「おーはよ〜っヒカル!」
どすんと体当たりをするみたいに、チヒロは眼前の肩に腕をかけた。それはいつもとなんら変わらない仕草であり――そして概ね自らの予想通り、弾かれるように顔を向けたヒカルが抗議の声を上げた。
「――チヒロッ! お前、なにか俺に言うことがあるんじゃないのか…っ⁉︎」
ギッと睨め上げてくる赤みがかった瞳には、ここしばらく見えなかった生気が溢れんばかりに漲っている。ようやっと、いつもの〝らしさ〟が戻ってきた。思惑通りに事が進んだことを確信して、チヒロはニヤニヤと上がる口角を抑えることなく訊き返した。
「え〜〜? 言っていいの〜〜?」
わざとらしく身体をくねらせてさえみせれば、素直に煽られたらしい相手はクワッと噛み付かんばかりに大きく口を開き――次いで、一転。今度は蝶番の錆び付いたドアみたいにぎこちなく閉じ直すのだった。
1837