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    yun357

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    yun357

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    キスブラ。
    お題「ハロウィン」お借りしました。
    死神と執事パロ
    ※死体、自殺などホラー表現がありますのでご注意ください。

    my dear DOLL.街のはずれの丘のうえ
    かいぶつ一家がすんでいる
    死にたいやつらはだいかんげい
    首つりおばけが手まねきしてる
    まっかなシチューでおもてなし
    まっくろ執事がおもてなし

    月の明るい夜、青白い光がすでに眠りについた街を静かに見守っている。その中にひとつだけ、真っ黒な影が浮いていた。この世の光を全て吸い込んでしまったような、純粋な黒。その奥から、静かに燃えているような緑色が覗く。そしてそれは、眼下に立つ不気味な屋敷に向けられていた。
    この街の外れにはお化け屋敷と呼ばれる屋敷があった。その漆黒のイバラに覆われた屋敷には、奇妙な一家が住んでいる。けれどその家族を見たものはいないし、一家がいつからそこに住んでいるのか誰も知らない。街の人間は忌み嫌い、誰も寄りつかないからだ。…今日にも明日にも死にたいと、永遠の寝床を探す「死にたがり」以外は。
    その屋敷を、黒い影はじっ……と見つめているようだった。

    屋敷の庭にある墓地では、執事が穴を掘っている。身なりの整った執事然としたその男は毎日毎日、穴を掘る。自動人形のような規則的な動きで、ピッタリ同じ感覚で、ピッタリ同じ大きさの穴を。毎日、毎日。

    「よぉ。…今日もせいがでるよなぁ。」

    低く、どこか甘い声が空気を震わせた。それと同時に、月明かりに照らされていた執事の身に、漆黒の影が落ちる。不意に頭の上から聞こえた声に執事は答えることなく、動きも乱さず、変わらず穴を掘っている。
    「おいおい…無視かよ…おーい。おい。」
    答えない執事に気を焦らしたその影がばさり、とフードをあげ、隻眼の男の顔が露になった。呆れたように執事を見る目はうっすらと美しい緑色の光を湛えていた。
    「…聞こえている。…死神と言うのは暇なのか?」
    動きを止めることなく執事が応えると、隻眼の黒づくめは大袈裟にため息をついて首を振る。
    「聞こえてるなら無視すんなよ…どうだ?集まってるか?」
    「…こうも毎日庭の木で人間が首を吊っていればな。」
    「あー…まぁ、そうだな。」
    死神と呼ばれた男はちら、とその庭の中央に佇む木に視線を向けた。まるで枯れているような葉の一枚もついていない大木だが、枝はまるで何かに手を伸ばすように長く伸びている。その一等太い枝には、風に吹かれてゆらゆらと先に結んだ輪を揺らすロープがぶら下がっていた。
    死神の言葉に答えながら執事は穴の一つに土をかけていく。はみ出ていた腕が見えなくなるまで土を被せ、墓碑の代わりに杭を刺す。「1日目」と書かれている。
    「…嫌な墓碑だな。そっちの杭は?」
    「埋めてから4日目だ。そろそろこっちの方が食べごろになる」
    と執事は「7日目」と書かれた杭の下をスコップで掘って行く。土の下からずるり、と引き摺り出されたのは人の脚だ。脚はテラテラと光っていて、腐った肉特有の甘い匂いを放っている。
    「ウェ。」
    と顔を顰める死神に視線を向けることもなく、臭いを嗅いで「ちょうど良さそうだ。」と満足そうに頷く。
    「…相変わらず悪食だな。」
    「今夜は赤ワイン煮込みを作る。…坊ちゃんの好物だ」
    「……そりゃ旨そうだ。」
    うんざりした顔で肩をすくめたあと、死神は「それより」と執事の顎を持ち上げ「貰いに来たぜ。」と唇の触れそうな距離で甘く囁いた。ただし執事は顔色を変えることもなく「こっちだ。」と墓地の隅にある地下室の入り口へと足を向ける。
    「……無視することねぇだろ。ったく…」
    「貴様が要望したんだろう。早くしろ。」
    そう言いながら、執事が重い扉を開けると真っ暗な地下室への階段がぽっかりと口を開けた。

    「…相変わらず、陰気臭い場所だよな。」
    「文句を言うな。貴様にその権利は無い。」
    2人が地下室に降りると狭い部屋に辿り着く。壁一面には夥しい数のガラスの瓶がみっしりと並べられていて、どの瓶の中にも青白い光が弱々しく揺れている。
    「おお…今回はマジで多いな。」
    瓶の数を数えながら、死神の声が少し嬉しそうに上擦った。
    「…貴様の仕事を肩代わりする謂れは全くないんだが。」
    「まぁまぁ…オレは助かってるし、楽できる。街で噂になってるぜ、死にたい奴はあの家に行け。怪物一家が殺してくれるぞ。ってな」
    「……勝手に死にに来るだけだ。」
    「まぁ、死体の処理はしてくれるもんなぁ?」
    「…さっさとしろ。」
    「へいへい…」
    ダルそうに返事をした死神が腰に下げた宝珠を手に掲げてなにやらつぶやくと、青白い光はみるみるうちに吸い込まれて行き、壁には空っぽの瓶だけが残った。
    「んー大量だな、こりゃしばらく楽できるなサンキュー……執事サン。」
    死神が満足そうに魂の光を収めた宝珠にキスをするのを執事は目で追っていた。
    「……俺の魂も、その中に収められたうちの一つなのか。」
    いつもは何にも興味を示した様子のない執事が重々しく口を開いた。死神は横目でそれを見た後「…さぁな。」と小さく声を漏らして、執事に手招きをした。
    執事の手袋から除く手首の隙間からは、縫い合わせた後のような傷が顔を覗かせている。その傷は黒く変色し、甘ったるい香りが鼻を刺激した。
    「…こまめに補修しないとな。」
    執事のその手を取って死神が恭しく口付けると、その肌は美しい白に戻り、見えていた傷口もピタリと塞がっていく。執事はそれを感情の見えない宝石のような目でじっと見つめていた。
    「…死神……いや、お前の、名前を聞きたい。」
    「…なんで?」
    「わからない。…ただ、そんな気がしただけだ」
    「…キース。」
    キースだと名乗った死神の顔を、執事は初めてちゃんとその目に映した。魂を攫う死神は、なんだか泣きそうな顔をしている様に見えた。
    「…そんじゃ、またくるよ。」
    「まて。…キース、腐肉料理なら、何が好みだ。次に来るときには…用意しておこう。」
    「あー…いや、腐肉料理は遠慮しとくわ。」


    街のはずれの丘のうえ
    かいぶつ一家がすんでいる
    死にたいやつらはだいかんげい
    首つりおばけが手まねきしてる
    まっかなシチューでおもてなし
    まっくろ執事がおもてなし

    お客さんがやって来た。
    ロープをかけてさようなら。
    腐肉は一家のおなかのなかに。
    魂は死神さんがさらってゆくよ。

    「……また、会いにくるよ。…ブラッド。」

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