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    965_jima

    四半世紀腐のオタクやってる。今はサトキョ。
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    965_jima

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    1944、互いの気持ちを察しながら未だ付き合えてないふたりの、たぶんそのうち聡狂になる話です。例の泣き顔のモナリザを捏ねたかった話。
    ※聡実くんの友達♀の名前を便宜上「マナ」にしています
    ※非ネイティブ関西弁

    首洗って待っとけ意気地なしダヴィンチ どうしてファミレスの壁に名画のレプリカがあるのか、といういまさらな疑問を、最近になって周囲にいるいろいろな人にぶつけている。流石に偉い人に聞けたことはないけれど、尋ねた何人かのバイト仲間たちは誰一人その明確な理由を知らなかった。曰く、イタリアっぽいから。曰く、高級感を醸し出すため。なるほどどれも有り得そうやなと思いながら、けれど「親に連れてこられる年齢の頃から芸術に触れるため」と言った先輩には「でもこの間ちっちゃい男の子のお母さんがその子の口塞いでましたよ、そんなことお外で大声で言うもんじゃありませんって」ってやんわり教えておいた。体感、一週間にひとりはその手の子供がやってきて、親から怒られたり口ふさがれたり一緒に笑ったりしている。そやねん、子供って芸術とかどうでもいいし見えたもんを見えた通り素直に言うし、しょうもない下ネタで笑うよな、と思ったけれど、自分にはそういったことで笑っていた記憶はない。
    『最近どう』とかいうありふれた会話の導入にそんな雑談を返すと、狂児は『まぁ、そもそも聡実くんあんまりわかりやすく笑わへんからな』とかすかに口の端を上げた。
    「それ自分でも自覚あるんであんまいじらんでください」
     文机の壁に立てかけたスマホの小さな画面を見つめる目を眇め、テイクアウトのピザをかじる。バイト先で何百回と運んできたものが自宅に、しかも自分の目の前にあるのはなんとなく落ち着かない。けれどなるべく急いで帰りたくて、さらに食事も調達しなければならないとなると選択肢はこれしかなかったので仕方がない。今度レンチンのなんか買うとこ、レトルトでもいいかなとか思いながらカットされたラインの上にあったキノコのはしきれをつまんで口に放り込み、でかいペットボトルのお茶を直接飲む。『行儀悪いなあちゃんとコップに注ぎ、あとついでにフォークも出し』という声は無視した。誰と話すためにはよ帰ってきてはよ通話開いとると思てんのこのひと。この真夏に汗流す暇もなかってんぞ。
     小さな画面の中で、『相変わらずやなあ』と狂児がくつくつ笑う。何がおもろいねん。その声が、耳に突っ込んだイヤホンから直接頭に響くように聴こえる。友人から連名で受け取った誕生日プレゼントが、こんなところで役立っている。まさか全部見越した上でくれてる訳と違うよな。丸山はともかく、マナはわからん。なんでもお見通しみたいなところあるの、女友達によくある話なのかそれとも彼女が特別慧眼なのか。女の子、わからん。
    「昔よりはわろてるはずや。一年以上バイトで接客しとんねんで僕」
    『そんなんつくりものやん。俺かて相手ビビらせんようにするときは腹ん中どうであろうとピッカピカの笑顔やでホレ』
    「はあ」
     十四の夏から今に至るまで何度となく見た胡散臭い笑顔を軽く流すともう一ピースピザを手に取り、具材がこぼれないように折りたたんで噛みついた。
     狂児の後ろに見える風景は、殺風景でシンプルな寝室のそれだ。幾度となく通話を交わしてきたこの数ヶ月ですっかり見慣れた、彼の自室、らしい。らしいと言うのはまだ直接訪れたことがないからで、あまりの生活感のなさに書き割りだとか合成だとか言われたほうが納得してしまうから。
    『それに俺笑わへんとは言うてないで? わかりやすない、って言うてるだけで』
    「同じちゃうん」
    『ちゃうよ全然。聡実くんわかりやすくないだけでちゃんと顔に出てるよ。逆モナリザみたいなもんや。あれもわろてるように見えて全然わろてないからな』
    「モナリザ? なんでモナリザ出てきたんですか今。てかしっかり笑顔やろあの絵」
     わけがわからん。ピザの端っこを噛み砕いて、またお茶を飲む。
    『いやなんでって聡実くんが絵ェの話したからやん。あれはな〜実はそこまでわろてへんねんで? 絵ェ見てみ? 口だけ隠したったらわろてないのハッキリわかるよ』
    「今スマホつこてるからよう見れません」
    『え、ファミレスになかった? 覚えてない?』
    「天使みたいなんしかないです。あってもそこまで詳しく見いひんわ」
    『そうかァ。まあ俺かて親父のネクタイの柄なん全部覚えてないしな。それと一緒か』
    「一緒ですか? それ」
     最後の一ピース、冷え切ったピザを口に運ぶ。野菜ソースの細かいかけらを指で拭って舐ると、狂児がちょっとだけ目を瞠った。
    「……なに?」
    『いや……聡実くんて、なんか食べてるときの仕草なかなかワイルドよな』
    「今更やろ。てかどういう視点なんそれ」
     それこそ中学生の頃から、ワシワシ炒飯をかっこむ姿を見られている仲だ。どちらかというと食欲丸出しの子供じみた食べ方ではないかと思うのだけれど。
     けれど狂児は、うっすらと笑みを浮かべて僕の自覚とは真反対のことばをこぼす。
    『ほんまお兄ちゃんなったなあ……って感慨みたいな?』
    「はい……?」
    『あと半年で二十歳やしな』
    「いや、まだ七ヶ月半くらいあります」
    『そんなん誤差やわ』
     目を細めてンフ、と笑った狂児が、手元の洒落たガラスコップを口に運ぶ。しゅわしゅわと弾ける少し濁った中身。卒業シーズンに断りきれず連れて行かれた落研の飲み会で、僕の制止などどこ吹く風で丸山が飲んでいたようなその色。その液体を、狂児は喉の奥にぐっと干した。
    「えっお酒、飲まれへんのと違うの?」
    『これはお酒と違うヨン』
     グラスを置いてニッと笑って画角の外から出してきたペットボトルには、ピンクと桃のデザインに『特濃』の文字。
    「……ええ歳の大人が洒落たコップつこて炭酸のジュース……」
    『そないな気分のときもあるで。大人でも』
    「そのサイズならコップに入れんと直接飲んだらええんと違いますか」
    『あー……聡実くんまだ想像つかんかもしれんけどな、あまーい炭酸はそんなにたくさん飲まれへんのよこの歳になると』
    「……そうですか」
     年齢の差を思い知る。というか、こうして時々強制的に思い知らされて、うっすらと距離を置かれる。お互いがお互いの気持ちをわかっていて、それでも明確に踏み込むことはお互いのためにならないのではないかと落とし所を探り合う日々。せやけど僕そない気ィ長い方と違うからな。やりどころのないもやもやを、空になったピザの紙箱にぶつけた。畳んで握って雑巾みたいにぎゅうぎゅう絞って、ほんの少しの気晴らし。
    「てか狂児さん、時間そろそろやで」
     時計を見る。勝手に立てた目標に追い立てられるように深夜シフトを鬼のように入れていた去年と違って、今は夜シフトメイン。退勤時間に合わせるように送られてきていた『仕事待ちで暇すぎるから日付変わるくらいまで狂児さんとお話せえへん?』というお誘いは、そろそろお開きの時間だ。
    『あっ ほんまやな。ありがとうな聡実くん』
     でっかい声を出した狂児の顔が、見る間にゆるゆるとほころんでいく。『聡実くんと話してると時間忘れてしまうからな』と笑った彼がその言葉に込めているはずの気持ちを、正確に受け取る。子供扱いをして揶揄うような色も、仕事柄身についたであろう胡散臭さも、この瞬間の彼は纏っていない。
     感じるのは、僕のことを愛しいと思ってくれているその気持ちただひとつだ。そのことに、胸がぐっと詰まる。鼓動がわずかに早くなる。
     狂児の真っ黒い瞳が僕を見て、じわりと目尻を下げていく。
    『……ん。やっぱりちゃあんと顔に出てるでェ聡実くぅん? やっぱ逆モナリザやな』
    「うるさいですよ」
     口ではそう言ってみるけれど、きっとなんのごまかしにもなっていない。昼間の猛暑の名残たる熱気のせいだけじゃない、顔が熱い。頭の中に直接声が響くようになっているのが余計いけない。なんで通話するのに僕イヤホンなんてしてんねやろ。わかってるで壁が薄いからや。でもって狂児が突然デカい声出したりするからや。
    『まええわ。またな。元気でな。よう食ってちゃんと寝てな』
    「……」
     書き割りみたいに現実感のない寝室を背景にして、小さな画面の向こう側で僕に笑いかける狂児の顔が、あの頃僕が泣くたびに見せていた笑い顔とそっくり同じに見えるのがよくない。今よりもさらに笑顔に乏しかった十四歳の僕の感情が涙になって弾ける瞬間、彼はいつも笑った。それを僕は、鮮明に覚えている。涙の裏側にあった、あの頃の僕自身がまだ気づいていなかった気持ちを正確に読み取って、だからきっと彼は笑っていたのだ。
     笑っているようで笑っていないモナリザと、涙の裏に思慕を、そして真顔と雑言の裏に愛を隠した僕は、たしかに似たようでいて対極なのだろう。
     なあ狂児さん。あなたがあの頃も今も、きっと同じ気持ちで同じように笑ってくれてるやなんで、僕の思い違いなんやろか、そんなこと思いたくないねんけど。いつまでもはぐらかされたままじゃ、不安がどんどん膨らんでいくばかりやってわかってる?
     あの晩秋の日に口をついて転がり出てきた、確認ということば。今も僕は手探りで、何度も何度も僕とあなたの距離を、そこに通う感情を、確認し続けている。
    「狂児さん。待って」
     通話を切ろうと手を伸ばした狂児を呼び止める。またあの笑顔が僕を見る。
     何年ものらりくらりとはぐらかしたまま核心には絶対に触れてくれない、ずるくて意気地なしの大人。狂児が僕をモナリザに準えるなら、そっちはさしずめダヴィンチや。ああでもないこうでもないと加筆を続けて、けっきょくひとつも完成形をかたちにできなかった、妥協を知らない不器用なひと。
    『なに?』
    「……あの……来週、盆休み。そっち戻ってるから。僕――」
     そんなひとの代わりに、僕が、彼の愛するであろう青さ若さを武器に、踏み込んでしまおう。
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    965_jima

    PAST習作、聡実編。
    無題「好き」とは一体なんなのでしょうか。
     自分自身でも分からない感情の答えを求めて手当たり次第に聞きまわっても正確な答えは見つからず、でも「ただ好きで、それを伝えたいという感情の発露」という、最初に辿り着いた回答にはどうしたって首を縦に振ることができずにいます。
     これまで僕の周りでひそやかに飛び交い、または堂々と交わされてきた「好き」はもっと生き物としての本能というか即物的なものがほとんどで、だから僕は僕の中にあるこの気持ちを「好き」としてカテゴライズすることができずにいるのです。高校時代に遡れば修学旅行の夜、恋人に会いに行った同室のクラスメートや、今も講義の最中に手を取り合って抜け出していく同級生。そして夜半にはまだ早い時間、宿泊までの時間つぶしをしているであろうバイト先によく来る、ボックス席でべったりと隣り合って座るカップル客。どの例を取っても「好き」が生むその衝動は、最終的には公共の場で出来ないことをしたい、そんな即物的なものです。もっとはっきり言えば、それはきっと性的行為につながる「好き」です。けれど僕の中にある感情は、きっとそこには繋がっていません。
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    965_jima

    MOURNING1944、互いの気持ちを察しながら未だ付き合えてないふたりの、たぶんそのうち聡狂になる話です。例の泣き顔のモナリザを捏ねたかった話。
    ※聡実くんの友達♀の名前を便宜上「マナ」にしています
    ※非ネイティブ関西弁
    首洗って待っとけ意気地なしダヴィンチ どうしてファミレスの壁に名画のレプリカがあるのか、といういまさらな疑問を、最近になって周囲にいるいろいろな人にぶつけている。流石に偉い人に聞けたことはないけれど、尋ねた何人かのバイト仲間たちは誰一人その明確な理由を知らなかった。曰く、イタリアっぽいから。曰く、高級感を醸し出すため。なるほどどれも有り得そうやなと思いながら、けれど「親に連れてこられる年齢の頃から芸術に触れるため」と言った先輩には「でもこの間ちっちゃい男の子のお母さんがその子の口塞いでましたよ、そんなことお外で大声で言うもんじゃありませんって」ってやんわり教えておいた。体感、一週間にひとりはその手の子供がやってきて、親から怒られたり口ふさがれたり一緒に笑ったりしている。そやねん、子供って芸術とかどうでもいいし見えたもんを見えた通り素直に言うし、しょうもない下ネタで笑うよな、と思ったけれど、自分にはそういったことで笑っていた記憶はない。
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    965_jima

    MOURNING1944、たぶん一番読んでいただいている話だと思います。
    この続きを今回書くつもりでした…(懺悔)(絶対後日形にします)
    かわいくてかわいくていとしくていとしい 十代の恋人、という存在についてだけなら、実はそんなに罪悪感はない。そもそも親父からして――マサノリのおふくろさんはそれなりの年齢やけれど――カツ子姐さんを見初めたのは彼女が十代の頃と聞いているし、周りの同世代の奴らも干支一回り下あたりからそれこそ自分の娘でもおかしくないような年齢の女を、それぞれ妻にするなり、囲うなり、している。特定の相手がいなかったのは組の中でも実は自分くらいのもので、まあ俺はそもそもあらゆる点でどっか普通とズレてるとこあるし、ヒモ時代も別に愛情とか持ってやってたわけと違うし、誰かを恋しいとか触れたいとか思うようなタマちゃうんやろな、なんて思いながらの二十年。
     いやもうそんなんとんでもない大間違い、青天のヘキレキ、ただ生後十日にして狂い始めた歯車と同じように、運命の相手も大きくズレた年齢に設定されてしもてただけなんと違うやろか、ということに気づくには少し時間がかかった。可愛がりたい、側にいたい、きっと会わせてもらえない甥っ子姪っ子の代わりに愛情をかける真似ごとがしてみたいだけやし、とまっとうな理由を捻り出して自分をだまくらかして、声をかけて呼び寄せて口実を作っては何度も何度も顔を合わせた。狭くて冷たくてしょうもない殺風景な部屋で数年を過ごしてもなお、心の一番深い場所に染み込んで消えない最後のソプラノ。あの微かに淡い色をたたえるまっすぐな瞳が俺のために涙をこぼす、その愛しい表情も。
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     秋。一年で最も実りのある季節。
     あぁ、今年も来てしまったと言わざるを得ない。大きく溜め息を溢した後ろで、恋人が笑っている。

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