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    Lupinus

    @lupi_eggplant

    テキストを投げ込むスペース/主刀/ファンチェズ

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    POIPOI 56

    Lupinus

    ☆quiet follow

    男さにわ×鬼丸くん(さに鬼)の現パロのようなもの 髭切先輩の紹介で粟田口へやってきた主人公が鬼丸さんと出会い、事情を話して鬼を切ってもらうことになるまで 書きたいところだけ書いているのでシーンが飛びます
    ◆さに鬼現パロ設定【https://poipiku.com/IllustViewPcV.jsp?ID=1092520&TD=3153950】の具体的な話
    ◆全体が書かれる予定はないです

    ##主刀

    携帯端末が表示する地図はどう見てもここで行き止まりになっている。航空写真に切り替えても、うっそうと生い茂る森が表示されているだけだ。
     なのに目の前には、古いながらもしっかりとした造りの石段が確かに続いている。先輩手書きの地図とも場所は一致している。

    +++

     手近な無人駐輪場に自転車を置いて石段を登り始める。頭上には木々が覆い被さり、昼でもうすぐらいトンネルを作っている。航空写真では、ここに道があるとはとても判定できないだろう。
     見通しの利かない石段は十数歩登ったところで唐突に途切れた。頭上にぽっかりと開けた空からの明るい日差しが照らすのは、築百年をとうに過ぎたのではないかと思われる古民家だった。
     かやぶきの屋根、黄ばんだ障子紙、補修の目立つ木製の玄関口や雨戸。政令指定都市の中心部とは思えない静けさの中に、かん、と何かを打ち付ける高い音が響いた。町中では聞き慣れない音に周囲を見回すと、小ぶりの斧を左手に提げた青年が立っていた。
    「客か」
     人の気配を感じたのか、こちらに顔を向けるよりも先に発せられる声は、静寂の中でもひときわ低く穏やかに聞こえた。
     飛び抜けて長身には見えない。ジーンズにTシャツのラフな装いは、町中ですれ違っても何の印象も残さないだろう。しかしすらりと引き締まった無駄のない体型、そしてシャツの上からもわかる鍛え上げられた背中には言い知れぬ威圧感がある。
    「あ、あのっ……!?」
     呼びかけた声に振り向く青年の側頭部に、ねじれた角が一本生えている。
    「髭切から話は聞いてる。鬼に狙われているらしいな」
     異様な光景に目を瞬かせると、そこには角などどこにも見当たらないありふれた風体の青年が立っていた。
     特徴と言えば、左目につけた白い眼帯。そして色の薄い髪の毛と、眼帯をしていてもそれとわかるほど端正に整った顔立ちくらいのものだ。
    「え。えぇっと、鬼丸さんでいいんですよね」
    「あぁ」
     短くうなずいて、青年は足下に散らばった割木を拾いあつめる。
    「上がっていけ。薪を片付けたら話を聞く」

    +++

    「あの。ま、薪割りって、こんな春先からするもんなんですか」
    「冬までによく乾かしておく必要があるからな。早いに越したことはない」
     日当たりのいい壁際に置いた金属製のラックに、割ったばかりの薪を並べながら青年は淡々と答える。会って早々家に招き入れてくれるのだから不親切な人物ではないようだが、まるで会話がないのはどうにも居心地が悪い。
     玄関のガラス戸は思いのほかするすると開いた。家の中は外見に違わぬ古めかしさだが手入れは行き届いていて、いまどき大河ドラマでしか見ないような黒い置き型電話機の上には小さな花が飾られている。

     床の間のある客間らしき一室に通されると手ぶりで座布団を勧められた。
    「茶でも入れるか」
    「あっ、いえそのお構いなく」
    「そうか」
     盆栽を火にくべる老人を描いた掛け軸の前にあぐらを組んだ鬼丸は、やはり自分と同世代の青年としか見えない。初対面の瞬間、角があるかのような印象を受けたのはなんだったのか。
     先輩の紹介でここへ来ることになったいきさつを告げると、無表情にこちらの顔を凝視していた鬼丸はようやく口を開く。
    「あいつは今でも鬼切と呼ばれてるのか」
    「え? いや、最近はもっぱら兄者ですね」
     去年の秋、先輩の弟が忘れ物の弁当を届けにキャンパスまで追いかけてきたことがあった。嵐山の寺院で華道の修行をしているという先輩の弟は兄とはまた違った意味で浮世離れしていて、兄さんでも兄貴でもなく兄者兄者と連呼して通りすがりの人々から好奇の目を向けられていた。それを恥ずかしがるでもなく平然と受け止めていた先輩は、それ以来サークル内で兄者と呼ばれるようになった。
     鬼切とはまたものものしいあだ名だが、マイペースな先輩のことだ。以前から人間離れした事件を起こして妙な名前を付けられていたに違いない。
    「あの、これ。鬼退治の代金はおいしい日本酒って聞いたんで持ってきました、聚楽第っていう洛中の蔵元の」
     リュックから取り出した瓶を一瞥して鬼丸は首を傾げる。
    「そんなものがなくても鬼が出れば切りに行くが」
    「えっ」
     放課後にわざわざ二条城の近くまで脚を伸ばし、部室の冷蔵庫に厳重に保管しておいたというのに。また先輩のうろ覚えかと困惑していると、鬼丸もどうやら同じことを考えていたらしい。
    「あいつがいいかげんなことを言ったらしいな……まぁ、もらっておく」

    +++

     無造作に置かれた白木の箱を開けると、柄から鞘の先まで一メートルはありそうな堂々たる日本刀が納められている。触れるのもためらわれるほど美しい赤に塗られた鞘を鬼丸は軽々と持ち上げる。ふだんから扱い慣れた、しかし決して粗雑ではない手つきである。
    「鬼丸国綱だ」
     紹介するような口調からすると、それがこの刀の名前だろうか。
    「鬼丸さんと同じ名前なんですね」
     それには応えず、鬼丸は刀を手に立ち上がる。
    「こんな町中で振るうわけにもいかないからな。山科あたりまで出向いておびき寄せる。となれば餌が必要だが」
     そこで言葉を止めた鬼丸の視線の先にいるのは自分である。
     鬼をおびき寄せる餌とはもちろん、鬼が好んで狙っているものに違いない。となると……
    「心配するな」
     愛想のない口元がわずかにゆるんだような気がした。
    「一匹倒せば事足りる。あんたに手を出すとどうなるかを教えてやればじゅうぶんだ」
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