だってまるで夫婦みたいじゃないか「真田って、俺のことを名前で呼ばないよね」
「なんだ、藪から棒に」
真田は、祖父に借りた本に目を落としながら、幸村の唐突な話に耳を傾けた。
「俺は真田のこと、ゲンイチローくんって呼んでいたことがあるのに、お前は俺のことを名前で呼ばないなと思って」
そう言うと、幸村は身を乗り出して真田に迫る。そして真田の読んでいた本を取り上げ、「ねえ。俺のこと、名前で呼んでみてよ」と言った。
「たわけたことを……」
返せ、と本を幸村から奪い返そうとすると、あれよあれよという間に幸村に押し倒される形になる。
「……幸村」
目で退くように訴えるが、好奇心でキラキラとした目をした幸村を前に、抵抗は無駄なことだと悟る。
「……」
「ただ『精市』って、呼んでくれたらいいんだ。真田」
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