Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    kt8r

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 18

    kt8r

    ☆quiet follow

    半伝(半→伝)、というかでんこさん。ストーカー俺モブを騙すべくラブラブ演技をする半伝を食らって泣いて帰りたかった。認知の歪んだストーカー俺モブが出てきます、苦手な方はお避けください。

    ##半伝
    #半伝

    春とストーカーとお団子と花「変な男に惚れられた。半助、助けてちょうだい」
    「またですか?」

    調査のため町に出かけていた伝子さんは、別件で買い出しに町に出てきた私を視認するや否や、無駄のない、しかし軽やかな動きで私の腕を取り、私を路地裏に押し込んだ。少し疲れた表情だ。
    またですか、というのは、これが初めてのことではないからだ。
    紫の着物を着た、艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、きょろりとした大きな目をつけまつげで囲んだ、以前の真紅よりは肌色に合っている口紅を差した男ーー伝子さんは、時々男にモテるのだ。山田先生は変装の腕も良く、何に化けても上手く仕事をするのだが、何故か女装を好んでする。私から見たらどう見ても化け物の類なのだが、所作のせいかツボを抑えているせいか、山田先生を知らない人間にはなぜかあれで本当に女性に見えるらしい。本人がお茶に誘われたと言うのを嘘か冗談かと失笑していたのだが、どうやらそれは本当のことらしい。時々、いや稀に、やまーー伝子さんはこうやって私に助力を求めることがある。いわく、まともな男や立場がある男は断れば済むらしいが、中には粘着質な人間が含まれていて、後を追われたり逆上されたりと、仕事の支障になる場合があるとのことだった。
    「伝子さん。危ないですから女装はやめた方がいいですよ。世の中には結構ゲテモノ好きが多いみたいですから」
    「誰がゲテモノよ」
    親切心で言ったつもりだったのに、ゲンコツを落とされる。余計な一言を付け加える癖がきり丸からうつってる、昔は可愛かったのに、と呆れた声で言われた。

    「で、今度の設定はなんですか」
    「山田伝子、18歳、歳の離れた弟たちの世話に忙しくて未婚のお姉さんよ」
    「女装もですけど、大幅に年齢のサバを読むのやめませんか」
    「うるさいわね、情報もってるのがそのあたりの若い層だったんだから、仕方ないでしょう」
    「で、面倒なのは」
    「今回はつきまとい型。今も追われてる。数日前に茶屋で声かけられて、好いた男がいるからって断ったけど、チラチラチラチラ視界をうろつくし、偶然を装ってしつこく話しかけてくるし、手とか肩とか触ろうとしてくるし、もうそろそろ疲れたわよぉ。半助が最初から夫婦役やってくれてればよかったのに」
    「ううっ、だって伝子さんだし、私は私で用事があったんだから仕方ないじゃないですかぁ」
    溜まった鬱憤を吐き出すように早口になる伝子さんに言い訳をすると、薄情だわ、と頬を膨らまされた。女装をしていない山田先生では見ることのない仕草が妙に自然で不思議な気持ちだ。
    「でも未婚で付き合ってる男もいない設定なんでしょう、私は何になればいいんです」
    「だからあんたが私の好いた男を演るのよ。あんた見た目だけは男前なんだから、伝子さんがメロメロになってたらあんな意気地のない男は敵わないって尻尾巻いて逃げ帰るわよ」
    「そうですかね、伝子さんに惚れるような変わったーーもとい、そんなしつこい男が、私が出てきたからって諦める気がしません」
    「じゃあどうするの」
    「両片思い設定にしましょう」
    「両片思い」
    「伝子さんは私が好き、でも恥ずかしがって素直になれない。私は伝子さんが好きで、ちょっかいを出すくせに振られるのが怖くて想いを伝えられない腰抜け男」
    「はぁ」
    「伝子さんが私に困りながらも満更でもない様子を見せれば、つきまとい男も爆発しろと叫びながら逃げていくと思います」
    「まぁ……半助が演れるなら、それでいいわよ。ちゃんとあいつを諦めさせてね」
    「伝子さんもちゃんと私に惚れててくださいね。そのさばけた話し方じゃなくて、ちゃんと気をもった話し方にしてください」
    「ふん、誰にものを言ってるの。すっごいのをお見舞いしてあげるわ」
    「それともう一つ。お手伝いの報酬はなんですか?」
    「あんた本当にきり丸に似てきたわね。そうね、件のお茶屋さんの季節の新作お団子が美味しそうだったから、奢ってあげるわ」
    「引き受けました」
    まったく、いつまでも食べ盛りなんだから、と伝子さんが笑う。でも私の褒美になるのは団子じゃなくて、山田先生とのお出かけの方なのだ。もちろんお団子も楽しみだけれど。

    ********

    俺の名前は月間十造(つきま・じゅうぞう)。34歳、A型、双子座、世界が俺の能力に気付いていないせいで定職はないが、代わりに昼間から町をうろついて可愛い女の子を眺めたり、邪魔なクソガキに悪態ついたりと悠々自適な生活だ。俺は女の子が好きだ。可愛い女の子も美人な女の子も好きだ。女の子達は恥ずかしがって俺と話すのを嫌がるが、俺も話すのは上手くない。二言三言、言葉を交わして用が済めばそれで満足だった。しかしそんな俺の前に菩薩様が現れた。可愛いとも美人とも言い難いが目を惹きつける魅力的な顔立ち、大きな目を伏せ髪を耳にかける品のある仕草、友人と思われる女の子に話しかける時の優しげな笑顔ーー、なにより、髪が佳かった。艶のある長い黒髪がさらりと肩を流れる様に心の臓を撃ち抜かれたのだ。ああ、あのうつくしい黒髪を高く結い上げてうなじを拝みたい。うなじを流れるおくれ毛に口付けを贈りたい。なんたって俺はポニーテールフェチなのだ。彼女とお近付きになるためなら、話下手を克服してもいい。いや、した。俺の機知に富んだ話術の前に世の女どもはもうメロメロだ。そもそも声が出ていない?それは聞き手の野郎どもの耳くそがめいっぱい詰まってるせいだな!

    「あいつですか」
    「そう、あいつ。もう視線がベッタリこの辺に張り付いて、気持ち悪いったらないのよ」
    やま……伝子さんは首のあたりをパタパタと手で仰ぎ、ウゲーといった顔をした。とても私に気のある女性の仕草には見えなくて苦笑が漏れる。人の気配を探る能力の高い忍者にとって、下心の滲んだ視線はさぞかし不快なものだろう。人に不躾に視線を送るのはいただけないが、うなじ派か……という趣向への理解は思わずしてしまう。山田先生のきっちりと結われた髷の首元は私にとっても魅力あるものなのだ。清廉というか、清楚というか……いや年上の中年男を捕まえての言い草だとは己でも思えないのだが、印象への感想というか……いや、気が逸れた。

    「では私が伝子さんを口説きますので、手筈通りに」
    「ん」
    つきまとい男の視線を切るように、伝子さんの隣に移動する。よし、意識がこちらに向いたようだ。伝子さんもこちらを見上げている。どういう体の使い方をしているのかわからないが、いつもより頭の位置が低い。先の動きから演技が始まっているようで、心なしか潤んだ、戸惑いを含んだ視線を向けられる。すごいなこの人。
    「伝子さん、こちらにいらしたんですか」
    「え、ええ……。半、助さんはどうしてこちらに」
    「伝子さんが出かけたと聞いて。お会いできたら嬉しいなと思って、町を歩く間にあなたを見つけました」
    「そ、そうですか」
    そっと視線が外される。好意を向けられて照れているといった仕草だ。外見はいつもの伝子さんなのに、仕草がつくと妙にいじらしくて混乱する。
    「なぁんて。嘘ですよ。ただ自分の買い物に出てきただけです。でもあなたの姿が見えたから」
    言うと、伝子さんはパッとこちらに顔を向けて私を睨みつける。怒って見せているが、少し傷付いてしまって拗ねている。こんな反応をされると構いがいがあってよろしくない。好きな人にはきちんと優しくしろと、子どもたちにも教えている身なのだが。
    「もう!ひどい人ね。わたしのこと、からかって。それで、どんなご用件なんです」
    「ええと。用件というような用件はないのですが、お話ししたいなと思いまして。そうだなぁ、お茶でもどうです?この先の茶屋で、春の新作団子が出ているそうですよ。お友達のとの話題にもいいんじゃないですか?」
    「おあいにく。わたし、まだ用事が残っておりますの。それに、団子につられるような女だと思われているのでしたら、心外だわ」
    「では、団子ではなく花ではどうでしょう。その団子屋の前に黄色い花が咲いているのを見かけました。私は花の名前に疎いので、教えてもらえると嬉しいのですが」
    「まあ。なんですか、もしかしてあなた、団子屋の下見をしてきたんですか」
    伝子さんはきょとんとした後にくすくすと笑い出し、本当におかしそうに肩を揺らして、涙の滲んだ目でまたこちらを見上げてくる。面白くて仕方ないといった様子で、かわいい。いや伝子さんなのだが。それにあんまり笑われると、居た堪れない気持ちになってくる。
    「そんなに笑わなくたって、いいじゃないですかぁ」
    「あたしも知ってますよ、そのお花。後であなたのこと、誘おうと思っていたんです。あなたが来てくれるなら、ですけど。でも、いいですよ、行きましょう。ただし、わたし用事が残ってますの。少し待っていてくれますか?」
    「それくらい、付き合いますよ」
    居た堪れなさを誤魔化すように、やや強引に伝子さんの肩を抱いた。まだくすくす笑いで揺れる肩の、着物の中の肉も骨も、よく知っている男のものだ。共にと誘う先の下調べをしていたことが露見するだけでこうも気恥ずかしいものなのか。いや、忍者は情報集めに長けていてなんぼの筈だ、買い出しのついでなので時間を無駄にしているわけでもなし。遠くで惚けている様子のつきまとい男に目を向けると、この人には手出し無用、と睨みつけて威嚇の気を送る。素人の鈍さで気による脅しが通じるかわからなかったが、無事にたじろいだようなので背を向ける。気分を切り替えよう。桜の葉の香りを付けた餡子の団子は、日々の仕事の中でいい気分転換になるだろう。咲きかけの福寿草の黄色い花を眺めながらの一服を思いながら、そういえばお茶屋さんでは、伝子さんじゃなくて伝蔵さんでお願いしますね、と付け加えた。

    ********

    なんだあれは。好きな男がいる?恥ずかしがり屋の伝子さんが俺の誘いを断る方便かと思いきや、あれはもう夫婦か何かじゃねぇか。いや夫婦にしては甘酸っぱすぎる。好きな男?は?付き合ってないの、あれ?ふざけんな、俺の伝子さんを泣かしたら許さねぇぞ、早く付き合え、いや結婚しろ、末長く幸せになれ。いやそうすると俺は伝子さんのうなじが拝めないのだが。
    「末長く爆発しろ……」
    俺、月間十造の掠れた声は、春の浮かれた青空に吸い込まれて消えていった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🎇🎇🎇🎇🎇🎇🎇🎇🎇🎇👏👏🙏💴💴💘💯😍😭👏🍡🍡☺☺💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    kt8r

    DONE半伝(半→伝)、というかでんこさん。ストーカー俺モブを騙すべくラブラブ演技をする半伝を食らって泣いて帰りたかった。認知の歪んだストーカー俺モブが出てきます、苦手な方はお避けください。
    春とストーカーとお団子と花「変な男に惚れられた。半助、助けてちょうだい」
    「またですか?」

    調査のため町に出かけていた伝子さんは、別件で買い出しに町に出てきた私を視認するや否や、無駄のない、しかし軽やかな動きで私の腕を取り、私を路地裏に押し込んだ。少し疲れた表情だ。
    またですか、というのは、これが初めてのことではないからだ。
    紫の着物を着た、艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、きょろりとした大きな目をつけまつげで囲んだ、以前の真紅よりは肌色に合っている口紅を差した男ーー伝子さんは、時々男にモテるのだ。山田先生は変装の腕も良く、何に化けても上手く仕事をするのだが、何故か女装を好んでする。私から見たらどう見ても化け物の類なのだが、所作のせいかツボを抑えているせいか、山田先生を知らない人間にはなぜかあれで本当に女性に見えるらしい。本人がお茶に誘われたと言うのを嘘か冗談かと失笑していたのだが、どうやらそれは本当のことらしい。時々、いや稀に、やまーー伝子さんはこうやって私に助力を求めることがある。いわく、まともな男や立場がある男は断れば済むらしいが、中には粘着質な人間が含まれていて、後を追われたり逆上されたりと、仕事の支障になる場合があるとのことだった。
    4227

    related works