Episodeセラフィオス×ネフラ
産まれた時には、ここにいた。
花たちはみんな、僕を大切にしてくれた。
でも、それでも、
「ぼくは、ひとりぼっちなの?」
_____人の国:熱帯雨林_______
ヒスイカズラ。このターコイズブルーの美しい花を咲かせる樹が僕の宿り主。
ドリュアスは、空気の綺麗で、汚れのない森にある樹にやどり性を成すのだと、花たちは教えてくれた。
だから、僕がここにいることは、花たちにとってはとても誇らしい事なのだと。
でも、他のドリュアス達は、ここにはいない。
この国は、『人間』が支配しているらしい。
『人間』は、木々をなぎ倒し、自分たちの住みやすい土地を作るのだそう。
そのせいで、水も、土も、空気も、何もかもが汚れてしまって、この国には綺麗な土地が少なくなってしまったんだとか。
土は命、水は記憶、根は心臓、風は言葉。
自然界はそうやって、植物も動物も、情報を共有していく。
「妖精の国には、貴方のようなドリュアスも沢山いるそうよ」
そう教えてくれた宿り木は、とても楽しそうだった。
でも、土に根を張る植物は、そこから動く術を持たない。
そんな樹に宿る僕も、動くことはできない。
この樹が枯れてしまえば、僕も一緒に枯れてしまう。
『人間』が、いつくるかもわからない。
今年の冬を越せるかもわからない。
自然は、当の本人たちにすら、何が起こるかわからない。
それでも止まらない。
ここ以外にどんな場所があるのか。
『人間』とは何か。
コウモリたちの話す街や、川や、海というのは?
僕たち以外のドリュアスはどんな見た目をしているの?
木々は一緒に歌ってくれるわけでも、踊ってくれるわけでもない。
動物たちだって、ずっとここにいる訳じゃない。何をするにも、僕はひとりだ。
温かな雨は、心まで温めてくれるわけじゃない。
その心も、よくわからない。
僕は、このまま1人なのかな。
*******
雨も止んだお昼時、木の根元で今日も歌う。
すると草が掻き分けられる音が聞こえた。
動物たちかな。
ふとそちらを見ると、見た事がない、生き物だった。
ぼくと、似てるけど、似てない、なんだろう。
「君は、人間かい?」
そう声をかけられ、ハッとする。
そうか、この人は『人間』なのか。
でも、木々が言うような、怖い人ではなさそう。
「僕は、えっと……ドリュアス、精霊です……一応」
「ドリュアス!ドリュアスとは花人という事か。…?固有の名はあるのかい?君の…君だけの名前だ」
「名前?…名前は、ないかな。産まれてからずっと…ここでひとりぼっち、だから。」
「…そうなのか。だが名前がないと不便だな、ドリュアスと呼ぶのも味気ないし……うーん、ヒスイ…ジェード…ネフライト…。……ネフラ、はどうだろう。とても綺麗な、君の雰囲気にピッタリな名だと思う。ネフラと呼んでも構わないかい?」
ネフラ。
そう言われた途端に、身体中が熱くなる。
何が何だかわからなかった。
けれど、嫌ではない。
むしろ、そう呼ばれる事を、望んでいた。
「………ネフ、ラ……素敵、だね」
何だか胸の奥が暖かい。
いつもの曇ってる空のような気持ちがない。
もっと聞かせて。
もっと呼んで。
僕の名前を。
そして教えて。
「______あなた…の名前は?______」