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    第19回 不死煉ワンライ「無自覚」「アイス」
    1h+20min
    2023/7/15

    #不死煉
    immortality

     第19回ワンドロ「無自覚」「アイス」
     
     
     ここのところとにかく暑くて、暑さに弱い伊黒は日陰から動こうとしないし、不死川は第三ボタンどころか前ボタンを全開にしてシャツは申し訳程度に羽織っているだけという状態だった。冨岡は暑さの限界で自ら髪を切ったところ姉に諭されて美容室へ行き、よりイケメンになったと学校中の騒ぎになるし近隣生徒まで冨岡見たさに人垣が出来るしで、不死川の苛立ちだけが増していた。煉獄と宇髄が揃いのポニテ…? 一結びにしたときには宇髄が「俺のイケメン度が上がっちまうなぁ」とニヤけていたが、冨岡の騒ぎに比べれば微々たるもので不死川が苛立ちを解消するように指を差してゲラゲラ笑っていた。
     そんな不死川が煉獄の一つ結びにだけは「涼しくて良いんじゃねぇ?」と言っただけで、それに対しての煉獄も「うむ。少々落ち着かないが、首元は涼しいと思う」と他人事のように返しただけだ。
     クーラーは稼働しているはずなのに人の出入りと大きなガラス窓からの日差しで教室内は蒸し暑い。下敷きウチワで仰いだところで熱風が動くだけだ。
    「アイス食いてェ」
    「俺も」
    「同じく」
    「同意」
    「かき氷が良い」
     概ねの同意は得たところで売店に向かうも、考えることは皆一緒でアイスや氷菓は空だった。入荷は明日になるというし、冷えた炭酸で紛らわそうにもちょうど炭酸が全て売り切れ、スポーツドリンクも同じくで、この茹だるような暑さが緑茶や紅茶で紛らわせられるはずもない。
    「アイスが食いてェェェええ」
    「おれもぉぉぉぉ」
    「同じくぅぅぅ」
    「……激同」
    「かき氷が…」
    「よし、食いに行くぞォ」
     かき氷を所望していた冨岡の言葉を遮って立ち上がると、案の定「心外!」という顔をしていた。だいたいこのイライラの一端は冨岡のせいでもあるので無視だ。途中コンビニというコンビニに寄って涼を得た伊黒が一向に店から出たがらないので、宇髄を日除けにすることにして何とか駅までたどり着くことが出来た。
     目的地はコンビニではない。平日の学校終わり、イライラと暑さを吹き飛ばせるような、そんな涼を求めて一向は電車に乗った。弱冷房車なんてものは利用価値が分からないという男子高校生だ。クーラーがガンガンに効いた車内で冷気に当たって命を繋ぐ。
    「それで、どこに行くって?」
     目的地も聞かずに付いてきたのは一学年下の煉獄だ。学年は違うのに昔なじみということもあって同じ教室でよく話している。
    「コレ食いに行こうぜ、平日なら人少ねェだろうし」
    「ふむ」
     スマートフォンで話題になっていた写真を見せると煉獄は不死川の手元を覗き込む。先週オープンしたばかりの店舗で、山盛りのかき氷に複数のシロップとアイスクリームが乗せられている。トッピングでは白玉やフルーツもあって彩りも良い。どうやら甘露寺が気になると言っていて、下見に行きたいと伊黒が話していたことが起因のようだ。この暑さに弱い男がたびたび寄り道をしても文句を言わず付いてきたのはそのためかと納得した。
    「良いな、美味そうだ」
     もう少し詳細を読もうと手を出したとき、不死川はそれをスイと交わしてスマートフォンをしまった。「自分で探せよ」なんて当たり前のことを言って、煉獄が申し訳なさそうな顔をする。
    (……どう思います?)
    (どうもこうもあるか)
     二メートル近い男が見下ろしてくるのが不快だと伊黒が睨む。平日の昼間でも利用者が多い路線だ。それなりに混雑した電車内で、伊黒がさりげなく座席の端をキープして座り、上から宇髄が覗き込んでいる。
    (良く分からない)
     宇髄の隣で冨岡が二人に合わせるように小声で囁くが、宇髄の隣に冨岡が立つとそこだけ異常に人の支線が集まるのが面倒だ。伊黒の隣が空いたために冨岡を座らせる。
    (口は出さないと決めている)
    (そうは言ってもよぉ。じれったくねぇ?)
    (煉獄と不死川のことか?)
     冨岡にもバレてんだ、と宇髄が苦笑する。端から見ていれば一目瞭然なのに、どうにも煮え切らないというか一歩が出ないというか。煉獄もなんとなく意識しているようではあるが、学年も違うとあってそこまで積極的でもない。
     遠い昔、前世では二人は同じ柱という立場のまま、それだけの関係だった。歳が近いこともあったし、不死川も煉獄を気に入っているようだったが、それだけで二人がどうこうしていた記憶はない。
     あの頃と違って、今はこうしてわざわざアイスを食べるために出かける時間がある。夜に怯えず、それぞれの自由もある。何も生き急ぐ必要はないのだ。
    (なるようにしかならない)
    (でもよぉ)
     口も出さず手も出さず、本人達の成り行きに任せると伊黒は決めている。相談させれば相手をするが、わざわざ自ら突っ込もうというつもりはない。
     対して宇髄は手を出したくて仕方がない。不死川が意識しているのはバレバレだし、煉獄も気にしている。二人の背中を蹴り飛ばせばあっという間にくっつきそうな気もするし、しかし意地っ張りな不死川は手を出されれば意地を張って気持ちに蓋をするかもしれない。
     冨岡も思うところはあるが、不死川はともかく煉獄ならば自分のペースで何とかするだろうと考えている。悩むなら悩む時間を、進むなら迷いなく進んでいけると煉獄を信じている。不死川はともかくとして。
     そういったわけで周囲が生暖かく見守るなか、煉獄と不死川は出入り口の扉のところで行き先はどこの駅だとかを話している。きっと二人だけなら出かけたりはしないし、二人だけで休みの日に待ち合わせたりもしないのだ。
    (はーーーー、めんどっ)
    (おい)
     伊黒の座る座席の右側には区切りになるパネルが設置されている。立ち人が寄りかかったりしても座席に侵入しないようそこそこの高さになっていて、煉獄はそのパネルに背中を預けていた。不死川も煉獄の前に立って頭上のモニターを眺めている。広告だとかクイズだとかが絶え間なく流れるモニターは移動中の良い暇つぶしになる。
    「あー、悪い悪い」
    「おいッ」
     駅に着くたびに降りる人よりも乗り込む人が増えていく。気付けば座席は満席、つり革もいっぱいになっていて不死川の後ろにはぴったりと宇髄の背中がくっつくほど混雑していた。
    「あっちィんだよっ!」
    「ムリムリ。もっと詰めろって」
    「あー、クソッ!」
     ただでさえ長身の宇髄だ。端に追いやられた煉獄と、煉獄を潰さないようにドアに手を付いた不死川がパネルとドアと宇髄の背中に挟まれる。これ以上進めないというのに宇髄はグイグイ背中で押してくるし、向こう側は巨人が邪魔で混雑具合が見えない。
    「クソッ」
    「不死川、俺は大丈夫だから」
    「…………」
     もっと寄って良いと煉獄が言う。奇しくも壁ドン。いやドアドン。電車のドアに煉獄の一つ結びにした金朱の髪が擦れる。不死川の目の前にはもみあげだけ垂らした煉獄の肌つやの良い頬とうなじが見えている。
    「……っ」
     グッと口元を引き結んだ不死川は赤い顔をしていた。クーラーが効いているといってもこの人混みで、さらに長身の宇髄が冷風を遮断している。ムシムシと空気が淀んでくるし、ここまでに散々汗をかいた身体だ。
    「すまない。汗臭いだろうが、我慢してくれ」
     これだけ密着していれば汗の匂いなんて当然だ。煉獄の左腕にはボタンを全開にした胸板が当たりそうなところを当人が必死に足を踏ん張って耐えている。
    「ちっ……おまっ……っ!!」
     大声を出してしまいそうな不死川が何か訴えたが、詳細は分からなかった。ただその表情は「気にするな」と言っているようにも見えて、気を遣われていると分かる。
    「もうすぐ降りる駅だ。こちら側のドアが開くから、それまで頼む」
    「っ……お、おォ。……いや、ちげェ、汗くせえっつーんなら俺の方だし、っつーか、気にすんな」
     目的地は終着駅だ。線路の切り替えで電車が左右にガタゴト揺れる。そのたびに不死川は腕を突っ張って煉獄に凭れないよう堪えるが、宇髄がバスケ選手のごとくスクリーンでジワジワ押し入ってくる。
    「!!」
     ガタンッと電車が揺れた。つり革を掴んでいた乗客はつり革を支点に傾いて、何も捕まりどころのない乗客は一歩後ろに重心が動く。煉獄が立つ扉側に乗客が一歩押し寄せて、宇髄もわざとでなく不死川に寄りかかった。
     悪い、と宇髄の声が聞こえた気がした。目の前に金色の髪が見える。生まれて初めてこんな至近距離に近づいて、思わず息を止めた。唇が触れてはならんと必死に顔を背けて、近すぎる距離にどこを見たら良いのか分からなくてパネルの汚れを探した。全開にしたシャツの中に煉獄の腕が触れて、なんで自分は前ボタンを閉めなかったのかと死ぬほど後悔した。汗で濡れた汚い肌に腕が付いて、煉獄が不快に思わないはずがないのに。
    「す、すまない」
    「っ!!」
     小声で謝罪する煉獄に、詫びる理由は皆無だ。むしろ謝るなら不死川の方で、でもうまい言葉が何も出てこなくてバカみたいにハクハクと口を動かしただけだった。
     電車がスピードを落とす。もうすぐ扉が開く。この奇跡みたいな至近距離が終わる。
    「……汗臭いから、止めてくれっ」
     スンと匂いを嗅いだのがバレた。鼻で呼吸しているだけを装ったのに、煉獄の匂いを嗅いだことがバレた。
     実際に汗の匂いがしたけれど、それは自分の汗の匂いでもあって、違いはよく分からなかった。シャンプーの香りだとか制汗剤の香りだとか、CMで見るような爽やかさなんてなかった。
     ただ煉獄の耳まで赤くなっているのが一つ結びにしていることで良く分かった。
    「ちがっ…、悪ィ、違う、そんなんじゃ……」
     電車が止まる。人々は窮屈な車内からいち早く抜け出したいと背後からグイグイ圧をかける。目の前の煉獄は肩を縮こませて、チラリと不死川を見た。金色と橙のまん丸な目玉に、汗っかきの見苦しい男が映る。
    「!!!!」
     ドアが開いた瞬間、パネルに寄りかかっていた煉獄より先に不死川が弾き出された。人の流れは二人を簡単に切り離して、不死川は流れに飲まれるように姿が見えなくなった。
    「あっ」
     煉獄と宇髄も流れに逆らわずに降車する。人混みの緩やかになった案内板の前で伊黒と冨岡が降りてくるのを待った。不死川はどこまで流されていったのか、もしかしたら改札で待っているのかもしれない。
    「待たせたな」
     伊黒が冨岡を連れて合流した。終着駅であり始発駅でもあるためホームにいた人々が続々と電車に乗り込んでいく。不死川と合流しようと歩き出したとき、伊黒が煉獄の袖をクイと引いた。
    「杏寿郎、汚れが付いている」
    「え? 本当だ。…血か?」
     煉獄の肩のところに血痕らしき赤い染みが一つ。小さな染みはまだ付着したばかりに見える。煉獄には外傷や鼻血の痕跡もなく、そんなところに血が付くなんて心当たりは一人しかいない。
    「不死川か。のぼせたかな」
     電車内はクーラーが効いていても暑かった。空気も淀んでいてホームに着いてからの外気が気持ち良く感じたほどだ。
    「(車内の熱気に)のぼせたのかもしれないな」と冨岡が言う。
    「(熱気と煉獄との距離に)のぼせたんだろうな」と伊黒が言う。
    「(絶対煉獄にムラムラして)のぼせてんだろうなぁ」と宇髄が言う。
     思うところはそれぞれ違うものの、不死川が血を流しているだろうことは確かで、きっと今頃トイレで顔でも洗っているだろう。あの頃と違って悪しきものを引き寄せるでもないただの血だ。
     友人が電車で混み合って密着しただけで鼻血なんて出さないと、意地っ張りな男が気付けば良い。
    「抹茶アイストッピングしてやるかねぇ」と宇髄が言って、「なら俺はきなこと黒蜜を追加してやろう」と伊黒が言う。「じゃあ俺は白玉を」と冨岡が言うから、煉獄は意味が分からず「じゃあ俺は練乳にしようかな」と笑う。
     発破をかけられたのか同情されたのか、詳細を何も言われないまま、ただトッピングだけ山盛りになったかき氷を出されて、鼻にティッシュで栓をした男は困惑するばかりだった。
     
     
     
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