クーラーのある熱帯夜「冬にこたつでアイス食べるやつあるじゃないですか」
「あるなぁ」
「夏にクーラーつけてわざわざくっついて寝るのも、似たような贅沢だと思うんですよ」
「まあ、そう言われるとそんな気もするな」
暦の上では秋、とは信じがたい猛暑日の夜。文明の利器、クーラーがなければ命すら危うかっただろう。命に電気代は変えられぬと空調を点け、肌触りのいいガーゼの布団に潜り、そして隣には伝蔵さん。私たちは二人して体温が高い方の人間なので、冬に一緒に寝るのは温かくていいのだが、空調を点けるか否か悩むような気温の日には暑いのだ。しかし、きっぱりと暑くなってしまえば逆にやりようがある。寝苦しい夜で寝不足になるより、部屋を冷やした方が賢いというものだ。
布団の中で、もぞもぞと伝蔵さんの手を探る。腕から辿れば、容易に捕まえることができた。ツボ押しでもするかのように手のひらを指で押し、指を絡めて遊んでから手を繋ぐ。それだけでも私は嬉しく、得意な気持ちになる。伝蔵さんが苦笑する。明日も早いんですから、遊んでないでもう寝なさい。少しだけ眠りの世界に足を踏み入れたような声色が不思議に優しくて、もっと聞きたいような、邪魔はしたくないような気持ちになる。手を、解かれないことで満足して私も眠ろうか。
「伝蔵さん」
「なぁに」
「おやすみなさい」
「ん、おやすみ、はんすけ」
名前を呼ばれて、嬉しい気持ちで目を閉じる。好きな人と手を繋いで眠る。こんな暑い日に、わざわざくっついて。繋いだ手は温かい。伝蔵さんは寝つきがいいので、数分もしないうちに、すうすうと健やかな寝息が聞こえてくる。それを聞いていると、不思議にじわじわと嬉しくなる。目を閉じて、その寝息に呼吸を合わせているうちに、私もゆっくり眠りに落ちていった。