縁日に行くくろそら溶けかけのあんず飴がこちらを見つめている。
清澄は思考の隅に浮かんだその考えを打ち消す様に瞼を閉じる。
「じゃんけんに勝ったから2つもらったんだー」
そう言って差し出されたあんず飴はつやつやと夜店の灯を反射して光っていた。
縁日は、好きだ。人々の笑顔やお囃子の音色、花火の彩り。
とりわけ清澄は太鼓の響きが大好きで、幼い頃、まだ親しかった祖父の手を握って屋台を見て回った。
祖父は相変わらず厳しい人だったため、食べ歩きなどを清澄家の男児がするものではないと厳しく言いつけられていた。
神社の階段などに座りこむことはおろか、普段ならば決して許されないであろう、ソースせんべいや綿あめ、チョコバナナなどを食べた。
お茶会で出される高級な和菓子に比べれば、大雑な味だが、幼い清澄にとっては1年に1度お目にかかれるご馳走だった。
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