「持つべきものは萬屋やってるダチだな、安全運転助かるぜ。一郎さんよォ」
「……左馬刻、酔い潰れてるのか?話聞こえてなさそうだな」
後部座席で左馬刻の上体を支える空却はからから笑っている。問いかけには雑にそーだな、酒臭ェ、ときた。
聞けば飯屋でファンのおっさん達から酒を差し入れられたという話だ。酒タバコに興味が薄い空却の代わりに左馬刻が飲んで潰れた、と。話の細かな流れは不明だが、空却が俺をわざわざ呼んだ意味は推し量れる。
「ヨコハマの人……入間さんとか呼ばなかったんだな」
「三徹してる、っつってたからやめたわ」
左馬刻がたまにうんうん唸る。何が面白いのか空却はその度笑っている。左馬刻の銀髪を撫でて喜んでる姿は、どちらが年上かわからない。酒臭いと言う割に、密着されるのを嫌がらない親友の顔は穏やかに見えた。
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