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    キタハル

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    キタハル

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    半伝 犬とか猫とかを拾ってきがちな伝と、犬相手に嫉妬しちゃう半が見たかった。山田家の獰猛なネコチャンに関する捏造を含みます。

    ##半伝
    #半伝

    仔犬の半助、保護される「ははは、半助、そんなとこ舐めるな、全くもう、あっはっは」
    山田先生が「半助」に顔を舐められて、くすぐったそうに笑う。咎める言葉でありながら声音は楽しそうで、相手を本気で止めようとしているとは思い難い。人間の方の半助はムムウと頬を膨らませた。ここ数日の山田先生は、裏山で拾ってきた仔犬の半助にかかりきりだ。人間の半助の方はなかなか構ってもらえずに、ちょっぴりおかんむりなのである。

    事の顛末はこうだ。裏山の、おそらく生徒が掘ったであろう穴に、仔犬が落ちてキューキュー鳴いていた。そこに日課の朝ランニングをしている山田先生が通りかかった。そこは低学年生の実技でも使うような場所であるため、見目の愛らしい仔犬などが鳴いていては、生徒たちの気が散るのは火を見るより明らかだった。だから授業の邪魔にならぬよう、拾ってきたのだと山田先生は言う。山田先生はどこからか使っていない箱を持ってきて、ご自身の着古しの忍者装束を割いて底に敷き、仔犬をそこに入れた。私事なのに生物委員に任せきりにするわけにもいかないからと言い、それを山田・土井の職員部屋に持ち込む。手慣れた様子ではあるが、なんせ仔犬だ、手がかかる。食事の間隔も短く、食わせるのにも人の手がいる。山田先生の手からすり潰した残飯をおぼつかない様子で食べる仔犬は確かに愛らしい。甲斐甲斐しく仔犬の面倒をみる山田先生も、ご多用ではあるものの楽しそうだ。よく食べた、偉いぞ、可愛いなぁ。そう言って仔犬を撫でるのである。山田家に匿ってもらった時のことを思い出す。出していただいた食事がたいへんおいしく、遠慮も外聞もなくペロリと平らげた時も、感心した様子で鷹揚に褒めてくださったのだった。なんだか、気恥ずかしくて落ち着かない。

    「またですか」
    ちょうど学園に顔を出していた利吉くんは、仔犬を見るなりそう言った。六年間ほど一緒にいる私からしても「また」なのだから、十八年間家族である利吉くんからしたら、それはもうよくあることなのだろう。
    「父上、猫ならともかく、犬は片手間では飼えませんよ。家にも帰ってこれないのに、散歩とかどうするおつもりなんです。完全に自立しているヘムヘムとは違うんですよ」
    「わかっとる。里子に出すつもりで飼い主を探し中だ」
    「はぁ。父上のお知り合いなんて、みんな犬だの猫だの、何かしら父上から飼わされているでしょう。私もいくらか知り合いを当たってみますが」
    「おお、すまんな」
    「あまり頼りにしないでくださいよ」
    利吉くんは口では文句を言いながら、慣れた様子で仔犬の鼻先を指で撫でた。子どもが得意でない割に子供に優しい、利吉くんらしい心根の優しい仕草だった。もっとも、子どもたちとは違って、動物相手には慣れた様子ではあるのだが。
    「こいつ、名前は何かつけたんですか。情がうつっても困りますが、呼び名がないと不便でしょう」
    「半助」
    山田先生が私の名を口にすると、利吉くんがこちらに顔を向けた。私から犬の名前が発表されるものだと受け取ったらしい。利吉くんの目線を受けて、私は苦笑しながら説明しようと試みる。
    「ええとね、」
    「犬の名前が半助だ。半助と呼ぶとワンと鳴くから半助だ」
    「山田先生がこの子を私たちの部屋に置いている間に、私を呼ぶ名前が自分のものだと思っちゃったんだよ」
    なるべくからりと補足すると、利吉くんは伝蔵さんによく似た目元を丸くした。それから、父上ってそういうところありますよね、と小さく言って苦笑してみせてくれた。私が内心おもしろく思っていないことを見透かされたようで、少し気恥ずかしい。
    「父上は犬に弱いんですよ。うちの猫が、父上が拾ってきたのにも関わらず、父上にだけ懐かないものですから。まあ餌をやるのは母上で、父上はほとんど家に帰ってこないんですから、それは仕方ないですよね」
    「いいんだ、猫は猫というだけで可愛いんだから」
    「そんな事言って、犬に懐かれるとデレデレなんですよ、この人」
    「犬は犬で可愛いんだから仕方ないだろう」
    山田先生は何故かバツの悪そうな顔をしている。なかなか家に帰れないことを責められているのだと受け取ったのかもしれない。もしくは、強面の男が犬猫を可愛がるのを恥ずかしがっているのかもしれない。前者でも後者でも今更のことではあるのだが。
    「まあそんなわけで……、預け先が見つかるまで父上はしばらくこの様子だとは思いますが、土井先生にはご迷惑おかけします」
    「迷惑というほどのことはないだろう。なぁ、半助」
    「キャン!」
    「ええと、人間の方の半助」
    「はい、ええと、まあ、できる範囲でですけどお手伝いはしますよ」
    「父上、同室で迷惑がかからないなんてことないですよ。少しは配慮してくださいね。では、私はそろそろ戻りますから」
    仔犬はパタパタと尻尾を振っている。警戒心が薄いのは、まだ人間に酷い目に遭わされたことがないからなのか、もともと神経が図太いからなのか。利吉くんは目元を緩めて犬を撫で、腰を上げた。ふと目配せされ、私も腰を上げる。せっかくだから門まで送っていきますと言うと、山田先生は短く、利吉、またな、と言った。

    「お兄ちゃんが崖から降ってきた後にうちにいたことがあったでしょう。あのとき私、拗ねてたんですよ。父上がお兄ちゃんに取られちゃう、って。まあ、その後すぐ懐いちゃったんですけど」
    「うん、利吉くんはいい子だったから」
    「そんなことないです。あの父上の息子ですよ。捻くれているに決まってます。最初は早く治って出ていけーって思ってました」
    「あはは。でも怪我が治るまでは置いておいてくれるんだ?」
    「父上も母上も、あれで怪我人とか困ってる人とかにはやたら優しいので。子供の身で逆らえませんよ」
    「それはそうかもしれないねぇ」
    笑いながら並んで歩いていると、利吉くんがはたと申し訳なさそうな顔をする。
    「……犬と一緒にしたみたいに言って、すみません。なんだか思い出しちゃって」
    「ううん、実は私も思い出してたんだ。利吉くんたちに助けられた時のこと」
    「……何が言いたいかというと、その、名前。うちの父がすみませんと言いますか。大丈夫ですか?」
    「実は正直おもしろくない」
    半目になってぶっちゃけると、利吉くんはふはっと吹き出した。
    「ですよねぇ」
    「まあ、こっちは大人だし、相手は犬だし、我慢するさ。一時的なことだしね」
    「では、あの犬っころがさっさと幸せになれるよう、もらってくれる先を探しますか」
    「うん、私もそれなりに伝手がないこともない。こっちでも聞いてみるよ」

    そう言って大人らしく大人ぶったのが二週間前のこと。仔犬の貰い手はそう簡単には決まらず、犬はまだ部屋にいた。利吉くんの言う通り、山田先生の知り合いはたいてい既に犬猫を飼っていて、知り合いの知り合いに声をかけてもらっている状況だ。それに仔犬の半助はまだ番犬ができるような歳ではなく、むしろまだまだ手がかかる。人の役に立つかと言うと、将来に期待といったところだ。
    「お前はまだまだ子どもなのに半人前なんて、贅沢な名前をもらったなぁ」
    山田先生の代わりに給餌をすると、仔犬の半助は遠慮なくそれを食べる。拾われてきた時より心なしかころころと太って大きくなった。飯がうまいのか、尻尾がぱたぱたと揺れている。人慣れしているのはいいが、このままでは番犬の役には立たないかもしれない。しつけというのはどれくらい育ったらするものなのか、調べてみようかと思った。
    「おお、半助、すまんな」
    「山田先生。いえいえ、」
    「キャン!」
    山田先生が部屋に帰ってくる。山田先生の労りの言葉に対して、仔犬の返事が私の台詞にかかる。ぱたぱたぱた。尻尾が嬉しそうに揺れる。仔犬にも恩というものがわかるのか、こいつは山田先生にいっとう懐いている。山田先生の方も仔犬に甘く、大きなつり目の端を緩ませて私の隣に座り込む。半助、なんだか少し大きくなったなぁ、と言って、仔犬の頭を撫でた。
    「あのう。こいつの名前、なんとかなりませんか」
    「?どうして」
    「どうしてって……、半助は、私の名前です」
    ムムウとむくれて見せると、山田先生はきょとんとした顔をした。
    「なぁに拗ねとるの。わんころ相手に」
    「だって……」
    こいつが来てから、私のこと、あんまり構ってくださらないじゃないですか。続く言葉はさすがに情けなく、もにょもにょと言い淀んだ。それでも引けずに何か言いたげな様子を見て、山田先生が何かに合点する。
    「……多頭飼いをする場合、やきもちを焼かんよう、先住犬を優先してやる、ということか」
    「はい?」
    「いや、こいつを二頭目に迎えたいという奴がいてな。そいつと用意をしたり、調べものをしたりしていたんだが、ようやく目処がついたんだ」
    山田先生に頭を撫でられる。わしわしと、犬にするように撫でられて、先住犬として優先的に構われているらしいことがわかる。情けない気持ちもないではないが、単純なことに、撫でられて満足する自分がいる。拗ねていた気持ちが解けると、先の山田先生の台詞の情報に瞬きをした。
    「え、それでは、こいつ、貰われていってしまうんですか?こんなに山田先生に懐いているのに」
    「仕方ないだろう。うちでは飼えないんだから。それに次の家はいいところだぞ、敷地も広いし、夫婦は犬好きだし、子どもも二人いる。散歩の労力には事欠かないだろうし、子どもの情操教育にもいい」
    「そんなぁ」
    私をたっぷり撫で終えると、山田先生はひょいと仔犬の方の半助を持ち上げて膝に乗せる。
    「おまえさん、ちょいと名前を変えてもいいかな?このオニイちゃんがな、名前があんたと一緒だと、紛らわしくて困るんだと」
    「キャン、キャン」
    「そうだなぁ、音も似てるし、わん助ではどうだ」
    「キャン!」
    半助、改め、わん助は、ぱたぱたと尻尾を振って、山田先生の指をあむあむと甘噛みして遊んでいる。そうか、お前はこんなに山田先生が好きなのに、山田先生とずっと一緒にはいられないんだな。なんだかしんみりとしてしまう。そんな私の姿を見て、山田先生がすまなそうに言う。
    「やはり同じ名前が付くと情が湧いてしまうか。悪かったな。次は気をつけるようにする。まあ、さほど遠くない家だから、機会があればこちらから遊びに行けばいい」
    利吉もなぁ、慣れん内は別れる度に大泣きして大変だったよ。山田先生が昔を懐かしむ顔をする。はい、と仔犬を渡されて、頭を撫でてやる。毛むくじゃらのふわふわで、かわいいと言えば確かに可愛い。山田先生に拾われたんだから、ちゃんと幸せになるんだぞ、と先輩面をして言うと、キャン、と素直に返事がある。相変わらずぱたぱたと揺れる尻尾を見て、こいつが人間に嫌な目に遭わされる日が来ないといいな、とふと願った。


    仔犬を送り出して二週間。里親の家族からの手紙が届き、山田先生がニコニコ笑って報告してくれる。
    「半助。この間の仔犬だが、ひとまず新しい家に馴染んでくれたらしい。よかったな」
    「そうですか。それは良かったです」
    「ちなみに名前は伝助になったらしい」
    「で、伝助、ですか」
    「伝蔵が連れてきた、わん助だから、伝助だ」
    「あの、もしかして先住犬の方も、名前に伝って付いてます?」
    「よくわかったな。そっちは伝吉だ。ふふ、伝吉と伝助が同じ家に住むことになるとはな。伝吉の方が年上だから、名前の元と逆になるな」
    なるほど、今回の件について、利吉くんは完全に私の先輩ということらしい。それであんなに気を遣ってくれたのか。利吉くんも、ちょっぴり拗ねたりしたのだろうかと思うと微笑ましい。いや、自分の拗ねっぷりを思い出すと、自分に関しては微笑ましくはないのだが。
    「多分ですけど、伝助は伝吉くんのことも好きだと思うので、うまくやると思います」
    「うん、あいつは懐っこいやつだったからな。人相手でも犬相手でも、大丈夫だろう」
    「先方にご迷惑でなければ、そのうち顔を見に行きたいですね」
    犬の伝吉くんに会ったことはないのだが、目元の涼やかな面倒見のいい犬の姿が脳裏に浮かぶ。伝助が世話になります、と心の中でお願いする。二頭を散歩に連れて歩く山田先生を想像する。二頭とも山田先生にじゃれついて、歩きにくそうで面白い。いや、想像の中の話だが。
    「そうだな、今度、礼を兼ねて遊びに行くか」
    山田先生が優しい顔でそう言うので、その時は忘れずに私も連れていってくださいねと念を押した。
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    キタハル

    DONE半伝 犬とか猫とかを拾ってきがちな伝と、犬相手に嫉妬しちゃう半が見たかった。山田家の獰猛なネコチャンに関する捏造を含みます。
    仔犬の半助、保護される「ははは、半助、そんなとこ舐めるな、全くもう、あっはっは」
    山田先生が「半助」に顔を舐められて、くすぐったそうに笑う。咎める言葉でありながら声音は楽しそうで、相手を本気で止めようとしているとは思い難い。人間の方の半助はムムウと頬を膨らませた。ここ数日の山田先生は、裏山で拾ってきた仔犬の半助にかかりきりだ。人間の半助の方はなかなか構ってもらえずに、ちょっぴりおかんむりなのである。

    事の顛末はこうだ。裏山の、おそらく生徒が掘ったであろう穴に、仔犬が落ちてキューキュー鳴いていた。そこに日課の朝ランニングをしている山田先生が通りかかった。そこは低学年生の実技でも使うような場所であるため、見目の愛らしい仔犬などが鳴いていては、生徒たちの気が散るのは火を見るより明らかだった。だから授業の邪魔にならぬよう、拾ってきたのだと山田先生は言う。山田先生はどこからか使っていない箱を持ってきて、ご自身の着古しの忍者装束を割いて底に敷き、仔犬をそこに入れた。私事なのに生物委員に任せきりにするわけにもいかないからと言い、それを山田・土井の職員部屋に持ち込む。手慣れた様子ではあるが、なんせ仔犬だ、手がかかる。食事の間隔も短く、食わせるのにも人の手がいる。山田先生の手からすり潰した残飯をおぼつかない様子で食べる仔犬は確かに愛らしい。甲斐甲斐しく仔犬の面倒をみる山田先生も、ご多用ではあるものの楽しそうだ。よく食べた、偉いぞ、可愛いなぁ。そう言って仔犬を撫でるのである。山田家に匿ってもらった時のことを思い出す。出していただいた食事がたいへんおいしく、遠慮も外聞もなくペロリと平らげた時も、感心した様子で鷹揚に褒めてくださったのだった。なんだか、気恥ずかしくて落ち着かない。
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