Please give me sweet candy「――げっ」
思わず声を発した。だけど、貼り付けた絵みが崩れなかったのは、自分でもさすがだと思う。
「……どうかしました?」
目の前の着飾った女性が、首を傾げて見上げてくる。それに新一は「いえ、失礼しました」と眼鏡の奥でさらりと笑顔を上乗せした。
撫で付けた髪と着慣れないぐらい仕立ての良いスーツは、それを引き立てるのに一役買ってくれたようだ。女性がぽっと頬を赤らめる。
――内心では、冷や汗がたらりと背中を伝ったけれど。
あっぶね……。何でよりによってこんな場所で、あの人に会うんだよ……!
ホテルのバンケットルーム。シャンデリアが煌びやかなそこでは、着飾った、というより気合の入った格好の男女がそこかしこで談笑している。その目はまるで、獲物を狙うそれに近いと新一は思う。
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