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    pap1koo

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    pap1koo

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    【ミスオエ】オズを倒すために魔法薬作りに夢中になっていたミスラが勝手に部屋に入り込んできたオエに矜持を試される話。

    北の矜持2 展示小説でした! ご覧くださり、そしてスタンプやメッセージなどもありがとうございました!

    ##ミスオエ

    選択肢はひとつだけ 乾燥した薬草が、ミスラの手のひらからさらさらと落ちていく。丸い鍋の中に吸い込まれると、あっという間に底へと沈んでいった。ミスラの自室で焚いた香を上書きしていくように、辺りにツンとくるような癖のある香りが漂い始める。
     あとは、桃の木の皮に、死の湖の土と水、それと先ほどキッチンから拝借してきた月光樹の実をいくつかと。それらをひとまとめにして投げ込むと、ぐつぐつと煮えたぎる鍋をミスラはただひたすらかき混ぜ続ける。
    「ねえ、ミスラ。それ、いつになったら終わるわけ?」
     心底つまらなさそうな声が背後から投げかけられた。オーエンが来ていることは承知していたが、相手をしている場合ではないとしばらく放置していたら、まだ諦めていなかったらしい。面倒だからと返事をせずにいれば、痺れを切らしたようにベッドがぎしぎしと軋む音が聞こえてくる。
    「ねえってば! 僕がずっとここで待ってるんだよ。返事ぐらいしろよ」
    「俺は来てくれと頼んだ覚えはありませんよ。それより、俺の寝所なんですから、壊したら承知しませんからね」
     振り返らずに答えると、当てつけのようにベッドで跳ねる音がした。
     そんなことよりも手元の鍋に集中する。かき混ぜるうちに鍋の中身が紫色のどろりとした液体へと変化していく。いい兆候だと、唇の端で笑みを作ると空中に浮かんだ魔導書へ目くばせをした。ぺらりと一枚、薄い紙をめくると、次の工程を入念に確認する。
    「ミスラ」
    「はい」
    「それ、どうするの?」
     暇を持て余したオーエンは、ベッドで跳ねるのを止め再び声をかけてくる。
    「もう少し煮てから、最後に塩と胡椒を入れて味付けをします」
    「塩と胡椒? うわ、その変な臭いのやつ……もしかして食べるつもり?」
    「はあ? 俺がこんな得体のしれないものを食べるわけないでしょう。これはオズを倒すための秘薬です。これを食わせて怯んだところを、俺が後ろから襲えばさすがのオズでもいちころでしょう。ですからオーエン、見ての通り俺は魔法薬づくりに忙しいので、あなたの相手をしている場合じゃありませんから」
    「ふうん……オズをね」
     いつもなら、薄ら笑いを浮かべて「僕もついて行ってあげる」と言ってくるはずのオーエンが、珍しく気乗りしない声を出した。
    「くだらない。どうせミスラが丸焦げになって、中庭とかその辺にみっともなく捨てられるだけだろ。昨日は僕がやつにお仕置きをくらったけど、今日はお前の番ってわけだ。ふふ、楽しみだね」
     力の差がわかっていても、自分よりも強いオズのことを倒したくなるのが北の魔法使いだ。とにかく尻尾を巻いて逃げたままでは北の矜持が許さない。もがき、苦しみ、それでもなお自分の力で立ち上がる。それはオーエンだって同じなはずなのに、今日は何だか足並みが揃わない。
     あんなにオズを殺したいと言っていたくせに、今日はやたらとしつこくミスラに絡んでくるオーエンが一体何を考えているのか分からない。考えれば考えるほどもやもやとした気分になり、ミスラは口を閉ざした。
     コツンと何かが体に当たる。「おい、僕が喋ってるんだよ。返事ぐらいしなよ」と文句と共に、硬くて小さな塊がいくつもミスラの体に降りかかってきた。
    「痛! ちょっと、何するんですか」
     頭に当たって足元にコロンと落ちるそれは小さな包み紙に巻かれた飴玉だ。それをじっと見ているとオーエンの肩を震わせるような笑い声が聞こえてくる。その後もポン、ポンと色とりどりの飴玉が飛んできてはミスラの体に当たっては、台の上や床に落ちて転がっていく。
    「オーエン! 鍋に入ったらどうしてくれるんですか」
    「またいちからやり直しだね。ああ、可哀想なミスラ。オズを倒すことなく、飴玉なんかに邪魔されちゃってさ」
    「あなた……俺がこれに何日かけてきたと思ってるんです。次やったら殺しますよ」
     水晶の髑髏を浮かべオーエンを振り返るが、にやにやと笑みを浮かべるだけで、その手元にはトランクすらない。馬鹿にされているのかと、オーエンを睨む目に力が入る。
    「あは……ミスラ、もしかして怒っちゃった? その魔法薬を捨てて、今すぐ僕を殺したいくらい?」
     その挑発に苛立ちはするが、ミスラはすぐに髑髏をしまった。いつもならばとっくの昔にオーエンはベッドの上で動けないようになっているはずだが今日は違う。これはミスラがオズを倒すために数日かけてきた大事な工程だ。今までの苦労を思えばミスラだって慎重になる。
    「ふん。どうもしませんよ。あなたが邪魔したところで、これっぽっちも気になりませんから」
    「は? また僕のこと無視する気?」
     ころころと笑う声が突然途絶え、シュッと音を立ててミスラの顔のすぐ横をまた飴玉が通り抜けていく。強めに投げられた飴玉は壁を跳ね返ってその場に落ちた。解けた包みから割れた中身が飛び出し、薄っすらと赤くて艶やかな欠片が散らばっている。
    鍋の匂いをすり抜けて、酸っぱくて甘い匂いが香ってきた。これは、西で見かけるベリーか何かだろうか。
    「さっき中央の市場で奪ってきたんだ。ふわふわでとろけるような食感も好きだけど、口の中がずっと甘いままでとっても美味しい。たまにはこういうのもいいよね」
    「そうですか、良かったですね」
    「何、その返事。ふん……つまんないの」
    つまらないのなら、そのままどこかへ出かけてくれたらいいのに。そう思いながら引き続き鍋の中を見ているがなかなかオーエンの気配は消えず、代わりにぽすんと音がする。
     ちらりと横を見ると、オーエンはミスラのベッドで横になっていた。三日月の形のクッションを抱きしめ、ミスラのことをじっと見つめている。
    「勝手に人のベッドで寝ないでくださいよ」
    「持ち主が寝れない分、代わりに僕がたっぷり眠ってあげる」
    「あなたいつもそこで寝てるじゃないですか」
     オーエンはミスラの枕に頬を沈めながらにこやかに視線を送ってくる。パチン、と指を鳴らすと軍帽や外套、ジャケットまでがふわりと飛んで綺麗にソファの上に並べられた。布団を手繰り寄せると、オーエンはぬくぬくとした顔で体を丸めている。
     まあ、寝ててくれたら静かでいいか。
     ミスラはようやく視線を鍋に戻すと、より一層集中する。次の調合はとても繊細な工程だ。何度も魔導書を読み直し、時折頭の中でオズに勝つ自分を想像しほくそ笑む。さすがに殺すまではしないが、降参したオズがミスラに戦慄した表情を浮かべ首を垂れる姿は何とも言いようがないほど気持ちがいい。思わず鼻を鳴らし笑いがこぼれる。つかさず「何で笑ってるの」と邪魔されて、みっともないオズの姿は消え失せてしまった。
    「はあ……せっかくいいところだったのに。寝たんじゃなかったんですか」
    「きみが急に笑うからだろ。ねえ、何がいいところだったの?」
    「俺がオズを倒したんですよ。あなたにも見せてやりたかったですね。ちょうど今、跪くオズの頭を俺が格好良く踏んづけてやったところだったのに。どうですか? 羨ましいでしょう」
    「ミスラの妄想なんかに興味はないよ。しかも僕がいるのに、ずっとオズのこと考えてたってわけ?」
    オーエンは拗ねたような口振りで言ったあと、わざと音を立てるようにベッドを揺らした。
    「ねえ、ミスラ……そんなの後にして、僕のところにおいでよ」
    「嫌ですよ。どうしてあなたの命令を聞かないといけないんですか」
    「いいじゃん。ねえ、早く」
    「無理ですね。手が離せませんので」
    「僕がこうしてきみを待ってる理由ぐらい……きみだって、分かってると思ったのに……」
     ぽつりと呟いたその声に、大きなスプーンを持つ手がびく、と揺れる。
     ふうっと零れる吐息の乗せて、ミスラの周りをするりと纏うように風が吹く。先ほどと同じ甘酸っぱい香りに頬を撫でられ、後ろを向かされた。
    「オーエン、だから何度も……」
     振り返ると、色違いの瞳を潤ませ、眉を下げたオーエンはきゅっと布団を握りしめてこちらを見ていた。
    「ミスラ……早く……僕、待ちきれないんだけど」
     かすかに上気させたその頬に、ぐっと喉が鳴る。一歩踏み出そうと足の爪先に力が入るが、まだ堪える。
    「ねえ、ミスラ」
    「早く」
    「ミスラってば……」
     オーエンは次々とそそのかすような甘やかな声を出し、ミスラを誘い込もうとする。その声で名前を呼ばれるたびに耳はぴくりと反応を示す。けれどもオズをこの秘薬で倒すと決めたのだから、こんな誘惑に早々負けるわけにはいかない。ミスラはオーエンに背を向け、抵抗を続けた。
    「そう。わかった。なら僕、ひとりで遊んでるから」
     がさがさと身じろきをする気配。ほどけ落ちさらりと流れる衣すれの音。
     カチャ、と軽い金属音は、ベルトを外したのだろうか。パサリと床に何かが落ちる音がする。
     小さく喉が鳴り、重い息が吐き出されると、室内はしっとりと濡れた空気へと変わっていく。
     頭の中で、柔らかなシーツの上を、オーエンの爪先がゆっくりと引っ掻いていく。何も身に着けていない白い肌は、いつもよりも赤く染まり、目を奪われる。
     ミスラの肩に手を回し、名前を呼んで唇を塞がれた。普段ならば軽口を言うその唇は重ねるととても甘く柔らかい。ふだん子供のように甘いものを頬張るその顔は、ふたりでいる夜には艶やかで見ているだけで口づけたくなる。
    「ねえ、さっきから手が止まってるけど、いいの?」
     はっと気が付けばだいぶと時間が経っていた。煮込み続けた鍋からは水分がなくなり、どろどろに煮詰まれている。ふふと嘲笑う声に、負けじとミスラも鍋を大きく掻き回すが、既に頭の中はオーエンでいっぱいだった。その恥ずかし気に身をよじる姿がふいに頭をよぎると、すっかりとムラムラは膨れ上がり、ずくりと腹の奥が熱くなる。
     頭の中で組み敷いたオーエンが、甘く声を出す。ぐっと引き寄せられ奥まで繋がると、なんとも言えないほどに胸を満たされる。その瞬間を思い出すと、オーエンの声がもっと聞きたくなった。
     小さく絞り出すような声が聞こえる。それにしてもいやにはっきりとしているな、と耳をすませれば、背後からその気配がして、思わず体がぴくりと動いた。
    「あ……っ、ミスラ……」
     ベッドの軋む音に、喉を震わす声。とろけた液体が跳ねる音がして、まさかと思い振り返るが、オーエンは布団を被りミスラからは何も見えない。
    「どうしたの? ずっと僕のこと見て」
    「いえ、ちょっと気になっただけで……」
    「ふふ、気になるんだ? ……でも放っておいて大丈夫? きみが大事にしてる、それ」
     オーエンは顎をくいと動かす。その視線の先にはミスラの手元の鍋だ。
    「あっ!」
     少し焦げ付く臭いが鼻につく。慌てて呪文を唱え、薬草をブレンドし何とか持ち直すが、これでは効果は半減だ。くつくつと笑うオーエンの声が、部屋に響く。
    「あーあ。余所見するから、失敗しちゃった。残念だね、これでオズを倒しにいけなくなっちゃった」
    「何言ってるんです。まだ勝負すらしていないので、俺はまだ諦めてませんよ」
    「ふうん……何だ。やっぱりミスラは、僕よりオズの方がいいんだ」
     そんなことはない。現に、今はオーエンのことで頭がいっぱいだった。けれども、オズのことも倒したい。何と言えばいいのか言葉が出てこず、ミスラは視線を彷徨わせる。
     ミスラにとってはどちらも手に入れたいほどの魅力がある。オズを倒すことは長年の夢でもあり、だからこそこの魔法薬にかけていた。けれどもオーエンだって放ってはおけない。手を伸ばせないのは、この魔法薬があるせいだ。でも、オズも倒したい。二の足を踏んでいると、オーエンがぽつりとつぶやく。
    「きみ、オズが好きなの?」
    「は?」
    「きみ、ずっと僕よりオズのことばっかり。ねえ、もしかして……オズともしたりするの?」
    「何をですか」
    「エッチなこと」
    「そんなわけないでしょう。気持ち悪いこと言わないでくださいよ」
    「本当に? だって僕がずっと誘ってるのに、オズ、オズって、あいつのことばっかり。だからミスラは僕じゃもう物足りないから、オズの方がいいんだと思った」
     意味が分からないと顔を顰めると、オーエンは「じゃあさ」と起き上がって身を乗り出す。
    「オズと僕、どっちがいいのか答えてよ」
     オズを選ぶのか、オーエンを選ぶのか。そう問われふたりの顔を思い浮かべてしばし考える。オズも倒したいし、このムラムラを解消するために今すぐオーエンのことも組み敷きたい。それに、気まぐれにお茶をして、自分の気に入ったものや景色を見せてやる相手はオーエン以外に考えられない。でも、オズがミスラのことすら相手にしていないのはとても腹が立つ。
    「ねえ、早く答えてよ」
     どちらも諦めきれなくて視線を彷徨わせる。すると、目の前でオーエンの身体から布団がするりと落ちていった。ふう、と濡れた声に合わせて、雪のように白い肌がゆっくりと動く。
    「やっぱり、ミスラはオズがいいの……?」
     もぞりと足を揺らして、ミスラを見つめた。オーエンのあられもない姿に、視線が集中する。誘うように開いた体に、ごくりと唾を飲み込んだ。
    「ねえ、どうするの?」と問われると、ミスラは腕を捲ると「決まってるでしょう」と鍋を放り出し勢いよくベッドに飛び込んだ。
     白衣を脱ぎ捨てれば、「あは、僕の勝ち」とすぐさまオーエンがミスラの体を引き寄せる。んっと唇を何度も啄んでくるオーエンは、甘えるようにしなやかに両手を回し笑みを浮かべる。
    「ふふ、北の魔法使いのミスラが、オズよりも僕を選んだって。あとで言いふらしてやろう」
    「はあ? 何言ってるんです。あなたを手に入れて終わるわけないじゃないですか」
     どういうこと、とオーエンが顔を顰めてこちらを見た。
    「そのあとで、オズを倒します。そうすれば、両方手に入って俺が一番です。ふふん、名案が思い浮かびました」
    「は?」
     オーエンから反発の声が上がる。けれども頭の中は明るい未来の想像でいっぱいだった。世界で一番になった自分と、その隣でにこにこしているオーエンを思い浮かべてみると、自然と笑いがこぼれていく。
     ついオーエンにもそれを話すと、「馬鹿じゃない」と言って、頭の中のオーエンと同じ顔をして笑っていた。

     



    ミスラちゃんこんなに耐えてえらい!
    耐えるのか?こんなにも…と思いながら、ルパンダイブするミスラはかわいいのでヨシとしました。
    北矜持なのでミスラの矜持を試す話…と思ったんですけど、強くて格好いい北の矜持じゃなくて申し訳ありません!代わりにミスオエのちょっとゆるくてかわいい感じが伝わっていれば嬉しいです。
    オーエンに興味示さないミスラとか、ミスラに構って貰えるの当然だと思ってるオーエンとかめちゃんこ可愛くないですか!?私は好きです!
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