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    ritsuka_nora

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    ritsuka_nora

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    書き殴り。誤字があったらごめんなさい。📿🐴と🐰と🐦。

    #空左馬
    emptyLeftHorse
    #腐

    「薬の売人持ってきた、ついでに飯行こうぜ銃兎」
    「……お前は、なあ。左馬刻」
    持ってくるモノでもないし、警察署にヤクザが尋ねてくるものでもない。まだ終業時間でもない。理鶯と何処で落ち合ったか知らないが、舎弟ではなく理鶯に売人を持たせているのも何故だ。何からツッコめば良い。
    「今日は、波羅夷はいないのか?」
    「空却は今日の夜にこっち戻ってくんぞ」
    「なるほどな……」
    何がと言いたげな左馬刻はここ最近煙草の匂いを纏っている。波羅夷がいる間は吸う姿を見ていなかったからか、余計に感じる。
    時期的には盆の用意あたりか、本格的な繁忙期だともっと姿を見れない波羅夷は寺の手伝いだ。恋人の繁忙期にものの見事に生活が荒れる左馬刻は理鶯が抑え込んでいる売人の顔をじっと見ている。
    暴力を振るった様子もない。多分、事務所で転がしておいたのだろう。ヤクザの事務所でただただ地べたにいるしかない。カタギという訳でもない売人も、さぞ怖かったろう。
    ひたすらに痛めつけてくる方が、行動の理由くらいはわかる。何を考え、何をどうしたいか。力があり、権力があり、行動できる。そんな左馬刻が思考を読ませないのは恐ろしいだろう。
    「はあ……わかりました。ソレ、引き取っていいですか」
    制服の警察官も、刑事も、こちらを伺っている。
    暴れない左馬刻は、刑事だって怖がるのだ。
    「おー、持ってけや」
    要らない、と如実に表す表情も声も、波羅夷の前とはまあ違いすぎる。笑えば良いか。
    「その割に、よく見てますね?」
    「……そいつ、カタギに無理やりヤク打ち込んだんだわ」
    胸糞悪い内容に思わず表情が動く。目の光が無い左馬刻が淡々と話す。
    「良かったな、オマワリサンが引き取ってくれてよ」
    死ぬまでムショから出れないと良いな。左馬刻が笑うと売人が腰を抜かした。ちょっと困ります、取り調べ室まで連れていくっていうのに。警察官がどうにか連れて行こうとする中、真っ青になった売人が何か言おうとしている。
    それはおそらく、凄まじい悪手だ。ヤクザの若頭に、というよりもそもそも血の気の多い男を無闇に刺激したらいけない。
    「さまときー!」
    「……、おう、空却」
    ロビーに響いた明るい声に、左馬刻が動いた。スカジャンを羽織ったいつも通りの波羅夷が出入り口に立って手を振っている。
    「銃兎、理鶯、悪ぃ。飯はまただわ」
    軽く手を振り、左馬刻は波羅夷の方へと歩き出した。出入り口側はまだ日が差していて、日を浴びる波羅夷はキラキラと明るい。
    「駅まで迎え行くっつったろ」
    「ちょっと歩いて良い運動になったぜ!腹減ったから飯!」
    「新幹線の中で何も食ってねェのか?」
    身長差で波羅夷を見下ろす左馬刻に、見下ろされている方はぴょんぴょん動くし跳ねる。動作の全てが大きく、見上げていた波羅夷がにかっと笑った。左馬刻の両頬を徐に包み柔く揉んでいる。ヤクザの顔にいきなり触るだけでも見ている方は肝が冷えるだろう。薬の売人を運ぼうとしている警察官もざわついている。気持ちはわからなくもない。
    「なんか飯作ってやっから、帰ろうぜ」
    「……おう」
    「寂しかったのかよ、ちっと痩せてんなオメー。っくく、可愛いな?」
    左馬刻の腕に腕を絡めた波羅夷が歩き出し、つられた左馬刻も歩き出す。
    「車で来てっから駐車場な」
    横顔だけで、左馬刻が調子を取り戻し始めたのがわかった。聞こえる声ももう苛立ちや怒りが潜んでいない。やれやれ、……まったく手のかかる。
    「入間ぁ!毒島!またなー」
    振り向き手を振る波羅夷は、確かにお坊さんだとわからされた。マイナスに偏ってしまう感情の中でも、呼吸を思い出させる。息をするというのを忘れがちになる緊張の中でも笑う強さはただただ羨ましく、眩しい。
    「……騒がしいですねぇ、いつもながら」
    台風の如くひとしきり騒いでいった波羅夷の姿が見えなくなり、左馬刻も署から出る。
    「さて」
    「銃兎、男を運ぶのなら小官も手を貸そう」
    「あぁ、助かります」
    薬の売人が、左馬刻の鬱憤晴らしにサンドバッグにならなくてよかった。暴力沙汰をもみ消すのも大変だ、人も多い場所は何かと気を使う。
    理鶯がへたり込み放心する売人の腕を掴み引きずっていく。気をつかう様子は一切ないのが安心できる。
    「ねェ、あなた。良かったですね」
    「……っ、ひっ」
    「ムショで一生をお過ごし願うと思いますけど、左馬刻本人はそこに居ませんから」
    ただ、左馬刻の息がかかる誰かが、いるかは別として。
    「お前がばら撒いた薬という暴力、カタギから見たら怖いんですよ」
    私からしたら憎い以外無いですけどね。言葉を一度きり、理鶯の視線を受けて肩をすくめる。何かを言って聞かせたら改心するだなんて信じてもいない。そこまで初心ではない。
    「ところで、純粋な力を持った狂気、如何でしたか?」
    船の錨のように、そこに居させてくれる波羅夷が居ない間の左馬刻はきっと、狂気だ。煙草で、酒で、人間性を宥めすかしその日をなんとかやり過ごす狂気でしかない。
    「アレ、ヨコハマディビジョンの頭なんですよ。知らなかったでしょう」
    ここがヨコハマだとも、きっとご存じなかったでしょう。
    「知ることができてよかったな」
    「さあ、ブタ箱で惨めな人生の幕開けといきましょうね?」
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