な関係はまるでなく、互いを尊重し想う気持ちのみがあった。
    「まさかかぶるとは思わなかったな」
    「そ、そうッスね…」
     少年の横顔は悄然とし、まるで雨に打たれた子犬のよう。シエルはバトルでは勇ましい姿を見せるが、普段はよくなついた豆柴のように愛らしかった。彼に笑顔になってほしくてクロムは胸の内を打ち明ける。少しだけ恥じらいがあるものの、少年を想う気持ちに偽りはなかった。
    「だが、嬉しくもある」
     己が相手と同じ心でいるという事実を視覚化され、クロムは満更でもない。彼はこの日に贈る菓子の意味を知った上でそれを選択した。
     バームクーヘン。
     直訳すれば“木のケーキ”と呼べるそれは、専用のオーブンを用い熟練の菓子職人によって作れられる。樹木の年輪を連想させるあの焼き目は、菓子職人の腕前を示す指標にもなった。愛する人と歳月を重ねていく。“幸せが続きますように”という意味がこの日のそれには込められていた。
     愛する人と。
    (シエルと)
    ――ずっと一緒に。
    「君と同じことを考えていたと知れて、嬉しかった。ありがとう、シエル」
    「クロムさん……!」
     端正な顔をほころばせる青年にシエルの目が輝きを灯す。
     頬を紅潮させる少年に、青年が心からの微笑みを見せた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘💘💘👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ミヤシロ

    DONE82話『七色の決意』後のシエルのお話。
    引きこもっていた頃のシエルはやつれていて、ご飯食べてるのかなと心配になって思いついたお話です。
    決意を新たに シグルと別れ帰宅したシエルは、まずは荒れ果てた部屋を元に戻すことから着手した。
     メダルとトロフィーが床に散乱していた。
     ゾディアックとの戦いで大敗しどん底を味わったあの日、シエルはアマチュア時代の栄光を衝動のまま床に叩きつけた。500勝無敗、アマチュアの王、これらの賞賛は無意味でしかなく、彼はあの日自分が塵芥(ちりあくた)と思えるほどに打ちのめされた。クロム不在の間ペンドラゴンを守ろうという誓いは無残に打ち砕かれた――あの日の自分と決別するため、シエルは夕闇が窓に垂れ込める時間、惨憺(さんたん)たる部屋を凝視し硬い握り拳を作った。
     ひどいザマだ。だが時間さえ掛ければ原状回復は可能だ。幸いトロフィーもメダルも破損は見られず、ただ元の位置に戻せばいいだけだった。ひたひたと忍び寄る闇が苦しく、シエルはしんどい気持ちの中それでも自身のやらかしに向き合う。一つ一つ、昔の誓いを改めて胸に刻むように。彼は自分の歩みの証を、クロムの言葉を思い出しながら手に取った。
    2476

    ミヤシロ

    DONE80話『最遅の者』~81話『オールイン』の石山メインのお話。石山の部屋の描写は私的設定です。あとマルチが新ベイを完成させた日時がはっきり特定できない為、80話の翌日に完成したという設定にしています。
    石山は登場するたびに魅力的なキャラになっていますね…! 今回のお話を書いてみて、彼の歩みがアニメ本編でとても丁寧に描写されていると感じました。
    不変の道 石山は母親に頼んで手に入れたスイーツを、翌日ファランクスの二人と共に味わった。
    「すっげー!」
    「うまそうだな」
     昨日バーンの部屋で拒んだ甘味を、この日石山は仏頂面ながら親しき者にはわかる上機嫌で堪能する。母親に電話したあのとき“一人で三つ食べてしまおうか”と頭をよぎったものの、彼はすぐさま思い直し三人で食することにした。予定の空いていた二人は報せを聞き、喜んで石山の家を訪れた。石山の住まいはとある賃貸物件の一室であり、そこはさっぱりと片付いて私物がさしてない場所だった。
     十年間、無骨な男は簡素だが清潔な部屋で暮らしている。勝手知ったるファランクスの二人は用意されたスイーツに目を輝かせ、石山の淹れた紅茶と共に舌鼓を打った。その後は今後の予定やトレーニング内容を確認し、世間の話題にも触れる。彼等の話にはトーク番組の撮影やスタジオに乱入したカルラ、そして黒服への言及があった。
    5021

    ミヤシロ

    DONE『夢か現か』のシグル視点。シグルは台詞も少なく感情を表情から読み取りにくく、お話を書くのはとても難しかったです。彼女も彼女なりに二人を案じたり、ペンドラゴンを好きでいてくれたりするといいな、って。
    来週のアニメにシグルが登場しますね! 楽しみです。
    バイオレット シエルがクロムの中で大切な存在になっていく。
     彼がクロムにとってどれほど支えになっているのか。心の傷を癒してきたか。私は彼に感謝してもしきれないんだろう、上手く言葉に出来ないけど。
     私は何も出来なかった。見ているだけで、壊れていくクロムを気遣う言葉を持てなかった。
     でも、クロムが昔の自分を取り戻しつつある今、私は。今度こそ、何かあったら彼を支えたいと思う。シエルと共に。
     そしてチームのために戦おう。持てる限りの力を尽くして。

    「オレ達の、イメージ香水…!」
     私がモデルを務めるブランドの会議室で、シエルが上ずった声で言った。
     ペンドラゴンの三人をイメージして香水を作る。期間限定で販売される香水が完成したから、と、私達はこの日企業から呼び出しを受けた。雑誌に載せる写真を撮ってインタビューを受けて。私にはそう珍しくない仕事だけど、シエルにとっては初めてのコラボ企画だった。彼はベイについてのインタビューならたくさん受けてきたけど、香水については初めてだ。彼はそわそわしながらイメージ香水に向き合った。営業社員に勧められて香水を試す彼はおっかなびっくり、とても危なっかしかった。
    6901

    ミヤシロ

    DONEバーンと石山のお話。
    また香水のお話です。先月クロムの匂いがどうのと騒いでいましたので、つい書いてしまいます。実は現在も香水ネタでお話を考えていたり。
    彼の香りは 石山タクミが不死原バーンと会う約束をしたその日、バーンは珍しく遅刻してきた。
    「すまない。待たせてしまったね」
     いつもは早い時間に二人とも待ち合わせ場所に到着しているか、あるいはバーンの方が早いくらいだ。石山は“珍しいな”と意外に思うものの、相手に怒りや苛立ちを覚えはしなかった。バーンはベイバトルの時間には度々遅れていたが、石山との約束の時間を破ったことは今日以外に一度もない。そもそもほんの数分の遅れであってバーンが謝るほどでもないのだ。石山は謝罪をさらりと受け入れ相手が向かいに座るのを見つめる。優美な男性の所作は美しかった。
     二人はバーンがマウンテンラーメンを買収して以来定期的に顔を合わせ、互いの近況を報告し合う間柄となっている。彼等の関係は実に良好で、石山のまとう空気も彼が出せるものの中では穏やかである。彼は引退の窮地を救われたがゆえバーンに少なくない恩義を感じている。たかが数分の遅刻で文句を言う気は毛頭なかった。
    3166

    related works

    recommended works