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    みやこ

    @nevergivedog

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    みやこ

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    あたしは真面目だから思い詰めすぎちゃう融通のきかない真田が好きだけど、幸村くんと話してるとこ見ちゃったら、本当はなんにも知らないんだなってわかっちゃったって話の再掲です

    もともとhttps://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13125022

    きっと、きっとなんにも知らない 人間、誰だって生まれを選ぶことはできない。十五歳でやっと気づいた真実は残酷。
     あー、違う違う、あたしが家族と仲悪いとかそういうんじゃなくて!
     ほら、幼馴染ってあるじゃん。いつからの知り合いだったら「おさななじんでる」ことになるんだろう? 同じ小学校はアリ? それとも幼稚園? 生まれた病院が一緒じゃなきゃダメ?
     でも考えたところであたしは何者にもなれない。

     あれは……いつだったっけ。そうだ、あの日だ。八月。めちゃくちゃ暑くって、バレないようにこっそりした化粧も塗りまくった日焼け止めも全部汗で落ちた日。ダサいダサいって言いながら、でかでかと立海大附属中学校の名前が踊るマフラータオルを頭巾みたいに被って、あたしたちは試合の行く末を眺めていた。
     これまでと何度かテニス部の応援はした。うちのテニス部って全国常連ですごい強いらしいし見ておこうよ、みたいなノリで、仲良いグループで誘い合うのが恒例になった。それに、あいついがいるから。真田。口うるさくて仕切りたがりで、すっごい真面目で誰よりも一生懸命な真田を、二年で同じクラスになってからずっと目で追ってきた。
     でも、あんなに太陽が眩しかったのはあの日だけだ。「ゲームセット」の掛け声があんなに無慈悲に聞こえたのも、初めて。立ち上がって客席から「何にも知らないくせに!」って言ってやりたかった。まあ、審判が何も知らないわけないんだけど。けどさ、そんな風に思っちゃうくらい悔しかったんだよ、本当に。
     最後の試合に出ていた幸村くん(と言っても当時あたしは彼の名前も知らなくて。部長やってる子、くらいにしか思ってなかった)の驚きとショックで戸惑ってるような顔を見てたら、私の心臓もきゅーってなった。ああ、テニス部、負けちゃったんだ。
     幸村くんが部員の方へ向かう足取りは、しっかりしていたけど、同じくらいの身長の男子よりちょっと薄くてこころもとなかった。
     ベンチにいた真田がすっと立ち上がる。迎えるように幸村くんへ一歩近づいた。真田の真正面で幸村くんはぴたりと立ち止まる。だんまりだった。話してたとしても、遠く離れたこっち側にはなんにも聞こえない。
     でもこっち側にいるからこそわかることも、あった。全部。すとんと。二人の間で確かに何かが交わされた。賑わう観衆に取り込まれて、言葉も使わずに、触れ合うこともなく、それでも何かを、もしかしたら何もかもを、真田と彼は相手に伝えて、それぞれの発したものを理解したんだ。
     さっきまで滝のように吹き出していた汗が冷えてきてすごく寒かった。タオルでごしごしと流れ落ちたラメで光る肌を拭いながら、ねえ、といつものメンバーに声をかける。
    「あの子、なんて名前だっけ?」
     決勝で戦った二校がコートの真ん中で向き合って並んでいる、そのうちの一人をあたしは指さした。
    「あの子って?」
    「誰? どの子?」
    「だからあの白いヘアバンの。ちょっと髪の長い、さあ」
    「あ〜!」
     あたしたちの座席からじゃテニス部は背中しか見えない。何人かは背筋を丸めて、誰だったかは力が全部抜けきったみたいに、そして真田は、校門で風紀の服装指導してるときそっくりそのまま背筋をピンとのばして。
    「え、けっこう有名じゃん」
    「バレンタインえぐかったよね。一年からもチョコもらいまくっててさ」
    「だから知らないんだってば」
     うちみたいな大きい学校じゃ誰が誰かなんてよっぽど目立たない限り区別はつかない。
    「C組の幸村くんだよ」
    「ふーん。……あっ!」
     違う。いつもどおりじゃない! 真田、ちょっと下向いてるんだ。今日って、それだけのことだったんだ……。
    「ありがとうございました!」
     健闘をたたえ合う男の子たちの声が重なって、マイクもスピーカーもないのにあたしの鼓膜をぶるぶる震わす。
    「部長なんだっけ」
     質問というより自分に確認するようなあたしの呟きに友達がそうそう、と頷く。
    「ほら。去年の十月さあ、駅で倒れたって噂なったじゃん? あれマジだったらしくて」
     言われて、看護師さんを引き連れて登校する男の子がいたことを思い出した。やけに目立つなあって、あたしの認識はそれ止まりだったわけだ。
    「幼馴染らしいよ」
    「え?」
    「幸村くん、幼馴染なんだって。真田の」
    「武将じゃん」
     誰かが言って、同意の軽い笑いが起こるのをぼんやり聞いていた。ゆきむらって……雪村? まさか幸村? 真田幸村の、あの? ゆきむらくん。そっか、あの子が倒れたから、だから去年の秋、真田は今以上に武士っぽくて、もっとむっつりとかたい感じだったのかな……?
     優勝旗を手にした子たちの方に雲間から差し込んだ陽射しが当たる。まるで神様がそうやって調節したみたいに。
     まだ薄いグレーの空の下では、どうしてか副部長のはずの真田が準優勝の盾を受け取っていた。七月の大会ではわがままみたいに盾を拒否した真田がきちんと両手で受け取って列に戻るのを見たらあたしまで泣きたくなった。 
     そう。あたしまで。ドラマみたいな試合よりも、真田が泣いていることがあたしにとっては衝撃的だった。身体を流れる血が停止しちゃうってくらいのショック。真田は隠すみたいに盾を持ったのと別の手でいっつも被ってる黒いキャップのつばをくいっと下げたけど、その下で光った涙とその跡を、これからも忘れることなんかできっこない。

    「またな」
     びくっとした。あたしに向けられた言葉じゃないってことはよくわかってる。だから同じ車両に乗り合わせたときからずっと見ないように、見ちゃわないように、スカートの裾からちょっと出た膝頭をじーっと睨んでやり過ごしてたのに。
    「お前のおかげで俺の中学校生活は充実したものになった」
     聞いたこともないような真田の声に引き寄せられて思わずそっちを見てしまった。目と耳をふさげって頭の中で警告音が鳴ってる。でも心は素直だからそんなの聞きっこない。
     知らない人みたいだった。真田はいっつも怖いとかオニとか言われてるけど、全然、普通だよ、普通に優しいよ、みんなも本当はいいやつだってわかってるはずだよ。だけどそれでもこんな声はきっと誰も。
    「こちらこそ。でも気が早いよ。まだ三年ある」
     幸村くんが微笑んでその手をつり革からすっと離すと、真田の右手が応える。乾いた音が鳴った。ただのハイタッチだったけど、気持ちいいくらいバチッとよく鳴った。
     ちょうどそのときドアが開いた。ちょっと冷たくて、でもふんわりした風が吹いて車内を春色でいっぱいにする。
    「じゃあ、またな。明日はリバーサイドに十時だからね。遅れるなよ、真田」
     冗談めかした言葉を残して降りた幸村くんはどこまでも軽やかだった。
     幼馴染の背中がすっかり見えなくなるまで窓の向こうをじっ、と見守っていた真田は、電車が動き出してどんどんホームを離れてようやく肩の力を抜いた。仁王立ちして瞑想してるみたいに目をつぶってる。眉間のしわはほぐれていて、いつもより穏やかだった。
     今日でお役御免の通学鞄の中で、卒業証書とアルバムが急にずしんと重たくなった。次の次の駅であたしは降りるけど、たぶん、あたしと真田の間には、じゃあねやまたねの約束も、そんな明日もないまんま、あたしは卒業しちゃうんだ。
     
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    Replies from the creator

    みやこ

    DONE幸真
    きっといつか重たい雲の間から光がさすから。

    にわか雨に降られた2人が駅で雨宿りしています。
    いつか光がさすように 真田が怒鳴っていた。なにか言っているのはわかるのに、はっきりと聞き取ることができない。
    「聞こえないよ!」
     俺も負けじと声を張ったが、それも伝わったのかどうか。
     夕立は勢いを増すばかりで、バラバラと大きな雨粒が容赦なくアスファルトに叩きつけ跳ね返る。会話をしようとするとどうしても叫ばなければならなかった。意思の疎通が成功しているとはとても言えないけど。
     開けた海岸沿いの遊歩道に、雨宿りできそうな建物や葉の茂った樹木は見当たらず、ただひたすらにバシャバシャと水を蹴散らして駅へと走っていた。
     道を渡れば目的地はすぐそこなのに、ちょうど赤に変わった信号に足止めされ、こんなときに限って車は絶え間なくやってくる。点字ブロックのくすんだ黄色をじっと見つめていたら、雨をかいくぐっていらいらとした舌打ちがちっ、と耳に飛び込んできた。そっと真田をうかがう。真田はそうすれば信号が赤から青へと変わると信じているみたいに睨みをきかせている。責められているような気がするのは実際すまないと思っているからだろうか。
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