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    yun357

    @yun357のワンクッション置き場。

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    yun357

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    キスブラ。
    オスカー不在の南。

    あたたかな食卓。書類仕事の手を止めて、椅子のリクライニングに体重を任せるようにして身体を伸ばす。半分電気の消えた部屋を見渡せば、ひとりなのだ、と自覚する。
    何かと騒がしく音のしていた此の場所が、オスカーがいなくなってからは静まり返っていた。アレキサンダーも脱走することもなく、巣に引きこもってじっと寝ているばかりでウィルが心配してよく様子を見に来ている。

    「……オスカーの事が、心配か?」

    アレキサンダーの檻の方へと声をかけるが、鳴き声のひとつさえ返ってこない。椅子を立って、巣の中を覗くとわずかに上下する小さな背中の針が見えた。
    …よかった。生きている。
    安堵に胸を撫で下ろしてまた自分のデスクへと戻ろうとすると、コンコンと扉がノックされた。

    「あー……ブラッド、居るか?」
    「…キースか。」

    声の主の名前を口にすると、邪魔するぜ。と扉が開いた。

    「静まり返ってるから、居ねぇかと思った。」

    そう言ってキースは部屋を見渡した後、小さくため息を吐いた。

    「…大丈夫か。」
    「ウィルは、比較的落ち着いている。…アキラはかなり動揺して…」
    「お前の事だよ。」

    その言葉に思わずキースの顔を見る。その眉間にはギュッと皺が寄って、いかにも不満そうに俺を睨んでいた。

    「……問題ない。」
    「そうは見えねぇけどな……。」
    「俺は、大丈夫だ。」

    遮るようにそう言うと、キースは呆れたように肩をすくめた。

    「大丈夫ならよかったよ。オスカーのやつが居なくなってさびし〜って泣いてるかと思ってよ。」

    戯けたように言った後、黙ったままの俺の方へ身体を向けたキースは先ほどまでの表情を剥がしたように一変させて、再び口を開いた。

    「お前、知ってたのか。」
    「………。」
    「…ま、『言えねえ』か。ったく…」
    「……フェイスは…」

    そう遠慮がちに訊くと、キースは視線だけこっちに遣ったまま苦笑いを作った。

    「まぁ、側からみりゃ何とか落ち着いてるよ。…ただ…ホントのとこは…どうだろうな。アイツ、変なとこお前に似てるだろ。」
    「…お前は何しにきた。」
    「…おい言い方…あー、ウィルがアレキサンダーが飯食わねぇって心配して相談に来たんだよ。」

    で、コレ。と右手に持っていた小さな器を示し、アレキサンダーのケージの前にしゃがみ込んだ。ケージを開けて「ほら」と器を巣のそばに置いて「おーい、飯だぞ〜」と柔らかな声で呼びかけた。

    「…そうか、すまない。」
    「いや?お前が謝ることないだろ。フードをスープみたいにして食べやすくしただけだけどな。あったかけりゃ匂いもするだろうし。」

    キースがそう言うと、その言葉通りスープの匂いに惹かれたのかアレキサンダーがヒョコ、と巣から顔を出して鼻をヒクヒクさせている。

    「腹いっぱいになったら、ちょっとは元気も出るだろ。」

    小さなピペットで少しだけスープを吸って、アレキサンダーの鼻先へと近づけると、アレキサンダーはクンクンと匂いを嗅いで、勢いよくピペットに吸い付いた。

    「おわっ?!お、おい落ち着けよ…ほら、逃げねぇから。」

    穏やかに声をかけるキースに少し心を許したのか、ピペットのスープを飲み干したアレキサンダーは、置いてあるスープ皿の方へ向き、頭を突っ込むようにして食べ始めた。

    「……よく、知っていたな。」
    「いんや?…ただ、人間のガキだってそうだろ。あったかくて、うまそうなもんなら大体食べる。」

    大丈夫そうだな。と立ち上がって笑うキースの横顔を見ながら、俺はこの男のこう言うところがたまらなく好きだ。とそう思った。

    「……キース。」
    「んー?」
    「ありがとう。」

    歩み寄って、その肩に顔を寄せる。キースは少し驚いたように目を見開いて、また愛おしそうに細めた。

    「…礼はまだ早いけどな。」

    ブラッドの額に軽くキスを落とすと、少し急かすようにブラッドの肩を二度、トントンと叩き部屋の外へと促す。

    「今度はお前の番だ。…うまいメシと、ルーキーどもが待ちくたびれてるぞ。」

    扉の向こうからは、ルーキー達が騒がしく俺を呼ぶ声。アレキサンダーは食後の運動とばかりに回し車をカラカラと回し始めた。
    いつの間にか、俺の部屋から静寂が消えていた。
    代わりに部屋いっぱいに広がっていくあたたかな食卓の匂いに、溢れそうになった涙を俺は慌ててごまかした。

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