銀高ss「……取れねぇ」
戸棚の上の箱。目の前に取りたいものがあるのに、つま先を立ててピンと体を伸ばしてもあと数ミリ届かない。前に中の物を使っていたのは銀時だったか。
あいつ、変な所に置きやがって。そもそも元の場所と違うぞ。
力を何度も込め過ぎて足のつま先も痛み出した。仕方ない、踏み台を持ってくるかと振り返ってみれば。
さっきまで不在だった銀時がアホ面で此方を笑っていた。
「あらら高杉くんたら。お手伝いしましょうか?」
「いらねえよ。あとテメェ、物を使ったら元の場所に戻せ。」
「すみませんねえ、次は高杉くんの手が届く場所に置いたげるね。」
「沈めるぞ。」
これだから、身長差というものは嫌になる。特に、共に生活していると今回の様に些細な場面でその差が浮き彫りになることがある。その度にこうやって揉めるのもいつものこと。毎度毎度、しつこい野郎だ。
「強がるなって。ほれ。」
「……。」
にやけた顔のまま銀時がひょいと、目当ての箱に手を伸ばした。足を付けたままで先程の自分と違い、いとも簡単に。
「ちゃんと頼れよな。お前、外でも無茶してなんかやってんじゃないかって、たまに心配になる。」
「誰かさんが毎度律儀に馬鹿にしてくれるもんでな。」
無茶。
銀時はよく、自分の目の届かない事を気にかける。
前に酔っ払いの喧嘩の仲裁をしてかすり傷を作って帰ってきた時なんて、大したことでもないのに小一時間問い詰められた。本当に痛くないかとか、なんでとか、どこのどいつだとか。
こちらが為すこと一々気にして、一体お前がどうしたと思ってはいる。
が、銀時が真剣な顔をするものだから、今の所はその心配とやらを受け止める事にしている。実はちょこっと、絶対に言わないけれど、くすぐったい、から。早く治まればいいと思う。
「んで、そろばんなんか引っ張り出して何すんの?」
「ああ。家庭教師の張り紙見かけてな。暇だしやってみようかと」
思って。という言葉は紡ぎ出せなかった。銀時の引き攣った形相があんまりにも、必死だったので。
「いやいやいやダメだろ。人妻の家庭教師なんて一番間違いが起こりやすいやつじゃん。許さねえから絶対!」
「間違いってなんだよ」
「R18的なことに決まってんだろーが!お前いい加減その鈍感頭どうにかして!」
「誰が鈍感だこの天パが。喧嘩売ってんのか。」
「そういうとこだよ!!」
ウガーーと奇声を発して銀時が喚いたので、盛大なため息を吐いてやって、そろばんを元の場所へ仕舞う。こいつが納得しないのなら無理にやる事でもない。
こうやってよく分からん理由で止められるのもこれが初めてではないし。もう慣れた。
「はぁ……。別に金に困ってねーんだからさあ、そういうの良くない?何で色々やろうとすんのよ。」
今度は銀時がため息を吐いた。腰を引き寄せられて、そのまま銀時の腕に閉じ込められる。
「だから暇つぶしだ。お前こそ何がそんなに嫌なんだ。」
「一緒にいる時間が余計に減るだろ。嫌です。」
朝と夜は一緒だろ、と言おうとしてやめた。頭を預けた胸の音が心地よかったのでそのまま目を閉じてみる。
まあ、こういう時間も必要かと今回は納得することに、する。
「高杉が俺より小さくてよかった。」
「お前やっぱ喧嘩売ってんな。」
「ちげーよ、痛っ!足踏むなってば。こういうこと!」
つむじに、横髪に、おでこに。銀時の唇が降り注いだ。
「キスしやすい。」
ふふふと、嬉しそうな銀時の声。揶揄われてはなさそうだったので、見逃してやった。