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    ゆりた

    rps小説の方

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    ゆりた

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    rps/🐸🦢🐹🐢/ウンジが記憶を失う話

    ユジョンの決意.



    目が覚めてまだ暗い室内に体感で夜中だと分かった。横にはウンジがいて同じ布団の中で寝息を立てている、いつ帰ってきたんだろう。ユナを迎えに行くというから仕方なく外出させた、一緒に行きたかったけどやめたウンジの前で気まずくなりたくなかった。

    「帰ってこないかと思った」

    起こさないように小さな声で吐き出す。ギブスが外れた右腕を上側にして、左手が私のパジャマをきゅっと握っている。子供のように丸まって眠る姿に愛おしさが込み上げてくる、はやくこの腕に抱かれて眠りたい。ウンジの体温を感じたくて足同士を触れ合わせる、温もりが随分と離れがたいものになってしまった。胸元に顔を寄せるとアルコールが微かに薫る。

    ウンジが飲めないから私も禁酒していたのに、ふたりで快気祝いで飲もうと決めていたのに、小さな約束を破られたことがこの上なく悲しかった。



    カートを押す私を追いかけてウンジが商品を入れてきた。ショッピングモールに併設されたスーパーは平日の日中ということもあって閑散としている。華やかな色味のパッケージが目にうるさい、甘党なのは分かるけど二箱は多い気がして咎めた。

    「チョコはどっちかひとつ」

    「オンニも好きなナッツ入りなのに」

    頬を膨らませて唇を尖らせて可愛い素振りで見逃してもらおうなんて甘い考えが透けている。それでもしょうがないと頷くと、自由が利く方の手で腕に絡みついてきた。

    「オンニ大好き」

    はいはいと調子のいいウンジを適当にあしらう、大好きなんて言葉を容易く口にする。単純に喜ぶほど私もお手軽ではないし、新鮮じゃなくなった。それでも心地よくて、全てをみせれる相手なんてウンジ以外にはいなくて。この気持ちが愛なのか執着なのか私ですら明確に分かっていない。相手の幸せを願えるのが愛だというならこれ以上ないほど願っている、だけど自由を奪ってしまいたいとも。

    「飲むの?」

    酒類の棚へ近寄り新発売と広告されている缶を手に取ってカゴへと入れる。それと同時のウンジの問いかけ、もう飲まないでいる必要がなくなってしまった。ふたりで開けたかったワインは家にあるけど、今日はそんな気分じゃない。

    「飲むよ、もう大分よくなったでしょ」

    右腕の三角巾は今日はもうしてないけど、まだリハビリも始まったばかりで思うように動かせないらしい。薬は大分前から飲まなくなったし、飲んでも支障が無いはずだ。不自由が少なくなっていくこと、この生活の終わりが近いことを意味していた。

    「久しぶりだねオンニと飲むの」

    ユナとは飲んだのに?喉まで出かかった言葉を飲み込む。問い詰めて何になるというの、ウンジが嬉しそうに笑っているのが私の幸せじゃないの?気配を察して顔を覗き込まれる、いまどんな表情でいるのか自分のことなのに分からない。嫉妬と猜疑心を敏感なウンジに悟られたくなくて視線を逸らした。

    「オンニ?」

    ウンジのぎこちない右手が私の手に触れた。手のひらが合わさり指がゆっくりと硬さを纏ったまま繋がる。どうして触れてほしいときが分かるのだろう、この手を振りほどけない。手を繋ぐ、ただそれだけでウンジを好きな気持ちで満たされた。



    会計を済ませて購入品を詰めたエコバッグをウンジが持つ、歩き出すと自然とまた手を繋いだ。きゅっと握り返すと照れたような笑い声が聞こえてきて、見上げた。

    「オンニの手小さいね変わらない」

    「二年で大きくなるわけないでしょ」

    「そっか、そうだよね」

    変わっちゃったことばっかりだからとウンジが呟く。そばにいる私にも違和感を感じさせないくらい順応してると思っていた。たくさんのことを飲み込んで我慢しているのかもしれない、優しさはウンジの美徳だけど内側に溜め込んだものが計り知れない。

    「ありがとう」

    「ん?」

    「ユジョンオンニがいてくれるだけで安心する」

    ウンジが笑っているのに泣きそうな表情にみえた。

    「このままでもいいんだって思わせてくれて」

    ありがとうと言う声が掠れて最後は聞こえないほど小さかった。自分の気持ちにばかり囚われてウンジに寄り添えてなかったと悔やむ。そばにいることで息がしやすいなら、存在を肯定してあげれるなら、私はウンジのそばに居続けようと思った。

    「ユナも誘おうか、今夜」

    「いいの?聞いてみる」

    声色が明るくなり嬉しそうに笑う、そんなに喜ばれるとちょっと妬くけど。尻尾がもしあったら、ちぎれるほど振ってそうで少し意地悪したくなった。

    「ちょっと寄ってもいい?」

    ショッピングモールは広くてまだ駐車場へ繋がるエレベーターへは辿り着けていない。道すがらにあったペット用品の店へと寄る。お互いに犬を飼っているから自然と犬用品をみていた。

    「ウンジこっち」

    素直に手を引いたまま着いてくるウンジの首元に、大型犬用の首輪をあててみる。赤より黒のがいいかな、肌が白いから濃い色が似合う。好きな紫、ピンクも捨てがたい。

    「オン、ニ?」

    「金具がちょっとゴツいから痛いかもね」

    戸惑うウンジの顔にゾクゾクする。冗談だよと笑ってみせたら安心されて、つまらない。許されるなら首輪をつけてリードを持って、私が飼うのに。そんな夢ぐらいみてもバチは当たらないはず。



    事前精算機で駐車券を精算する、反応が悪くて少し手間取った。車の鍵をウンジに渡して先に荷物を積んでもらった、助手席で通話する姿がみえる。相手はユナだろうと思って何の気なしに乗り込んだ。

    「オンニが帰ってきたから、またねスヨナ」

    通話相手がユナじゃなくて、あの子だと分かって心臓が早鐘を打つ。イヴだけにはウンジを渡したくない、独占欲が吹き出しそう。エンジンをかけてアクセルを踏んだ。

    「あれ?帰り道こっちだっけ?」

    しばらく走ると隣のウンジからあがる疑問。帰り道を外れてることはすぐにバレてしまった。このまま遠くへふたりで行ってしまいたい気分。

    「少し話がしたくて」

    帰ったらユナがいつ来るか分からないし、生ものは買ってないから少し遅くなっても平気なはず。

    「どうしたの?」

    オンニ?とウンジがこちらを向いて窺ってくれているのが分かった。ハンドルを握って前を向いたまま告げた。

    「家を探そうよ、ふたりで暮らしたい」

    逆走後に私たちに与えられた宿舎の退去期限が夏前には迫っている。この先もウンジと一緒にいたい、譲れない私の気持ちだとはっきり分かった。


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