指先に思いを浮かべて カチャカチャとキッチンから小気味よい音が聞こえてくる。オーエンが中を覗くと、作業に集中しているネロの後ろ姿が見えた。ふわりと漂ってくるのは甘くてとろりと溶けてしまいそうなあの香り。オーエンが大好きな、ぬるぬるしてふわふわでべたべたの、雪のように真っ白なあの生クリームの香りだ。頭の中でたぷんと揺れる生クリームを思い浮かべば、ふふ、と口元が勝手に緩んでくる。
オーエンは背後から静かに忍び寄った。肩越しに見えるネロの手元には大きなボウルと、その中にはもちろん生クリーム。それを不思議な丸みを帯びた道具で、ネロは休むことなく熱心に掻き混ぜている。集中し、オーエンに気付く様子のないネロを驚かせようと耳元で「やあ、ネロ。こんにちは」と声をかけてみた。思った通り、肩をびくんと上げたネロが振り返る。
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