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    uxiro_xxxx

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    uxiro_xxxx

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    【嶺蘭SS】
    8月5日 / アイス

    #ういの夏の嶺蘭強化月間シリーズ

    ##嶺蘭SS

     愛車の洗車を終えた嶺二が冷房の効いた部屋に戻ると、ソファーでは蘭丸が真剣な面持ちで紙資料と向き合っていた。肩越しに確認できる紙のレイアウトを見るに台本であると分かった。嶺二は、シャワーを浴び汗を流し、着替えを済ませてから、リビングに戻る。そっと蘭丸の後ろに立ち、台本を覗くと、視線に気づいた蘭丸が振り返った。ギロリとした鋭い視線にギョッとなり、思わず嶺二は上体を反らせ「邪魔してません!」とアピールするような態度を取る。
    「嶺二、ちょうど良いとこ来た」
    「え、え?」
     蘭丸は身体を捻り、持っていた台本を開いて嶺二に見せる。嶺二は台本を手に取り、じっと見る。それは蘭丸が今出ているドラマの次の撮影分のものだった。
    「そのシーンの掛け合い、ちょっと練習してぇから、マーカー引いてないほう、本読みしてくれねぇか」
     手にした台本から顔上げると、嶺二はキラキラと目を輝かせた。
    「珍しい……! ランランがその手の頼み事をぼくちんにするだなんて……!」
     嶺二は台本を持ち、蘭丸の座るソファーの隣へと勢いよく腰かける。指定された役の台詞を追い、紙を捲る。二人の登場人物のみによる、討論のような対話の応酬が、A4用紙三枚半まで続いていた。そのボリュームに、嶺二は思わず息を呑んだ。
    「……これは確かに難関かも。自主練するよか、誰かに相手役をやって貰わないと、ちょっち厳しい感じするね」
    「だろ。それにこの相手役が……おまえもよく挨拶してる、某落語家俳優」
    「どひゃ〜〜! ベテランじゃん、余計難関だよ! そりゃあランランも昼からずっと台本と睨めっこしてるはずだぁ!」

     QUARTET NIGHTで取り組んだ『ファウスト』での熱演が功を成し、芝居の仕事も増え、その仕事一つ一つも、ある種の《期待》を蘭丸は感じていた。『ファウスト』では、嶺二演じるメフィストとの「駆け引き」の場面を筆頭に、感情表現はもちろんのこと、発声や台詞回しといった基礎的なテクニックも鍛えられた。新しい芝居に向き合うにも十分な経験が、今に繋がっている。
     そして今、蘭丸が向き合っているドラマの一場面は、『ファウスト』でも繰り広げられていたような、一対一の口論のような対話場面。緊張感が高まる、気の抜きようのない場面だ。加えて、本番の相手は、話術の達人とも言える落語家俳優だった。蘭丸は深呼吸をし、嶺二の台本の黙読が終わるのを待つ。
    「……ぃヨシッ! 概ね話の流れはわかったからいつでも来い!」

     *   *   *

     本読み練習を何回か通し、気づけば太陽は夕陽へと変わっていた。蘭丸は漠然とした不安感が払拭できたようで、背伸びをしてからぐたっとソファーの背もたれに、背中いっぱいを預けた。
    「だいぶ良い感じじゃない? あとはドラマだからある程度の声は拾ってもらえるだろうけど、ランランの声はどちらかと言うと沈みがちだから、気になったのはそのぐらいかな?」
    「的確なアドバイスまでありがとな」
     嶺二は蘭丸に台本を返し、蘭丸のほうに身を乗り出す。
    「あくまでぼくの感想だから。実際のとこは現場の人たちにお任せだよーん」
    「おう」
     台本が蘭丸の手元に戻り、嶺二も両腕を上げて背伸びをする。
    「オンエアが楽しみだな」
    「期待しとけ」
     いつになく柔らかい笑顔を向けた蘭丸に、嶺二は思わず笑みが溢れた。カーテンから差し込む夕陽が、嶺二の栗色の髪に橙の彩度を加える。

    「いつの間にか時間経っちゃったねぇ〜夕飯ついでに外食でもする?」
    「外あちぃだろ。今日はもうパスだ」
    「それは正解。とてもじゃないけど、外はもう懲り懲りって感じだったよ」
    「今日洗車するとか馬鹿かと思ったぜ?」
    「今日ぐらいしか無かったんだよん、ぼくちんも忙しいからさっ」
     嶺二は立ち上がり、キッチンへと移動する。蘭丸はソファーに座ったまま、カウンターキッチンから見える嶺二の姿を追う。
    「飯なら……この間買い溜めたやつとか、インスタントとかはあったよな」
     冷蔵庫を確認すると、蘭丸の記憶通りの買い溜めた物や、昨日の夕食の残り物が並んでいた。
    「うん。とりあえずランランがお腹空いて困る〜! なんてことは無さそ。もうちょっとしたらご飯の準備しよっか」
     蘭丸は「おう」と返答をし、壁掛け時計に目を向けた。嶺二が冷蔵庫を開けたついでに、冷凍庫を開けると、中に未開封のパピコは一袋あることに気づいた。
    「あ、ランラン今小腹空いてたりしない?」
    「ん、まあ多少は」
    「じゃあタイミングバッチリ〜っと」
     嶺二はキッチンからリビングへと移動し、パピコを開封する。二本組のパピコを分け、片方を蘭丸の白い頬に当てた。
    「はいっ」
    「つめたっ」
    「今日頑張ったランランへのご褒美だよ〜ん! シェアパピ〜?」
     避けようとする蘭丸の頬をお構いなしに、グリグリとパピコを当てると、蘭丸はそのパピコを奪い取った。
    「そんな謳い文句だったか? これ」
    「あれ? そだったっけ?」
    「どーだか」
     蘭丸は、同じように手に取ったパピコを、嶺二の頬に押し付ける。嶺二は目をぎゅっと瞑り、冷たさを感じ、けたけたと笑う。
     二人はまたソファーに並んで座ると、パピコの食べ口を開け、その冷たい甘さを頬張った。
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    uxiro_xxxx

    TRAINING【嶺蘭SS】
    8月17日 / 1/fゆらぎ

    #ういの夏の嶺蘭強化月間シリーズ
     全身を包む熱気、背中にじわりと広がる汗の感触、カーテンの隙間から差し込む日差し。遠くからは車の走行音と、蝉の鳴き声が聞こえる。暑さで寝苦しいながらも、眠気が勝ってしまう微睡みの中で、嶺二は今日がオフだと思い出し寝返りをうつ。日差しに背を向け、腕を前に出すと、すぐ隣の温もりに触れた。薄く目を開くと、こちらに顔を向けるように眠っている蘭丸が見えた。普段の、セットされた髪型とは異なり、あどけなさが見えるサラリとした銀髪。その隙間からは、長いまつ毛が下を向いている。ぐっすりと眠っているその寝顔は、普段の彼の気の強い態度からは想像出来ないような、緩んだ表情……無防備とも言える表情をしている。薄く開いた口からは、小さな寝息が聞こえる。カーテンから差し込んだ日差しは、蘭丸の白い肌のその首筋を照らす。嶺二はその日差しの当たる部分をなぞるように、指先を滑らせる。首、鎖骨、肩、胸……どくん、どくん、どくん。手のひらを伝う、心臓の音。その音が、自分の呼吸とシンクロするような感覚を覚えると、まるで身体のつながりはなくとも、蘭丸と一つになれたようにも思え、嶺二は安心感に包まれた。そうしているうちに、目蓋がゆっくりと視界を落とす。嶺二は蘭丸の胸に頭を埋めるように、寄り添って眠りについた。
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    uxiro_xxxx

    TRAINING【嶺蘭SS】
    8月10日 / ハート

    #ういの夏の嶺蘭強化月間シリーズ
     これはあいつへの労いだ。
     ここ最近、不規則な時間での仕事が立て続き、睡眠時間も十分にとれていない。あいつの場合、おれと違ってショートスリーパー気味なので、十分な時間を取らなくてもどうにかなる分、仕事にも今のところ支障をきたしていないようだ。しかし、それでも見えないところで疲労が出てきていることには違いない。それに加えて食事だ。最近はろくな食事が取れていないはずだ。シンクや冷蔵庫、インスタントのゴミの様子見れば一目瞭然だ。寿弁当だって、忙しすぎてかコミュニケーションが取れていないようで、最近は手配しているのを見ていない。相当忙殺されている。……とはいえ、あの快活な、あいつのお袋さんの人柄あってか、ついこの間は「母ちゃんに文句言われちゃったよ」なんて小言を言ってたから、親子関係に問題は出ていないようだが。……あいつんちの唐揚げ、そろそろ食べてぇな。ああいけねぇ、手が止まってた。今日は比較的早い時間に帰って来れると聞いていた。あまりの忙殺ぶりを察した日向さんが、各所に相談の上、スケジュールを調整してくれたとのこと。今でもこうやって、日向さんに迷惑がかかってんのはどうかと思うぜ? 日向さんだって自分の仕事があるんだからよ。……まあ、ありがたくもそんな配慮があってか、はやく帰ってくるあいつのために、おれは飯を作っている。あいつへの労い……いや、あいつと一緒に飯が食いたかった、だけ、かもしれない。あー、今のらしくねえ。あいつに聞かれたら面倒くさい絡みをされるから絶対に言わねえ。一緒に飯を食うなら、デリバリーでも、外食でも、なんでも良かったかもしれねぇが、そこはおれが振る舞ってやりたかった。労いと、日常の共有。何より、あいつがおれの作る飯を食いたいって、いつかの日に泣き言のように言ってから、振る舞うタイミングを失っていて……その後ろめたさにも似た使命感があった。
    2305

    uxiro_xxxx

    TRAINING【嶺蘭SS】
    8月4日 / 酔い

    #ういの夏の嶺蘭強化月間シリーズ
     玄関の開閉音と同時に強い物音が響いた。
     日付の変わる手前の時刻。リビングでうたた寝をしていた蘭丸は、その物音で目を覚まし、思わず立ち上がった。リビングのドアを開け、玄関に向かうと、嶺二が玄関から廊下へ倒れ込むように転がっていた。蘭丸は嶺二の側に駆け寄り、その背中を摩る。
    「おい、大丈夫かよ……って……クセェ」
     嶺二からは、汗臭さに混じった居酒屋特有の油っぽさとアルコール臭がした。「クセェ」その一言に反応するように、倒れていた嶺二がもぞもぞと顔を上げようと動く。汗ばみ紅潮した顔面が、蘭丸のほうを向く。
    「だははランラン。クセェってドイヒー」

     普段からふざけたハイテンションなノリが通常運転とはいえ、酒に呑まれるようなことあまりない。こんな風に悪酔いして帰ってくるなんてことも、蘭丸はあまり見てこなかった。……というより、決まって蘭丸が先に酔って記憶が飛んでいることがほとんどだった。いつかの日に「酔ってベロンベロンになったランランを介抱するぼくの身にもなってごらん?」と言われたこともあったが、逆の立場が来いと頼んだ覚えはない。今日は嶺二が出演していたドラマの打ち上げで、夜まで飲み会とは聞いていた。ヘラヘラと緩み切っただらしない顔を見せ、また床へと頭を突っ伏す。こんな状態でよくもまあ一人で帰って来れたものだと、蘭丸はため息をついた。しゃがみ込み、艶めいた栗色の頭に手を当て、軽くゆする。
    1848

    uxiro_xxxx

    TRAINING【嶺蘭SS】
    8月17日 / 1/fゆらぎ

    #ういの夏の嶺蘭強化月間シリーズ
     全身を包む熱気、背中にじわりと広がる汗の感触、カーテンの隙間から差し込む日差し。遠くからは車の走行音と、蝉の鳴き声が聞こえる。暑さで寝苦しいながらも、眠気が勝ってしまう微睡みの中で、嶺二は今日がオフだと思い出し寝返りをうつ。日差しに背を向け、腕を前に出すと、すぐ隣の温もりに触れた。薄く目を開くと、こちらに顔を向けるように眠っている蘭丸が見えた。普段の、セットされた髪型とは異なり、あどけなさが見えるサラリとした銀髪。その隙間からは、長いまつ毛が下を向いている。ぐっすりと眠っているその寝顔は、普段の彼の気の強い態度からは想像出来ないような、緩んだ表情……無防備とも言える表情をしている。薄く開いた口からは、小さな寝息が聞こえる。カーテンから差し込んだ日差しは、蘭丸の白い肌のその首筋を照らす。嶺二はその日差しの当たる部分をなぞるように、指先を滑らせる。首、鎖骨、肩、胸……どくん、どくん、どくん。手のひらを伝う、心臓の音。その音が、自分の呼吸とシンクロするような感覚を覚えると、まるで身体のつながりはなくとも、蘭丸と一つになれたようにも思え、嶺二は安心感に包まれた。そうしているうちに、目蓋がゆっくりと視界を落とす。嶺二は蘭丸の胸に頭を埋めるように、寄り添って眠りについた。
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