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    ritsuka_nora

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    ritsuka_nora

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    🐰と🐴と📿。

    #ヒ腐マイ
    hypmic bl
    #空左馬
    emptyLeftHorse

    空却の機嫌取れそうな菓子買って来い、と左馬刻から急に連絡が来た。地獄の繁忙期に突入した生活安全課の応援をしていたのに。
    「……波羅夷、手土産があるんですが……」
    「おー、さんきゅ。あとでもらうわ」
    ヤクザの事務所だよなここは。左馬刻の定位置である大きな仕事机に座って針仕事をする波羅夷は我が物顔だ。違和感はどこだろうか。
    普段だと左馬刻が恋人を膝に乗せている気はする。針を持っているから膝にいないのかよくわからないが、波羅夷もいつもならもっと左馬刻を構っているはずだ。こいつらもはや交際を隠さない距離感だからな。
    妙に熱心に裁縫をする波羅夷の手付きは迷いなく、終わったら次、と作業も早い。ハンカチだとかに見えない布の山は、まさか、肌着の類だろうか。
    波羅夷は不良のような見た目にそぐわず、家事全般のスキルがとてつもなく高い。良家の一人息子というのは伊達でなく料理洗濯、掃除に裁縫と多岐に渡るらしい。全部左馬刻から惚気られて知ったことだが、目の前で見ると納得するしかない。
    「……、波羅夷、まさかボクサーパンツに刺繍してます?」
    「おー、そうだぜ」
    品のいい紫色の刺繍糸で、小さな刺繍を続けていた波羅夷がようやく手を止めた。俺より、あなたのそばで構われたそうにしてる左馬刻を見てほしい。しょげた犬みたいな顔になってるぞそこのヤクザ。
    ボクサーパンツに黙々と刺繍する恋人に、かまってくれと言う状況をイメージしにくく、普段だったら甘えたなヤクザを煽り揶揄って楽しむのにできなかった。
    パンツを広げて見せる波羅夷へのリアクションにも困る。目を凝らしてようやくわかる小さな刺繍への反応を誰かに習った覚えもない。
    「…………空却、ちょっとは休憩しねぇ?」
    「もうちょっとで終わっから」
    「……何枚やんだよ」
    「二枚減ってたから……八枚だな?」
    終わったら構う、と短く答えるところは珍しいが、この場に居合わせた人間として聞かねばならない。
    「減った、んですか?」
    減っていたが正しい様子なので、持ち主が処分した話ではないだろう。なんともデリケートな話題になってきた。主語こそなかったが下着が減り、波羅夷が残りに刺繍をしている。この状況下で、大人としても警察官としても何も言わないはできない。
    刺繍が済んだ下着の山を一瞥し、波羅夷が言葉を選ぶように思案している。下着泥棒に遭って気分がいい人間を見たことはないし、説明に悩む気持ちもわかる。
    「減った、な。うん。……とりあえずこっちは済んだわ、左馬刻お待たせ」
    餌を我慢させられる犬みたいだった左馬刻の肩が揺れた。待てができるタイプの犬だったのかお前。
    針と糸を片付けた波羅夷が伸びをし、長く細く、息を吐いている。俺からだと自分を落ち着かせたい人間の動作に見えた。
    「波羅夷、女性警察官に相談しにくかったら男性のお巡りさんもいますからね」
    「下着泥棒って、やっぱ窃盗か?」
    「色々とオマケがつきますがまずはそこからですね」
    刺繍が終わった下着の山を複雑そうな目でじっと見ていた左馬刻が、声をかけられ視線をあげる。すぐ動かないのは抱き寄せていいかのお伺いらしい。犬かお前は。
    波羅夷は恋人に甘いタイプだが、左馬刻はひたすら恋人に弱い。左馬刻と方向性が違う波羅夷は、ヤクザの若頭が人前でも甘えるのだから、中毒性が高い男だと思う。あのハチミツのように甘やかす手が伸びてきたら、何人がしっかりしたままでいられるのか分からない。
    左馬刻が座る椅子の前に座り直した波羅夷が、もう一度自分の膝を叩く。くっついていいぞというジェスチャーは、それは犬とかにやるやつだよな。突っ込んだら負けなので言わないからな。ヤクザの若頭が膝枕されて満足する光景なんて、どんな顔で見ろと言うのか。
    「あ、入間。土産ありがとな、もらっていいか?」
    「ええ、どうぞ。お団子お好きです?」
    「おう!オオスでよく食ってんだ。今度ナゴヤ来たら食ってけよ。美味ぇぞ」
    あなたの腹部に左馬刻が抱きついているので、あとでどうぞ。前半部分は言葉にせず肩を竦める。機嫌も治ったならもう署に戻って大丈夫か。署に残してきた連中が泣いていたら本当に困る。色々な部署にコネクションを作っていると、本当に人間の嗜好は人間の数だけあると思わされる。思わされるから、波羅夷みたいな整った顔だったらよからぬことを考える馬鹿が湧くのかと妙な納得ができた。
    「んー、……まあ、犯人見つけたらぶん殴るわ。拙僧の刺繍入ってたら言い逃れ出来ねぇだろ」
    波羅夷は左馬刻の頭頂部に顔を近づけている。はっきり甘やかそうとする手付きは普段のものだ。
    下着泥棒が波羅夷という持ち主に発見された時、シブヤのギャンブラーじゃないが生きるか死ぬかだろうなとは思う。同情はしない。漏れなく現役ヤクザの左馬刻までついてくるから頑張って生き残れとは言おう。
    「左馬刻、オメー、パンツもうちょい刺繍しやすいのにしろよ」
    「……」
    え。……え?
    「考えとく……なんかあっかな。銃兎、刺繍がわかりやすいのって何色のパンツだ?」
    「入間、大丈夫かよ。外歩けなさそうなツラしてんぞ」
    何から突っ込めばいいかわからない。
    ゴリゴリのヤクザの下着をちょろまかした人間がいたのか。何をするために。左馬刻のマンションにどうやって忍び込んだ。左馬刻がいつにも増してしおらしかったのに下着を盗まれたことが関わっているとしたら。下着に刺繍をされることを受け入れた理由は。
    ああ、理鶯にも来てもらえばよかった。ツッコミが渋滞していて頭痛がする。
    「……はあ。波羅夷、左馬刻から目を離さないであげてくださいね。本当に危なっかしいんですから」
    きょと、と目を瞬かせる波羅夷の表情は幼い。恋人の下着に刺繍をする独占欲なんて、そんなものなさそうに見える程に。
    「ちゃあんと、左馬刻にも左馬刻のものにも、拙僧がマーキングしとく。どっちも拙僧のだからな!」
    「そうしてください。たくさん撫でて慰めて甘やかしてあげないと小さな子はすぐ拗ねるんです」
    元気のないハマの王様では格好がつかないのだ。すぐでなくとも回復はして欲しい。左馬刻にこそ機嫌取りの甘い菓子が必要そうだ、何か近くで買えるものを探してやろう。
    「オメーら煩ぇ……」
    「膝枕されながらでは迫力がないんですよ、左馬刻」
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