犬と光世3そうしているうちに、黒いシックな壁のお菓子屋に到着した。大きな丸い窓から、小さなケーキのショーケースが見える。艶々とした苺の乗った苺のタルトや、今が旬のカボチャを丸ごと使ったカボチャプリン、マロンクリームと栗の甘露煮を飾りに使ったモンブラン、それに4種類のロールケーキ。光世は、リードを握り締めたまま木目が綺麗な扉に手を掛けた。からんからんと、お客が来た事を告げる小さな鐘が鳴る。このお店は、犬でも、こんのすけでもどんなお客さまでも迎え入れるらしく光世は最初に来た時おはぎを一人で残しても良いものだろうかと、外でウロウロしていたことがあった。その様子を、訝しげに店内から見ていた加州清光によって、店内に犬を入れても良いと教えられた。その時のおはぎは、もれなく加州清光に突進し、加州清光は尻餅をつくことになったのは、記憶に新しい。そんな事がない様に、リードをぐっと持ち直した。
「いらっしゃーい。お、今日もおはぎと来たんだ。仲良しさんだね。」
「今日は、買い物がてらに散歩の日が被っただけだ。」
「またまた、初めて来た時もおはぎ連れてそう言ってなかった?」
ショーケースの上で、腕組みをし嬉しそうに笑みを浮かべる加州清光を見て光世は、少し恥ずかしくなった。散歩の日に買い物に行けるように段取りをしていた事をどうやら、見透かされていたらしいことに、気が付かないのは当の本人だけ。