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    yun357

    @yun357のワンクッション置き場。

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    yun357

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    シガーキスをするキスブラのはなし。

    ※ブラッドの喫煙描写がありますので苦手な方はご遠慮下さい。

    synonyms of kissなぁ、こんなとこお前のファンが見てみろよ。
    卒倒しちまうぞ。
    眩暈がするような高揚感に、少しの緊張感と好奇心を混ぜた心臓の音を誤魔化そうと、すぐ鼻先にあるすました顔を見つめながら、そんな事を心の中で呟いた。




    「はぁ〜〜〜…やっ…と自由だ〜〜…」
    縮こまっていた長めの両腕を限界まで広げ、固まりきった背筋をいつもよりも多少上に伸ばす。
    溜めに溜めていた報告書やらレポートやらの文字通り山と積まれた書類仕事をやっとの思いで終わらせて、開放感たっぷりの俺は、先ずは一服しようと喫煙所に足を向けた。

    「…お。」

    喫煙所には先客がいるようだった。仕事を終えて、折角の一本目の休息は出来れば一人きりで満喫したかったが。まぁ、いいかと思いながら近づいた俺は、その先客の正体を二度見する。

    「は……ブラッド…?」

    思わず足を止めてしまう。ガラス張りの箱の中、ブラッドの立ち姿はあまりにも其処にそぐわない。しなやかで長い指が煙草を口元に運び、形の綺麗な薄い唇が、紫煙をゆるやかに吐き出すさまに、つい目を奪われてしまう。まるで、生きたまま標本箱に閉じ込められたみたいだな。そんな馬鹿げた事が、頭を過ぎる。
    昔から、仕事のストレスを限界まで溜めたブラッドは偶にこうして一人で吸ってる事がある。初めて遭遇した時は、そりゃひっくり返るかと思ったけど。その時ブラッドはバツが悪そうに「…俺にだって、呑み込みきれない不満はある。」とめずらしくオレに溢した。その時は、なんだか特別な秘密を手に入れたような気持ちでいい気分だったな。
    そんな事を思い出しながら、喫煙所の中を見つめて数秒、ブラッドが顔を上げてオレを見留めた。
    僅かに唇が「キース」とオレの名前を形取る。
    少しだけ右手をあげて、それに返しながら喫煙所の扉を開ける。

    「なんだよ、珍しいな。」

    会議で上から相当虐められたか?と揶揄うと、元々不機嫌そうな眉間の皺がさらに深くなる。

    「……ま、大変だよな。メンターリーダー様ってのは。」

    両手をあげて降参のポーズを示し、こっちに小言が飛び火しませんように、と祈りながら自分の煙草を取り出した。

    「……あれ。」

    ない。
    シャツのポケットを探っても、ズボンのポケットを探ってもライターがない。

    「どうした?」

    パタパタとあちこちのポケットを叩くオレを見て、ブラッドが怪訝そうに尋ねてくる。

    「あー……いや…」

    失くしたか?いやまさか。思い出せ、オレ。記憶の迷路を辿って、自分の行動を反芻していく。確か………

    「……あ!」

    曖昧な記憶のスライドの中、愛用のライターは自室のデスクの上に鎮座していた。そういや書類仕事にかかる前にフリント交換したな。間抜けにもそのまま置き忘れて来たわけだ。紛失したわけじゃないことが分かった安心感半分、今すぐ吸いたい焦れが半分。いや、ここまで来て取りに戻りたくねぇな。

    「あー…な、火貸してくんねーか?」
    「…無い。」
    「は?」

    いや、今現にタバコに火が付いてんだろ。

    「…俺も、ライターを持ってくるのを失念して、先に居た職員から借りた。」
    「……はー……マジかよ…」

    思わず脱力して天を仰いでしまう。いや、悪いのはオレなんだけど。戻って取ってくるか…あとは…
    ちら、と側に灯る火を見遣る。いや、いやいやいや。いくら面倒だからって、タバコが不味くなるだろ。色んな意味で。

    「……あー…ブラッド?」
    「…今度は、なんだ。」

    五月蝿いぞ、とばかりにこっちを向く不機嫌暴君の視線に取り出したタバコを示し、悪ぃけど。と目で伝えると、ブラッドは呆れたとばかりにため息を吐いて、咥え直したタバコをオレの方へ向けた。
    その仕草があんまりにエロ…いや、お綺麗だったもんで、若干惚けたように見入ってると「早くしろ。」とすかさず催促が飛んでくる。

    「……悪ぃな。」

    一歩。ブラッドの方へ歩み寄り、咥えたタバコを近付ける。お互いの髪が混ざり合う距離。伏せた睫毛は長く整っていて。その肌はこんな近さで見ても、「陶器みたいな」なんて言葉がしっくりくる。思わず喉を鳴らしてしまいそうになるのをオレは必死で堪えた。
    ほんの、十数秒。
    火種に触れた先端が、ジジ……と音を立て、火が点った事を確認して、ブラッドの顔は離れて行った。

    「…サンキュ」

    辛うじて搾り出したオレの言葉には応えずに、ブラッドは火を消して、持っていたタバコの箱をずい、と寄越してきた。

    「は?」
    「残りはやる。」

    そう言うや否や、ブラッドは踵を返すと早足で喫煙所を出て行った。残されたのはオレと、手の中の吸わない銘柄のタバコ。

    「……メンソールなんか吸わねぇよ…。」

    自分の吸ってるタバコの味すら、今もう色々めちゃくちゃで全然わかんねぇけど。ため息を煙と一緒に吐き出して、何となく渡された箱の蓋を開けた。

    「………は?」

    数本だけ、アイツが吸ったんだろう。抜かれて空いた場所には、安っぽいコンビニライターが窮屈そうに収まっていた。
    なんで?

    なんで。

    「っ…おい!ブラッド!!」

    気がついたら、タバコを咥えたままでガラスの箱を飛び出していた。振り返らない暴君の腕を掴んで。まず飛び出してくるだろう小言を喰らうまで
    あとほんの、十数秒。

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