Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    965_jima

    四半世紀腐のオタクやってる。今はサトキョ。
    twitter>@965_jima

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 8

    965_jima

    ☆quiet follow

    習作、聡実編。

    無題「好き」とは一体なんなのでしょうか。
     自分自身でも分からない感情の答えを求めて手当たり次第に聞きまわっても正確な答えは見つからず、でも「ただ好きで、それを伝えたいという感情の発露」という、最初に辿り着いた回答にはどうしたって首を縦に振ることができずにいます。
     これまで僕の周りでひそやかに飛び交い、または堂々と交わされてきた「好き」はもっと生き物としての本能というか即物的なものがほとんどで、だから僕は僕の中にあるこの気持ちを「好き」としてカテゴライズすることができずにいるのです。高校時代に遡れば修学旅行の夜、恋人に会いに行った同室のクラスメートや、今も講義の最中に手を取り合って抜け出していく同級生。そして夜半にはまだ早い時間、宿泊までの時間つぶしをしているであろうバイト先によく来る、ボックス席でべったりと隣り合って座るカップル客。どの例を取っても「好き」が生むその衝動は、最終的には公共の場で出来ないことをしたい、そんな即物的なものです。もっとはっきり言えば、それはきっと性的行為につながる「好き」です。けれど僕の中にある感情は、きっとそこには繋がっていません。
     好意はきちんと伝える、と豪語するタイプの友人がいますが、彼がしばしば示す好意は今僕が思い悩むに至っている「好き」と同じではないことを僕は知っています。好きなバンド、好きな漫画、好きなキャラクター。それらは確かに「好き」ではありますが、僕が今、自分が持てあまして名前を付けられずにいる感情と同等かどうか疑っているそれとは、種類の違うものです。もっとシンプルな好意でしょう。
     では僕の中にある何かがこの友人の示す好意と同等の感情なのかというと、それもまた明確に違う、と感じています。
     どういう関係なのかわからない間柄。突然声をかけられてまるで現実味のない日々を共有したかと思ったら突然連絡が取れなくなり、何年も経ってからまた唐突に目の前に現れ、さらに現れたかと思ったらその腕には僕の名前が入っていたのです。一体これにどういう感情を抱けばええねん。行動の原理が分からなさすぎて、その謎に翻弄されていて、シンプルな好意ですら抱きようがないのです。
     ないのに、僕の中にある感情は「好き」だと、また別の友人は言いました。彼女の言う「好き」は、きっとこれまで僕の周りで交わされてきた本能的、即物的なものとよく似たものです。
     ただ彼女が言うには、好きでもない人に価値のある行動などはしないんだそうです。二十歳以上も年下の、たかだか十八歳の、特に面白みもないただの学生の男が与えるハグに価値なんてあるのかどうか分かりません。けれどここへ至るまで約四年間、僕は突然目の前に現れたあの男に歌を教え、中学三年間の集大成を蹴って最後のソプラノを使い果たし、高校三年間はずっと頭の中から消えてくれないマボロシに囚われて戻らない青春時代を浪費し、今もプレゼントと称した貯金をしている。考えてみれば、その時々の僕にとって価値のある事ばかりです。
     けれどそう考えてしまうと、あの男は腕に消えない名前を刻み、僕が旅立つ日の空港に姿を現し、今も特に見返りなどないであろう食事を――一品三千円を超えるようなメニューでさえ、僕が請えば何の逡巡もなく注文してくれる――奢ってくれるのです。二百万を超える時計すら、僕に渡そうと手放してしまうのです。
     これを僕は、あの男にとって価値のある行動だなんて思ってはいません。ただ単に金銭感覚が違う、褒められない手段で手に入れたお金の、数ある使い道のひとつだとしか考えないようにしています。
     なぜならそう考えていないと、とんでもない結論が導き出されてしまうのです。
     あの男が僕をどう思っているかに、その行動原理に、名前がついてしまうのです。
     そしてそれはきっと僕の中にあって名前がつけられないでいるそれとは違い、きっと僕が認識している「好き」と同種のものなのです。生き物としての本能。即物的な行動に直結する感情。そういったたぐいのものです。
     そしてもし仮にそうだとして、想像をします。
     あの隈の浮いた真っ黒な瞳が僕を見て、低く絡めとるような声が僕の名前を呼び、熱を帯びた響きが僕に向かって「好き」を紡ぐことを想像します。
     そしてすぐに、これを想像してはいけなかったと深く後悔しました。火照る顔を両手で覆い、机上に広げたテキストの上に突っ伏しました。
     とても耐えられませんでした。
     今この瞬間、僕の中でこの感情に明確に名前がついてしまったことに、もう、耐えられませんでした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💘💘😭😭😭😭😭💘💘💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    965_jima

    PAST習作、聡実編。
    無題「好き」とは一体なんなのでしょうか。
     自分自身でも分からない感情の答えを求めて手当たり次第に聞きまわっても正確な答えは見つからず、でも「ただ好きで、それを伝えたいという感情の発露」という、最初に辿り着いた回答にはどうしたって首を縦に振ることができずにいます。
     これまで僕の周りでひそやかに飛び交い、または堂々と交わされてきた「好き」はもっと生き物としての本能というか即物的なものがほとんどで、だから僕は僕の中にあるこの気持ちを「好き」としてカテゴライズすることができずにいるのです。高校時代に遡れば修学旅行の夜、恋人に会いに行った同室のクラスメートや、今も講義の最中に手を取り合って抜け出していく同級生。そして夜半にはまだ早い時間、宿泊までの時間つぶしをしているであろうバイト先によく来る、ボックス席でべったりと隣り合って座るカップル客。どの例を取っても「好き」が生むその衝動は、最終的には公共の場で出来ないことをしたい、そんな即物的なものです。もっとはっきり言えば、それはきっと性的行為につながる「好き」です。けれど僕の中にある感情は、きっとそこには繋がっていません。
    1886

    965_jima

    MOURNING1944、互いの気持ちを察しながら未だ付き合えてないふたりの、たぶんそのうち聡狂になる話です。例の泣き顔のモナリザを捏ねたかった話。
    ※聡実くんの友達♀の名前を便宜上「マナ」にしています
    ※非ネイティブ関西弁
    首洗って待っとけ意気地なしダヴィンチ どうしてファミレスの壁に名画のレプリカがあるのか、といういまさらな疑問を、最近になって周囲にいるいろいろな人にぶつけている。流石に偉い人に聞けたことはないけれど、尋ねた何人かのバイト仲間たちは誰一人その明確な理由を知らなかった。曰く、イタリアっぽいから。曰く、高級感を醸し出すため。なるほどどれも有り得そうやなと思いながら、けれど「親に連れてこられる年齢の頃から芸術に触れるため」と言った先輩には「でもこの間ちっちゃい男の子のお母さんがその子の口塞いでましたよ、そんなことお外で大声で言うもんじゃありませんって」ってやんわり教えておいた。体感、一週間にひとりはその手の子供がやってきて、親から怒られたり口ふさがれたり一緒に笑ったりしている。そやねん、子供って芸術とかどうでもいいし見えたもんを見えた通り素直に言うし、しょうもない下ネタで笑うよな、と思ったけれど、自分にはそういったことで笑っていた記憶はない。
    3960

    965_jima

    MOURNING1944、たぶん一番読んでいただいている話だと思います。
    この続きを今回書くつもりでした…(懺悔)(絶対後日形にします)
    かわいくてかわいくていとしくていとしい 十代の恋人、という存在についてだけなら、実はそんなに罪悪感はない。そもそも親父からして――マサノリのおふくろさんはそれなりの年齢やけれど――カツ子姐さんを見初めたのは彼女が十代の頃と聞いているし、周りの同世代の奴らも干支一回り下あたりからそれこそ自分の娘でもおかしくないような年齢の女を、それぞれ妻にするなり、囲うなり、している。特定の相手がいなかったのは組の中でも実は自分くらいのもので、まあ俺はそもそもあらゆる点でどっか普通とズレてるとこあるし、ヒモ時代も別に愛情とか持ってやってたわけと違うし、誰かを恋しいとか触れたいとか思うようなタマちゃうんやろな、なんて思いながらの二十年。
     いやもうそんなんとんでもない大間違い、青天のヘキレキ、ただ生後十日にして狂い始めた歯車と同じように、運命の相手も大きくズレた年齢に設定されてしもてただけなんと違うやろか、ということに気づくには少し時間がかかった。可愛がりたい、側にいたい、きっと会わせてもらえない甥っ子姪っ子の代わりに愛情をかける真似ごとがしてみたいだけやし、とまっとうな理由を捻り出して自分をだまくらかして、声をかけて呼び寄せて口実を作っては何度も何度も顔を合わせた。狭くて冷たくてしょうもない殺風景な部屋で数年を過ごしてもなお、心の一番深い場所に染み込んで消えない最後のソプラノ。あの微かに淡い色をたたえるまっすぐな瞳が俺のために涙をこぼす、その愛しい表情も。
    3460