ウソツキ 会議も終わり、ほかのメンバーたちがいなくなった薄暗い洞窟の中オレは橙色の面を被った人物に視線を向ける。
「オビト」
呼びかけると面の男はピクリと反応したがこちらを振り向かない。
「ねえ、オビト」
もう一度呼べば今度は少しの反応も見せない。
「ねえったら」
「んもーなんですかカカシさん。さっきからオビトオビトって一体誰のことを呼んでるんですか?」
腕を掴んで呼び止めれば面の男はようやくこちらを振り向いた。振り向きざまに発せられた声は“トビ”のものであり、おちゃらけた口調と声色であった。しかし、面からのぞく赤い瞳は口調とは真逆といってもいいような苛立ちを含んでいた。そして、そこに“オビト”の存在を感じて背筋が歓喜で粟立つ。
「呼び止めておいて何で何にも喋らないんですか? 新人ですけどオレだって忙しいんですよ? 全くもー、用がないなら呼び止めないで欲しいですね」
腕を掴んだまま何も言わないでいるとトビはいかにも不満です、と言うふうに腕を組み頷きながら芝居がかったセリフを宣う。
「ごめーんね? でも久々にオビトに会いたくてさ。少しでいいから会わせてくれない?」
「……ですからー、さっきからオビトオビトって一体何のことですか? そんな人この世に存在しませんよ」
トビはオレの頼みに尚も“トビ”としてとぼけて返す。だが最後のセリフ、オビトの存在を否定する言葉は“オビト”からの言葉に聞こえた。そのことがとても物悲しく感じたが、だからといって引き下がるつもりは毛頭ない。
「お願い……オビトに会わせて」
今度は切実な声で懇願するように言えば、目の前の人物は少し考えるような仕草をした後、はあーと大きなため息をついた。そして徐に仮面を少しだけずらし、口を露わにしたかと思えばその口をオレの耳元に近づけてきた。
「今晩オレのもとに来い。久々に付き合ってやる」
吐息さえも当たる距離で言葉を吐いた後、トビは……いや、オビトは右目の瞳力を使い空間に吸い込まれ、消えていった。
あれだけ“オビト”の存在を否定し、消し去ろうとしておきながら、オレの願いを叶えるためその存在を表面に出す。どれだけ存在を否定する言葉を吐こうとも結局それはただの嘘でしかない。なぜなら“オビト”の存在は完全には消えていないのだから。
「ウソツキ」
誰に届かせるでもなくニヤける口から発せられた言葉は自分以外存在しないアジトの静寂に溶けて行く。
そうしてオレもアジトから去る。今晩のオビトとの逢瀬に胸を躍らせながら。